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少女は、俺の言葉にホッとしたように、ゆるりと頷いた。
(あ、危ねえ……! 通報されなくて良かった……!)
前世の営業スマイル(魔王版)が効いたのか、彼女のオロオロとした様子が少しだけ和らぐ。水色の髪が、その小さな動きに合わせてふわリと揺れた。
怪我がないと分かって心の底から安堵した。
だが、次の瞬間、サラリーマンとしての冷静な頭が冷酷な現実を突きつけてくる。
ここで「じゃあ」と別れてしまえば、この広い異世界で、無口な彼女と二度と会えなくなるかもしれない。
何としてでも、ここで繋がりを作らなければならない。
聖女リリスとの破滅ルートを回避するよりも、今の俺にとっては、この妖精の少女との未来を掴むことの方が100倍重要だった。
俺はもう一度、慎重に、そして必死に言葉を探し始めた。
??「……あ、……じゃあ………」
彼女は消え入りそうな声でそう言うと、ペコリと小さく一礼した。
そして、そのままトコトコと歩き出し、俺の前から立ち去ろうとする。
淡水色の4枚の羽が、人混みの向こうへと消えていく。
(待て待て待て! 終わる! 俺の初恋が5秒で終わる!!)
脳内のサラリーマンが大絶叫した。
ここで見送ったら絶対に後悔する。
ナンパなんて前世でもやったことはないが、背に腹は変えられない。
俺は本能のままに、長い足を一歩踏み出した。
「待ってくれ!」
人混みの中で、魔王の重低音ボイスが響く。
周囲の人間がビクッと怯えて足を止めたが、今の俺には関係ない。
俺は彼女の細い肩を掴まないよう、驚かせないよう細心の注意を払いながら、その前に回り込んだ。
??「………はい………?」
俺の必死の呼びかけに、彼女は顔を上げた。
翡翠の瞳が、不思議そうに丸くなっている。
(ああ、可愛い……。いや、見惚れてる場合じゃない!)
完全に不審者ムードの俺だが、ここで引いたら男がすたる。
俺はフードを少しだけ上げ、威圧感を消すために前世の営業スマイルを120%稼働させた。
「……急に引き留めてすまない。俺はアズリス、ただの旅の者だ。もし良ければ、君の名前を教えてくれないだろうか?」
ついに直球で聞いてしまった。
心臓がバクバクと鳴り響き、カンストした魔王のHPが緊張だけで削れそうな気分だ。
物静かな彼女は、じっと俺の顔を見つめている。
果たして、この恋の第一歩は実を結ぶのだろうか。
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