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エピソード9”戦明け”
緑色の木々の匂い、地面の肥えた土の匂い、ちゅんちゅんと甲高い鳥の声がナギの鼓膜を叩く。前会った時は漆黒に包まれていたのに。
「___お疲れ」
そう言い、ナギの顔を覗く可愛らしい青色の瞳の少女。彼女は淡い笑顔を浮かべている。
「うん。ありがとうユキ、そばにいてくれて」
「当然でしょ。でも無理しすぎないでね」
そう言う彼女の横顔は儚く見えた。
「ああ、何回も死ぬのはごめんだ」
「そうね……。ところでナギくん!私のこと思い出してくれた?」
期待と希望に満ちた顔をしている。
「ああ……まあ、少しは」
気まずそうな笑みを浮かべるナギに軽く笑い、応答する。
「そう、よかった…。きっと数々の困難が君を襲うかもしれないけど、私はいつだって君のそばにいるから。忘れないでね。」
「ああ。忘れないよ……絶対に」
彼女の美しく、明るい笑顔はどこか見覚えのある物だった。
懐かしく心を奪われるような。
「いつか君とこうして横で……ううんなんでもない。
もう目覚めの時が近いね……じゃあ、またね、ナギくん」
その時、ナギの視界は徐々に黒に覆われる___
___天井には古い電灯、おばあちゃんの家を想起させるような古い匂い、微かに聞こえる誰かの話し声。
「ナギ、ナギが起きちゃ!」
歓喜の声を上げる可愛らしい声。それは名前をつけたイチカのものだった。イチカはナギを上からじっと見つめ今にも泣きそうな表情だ。
「よしよし大丈夫だから、心配すんな。ただ全身筋肉だけど……あとさっきからコントローラー音がうるさいのが気になるかな……」
カチカチ鳴り響くコントローラー音の正体はシオンと黒髪の男。
「おい、それ、ハメ技ずるいって、ああくそ……」
「甘いねーミズキくん…….ハメ技を攻略してこそのゲームってもんよ」
得意げに話すシオン。
「おーい、ここはどこ、あなたは誰状態なんですけど。おーい聞いてる?」
「ああここは僕たちの家であり駄菓子屋ラララだよ」
横からナギの質問に答えたのは猫耳と尻尾があり、色素薄めの黄色っぽい毛に中性っぽい顔立ちの少年?だった。
「ありがとう猫耳の君そして君たちは?who are you?」
正直、パラレルから出てからの記憶は曖昧だ。
「僕はリア、あっちの黒髪はミズキ、あと今はいないけどここの主はユリさん、まあこんな感じ」
「ありがとう、リアくん」
軽く手を挙げながら応答する。相変わらず画面に夢中の二人を置いといて、情報収集を続ける。
「なあリアくん、ここって何市?今何日?」
「ああ、ここは桃源市、朧の隣だね、あと今は5月23日だよ」
「え、まじで?てことは丸一日寝てたってこと?欠席扱いされるじゃねーか」
「そうかもねーと言うより君たち二人、行方不明者として扱われてるよ?」
「まじすか!」
驚きの感情と学校休めて少し嬉しい気持ちが相互に作用しなんとも言えない感じがしているのはナギだけだろう。シオンはあの様子からゲーム仲間できた嬉しいって感じだろう。
そんなことを思いつつ、ふと立ちあがろうとした時、全身に痺れるような激痛が走る。
「い、ったーーー」
崩れ落ちるナギが何か掴むものを本能的に求めた。ふわふわした何かが目に入り、咄嗟に手を伸ばしがっしりと掴む。
「尻尾に……触るなーーー!」
同時に後ろ蹴りが飛ぶ。それは龍人族の子ほどではないが結構な威力で、吹き飛ばされる。
「うるさい」
「あっ、お前がぶつかった衝撃がこっちまで伝わってきたせいで、ファミコンの電源切れたんですけど!」
ミズキが迫ってくる。そしていきなり胸ぐらを掴み、顔を顰める。
「おいこらー。どう責任とんだオラー。今勝てそうだったんだぞオラー」
「いや、全然そんな事なかったけど……」
シオンの補足説明が入る。呆れた顔をしている事からまだ一勝もしていない可能性が高いことが伺える。
「まあシオンはゲーム最強だから、一勝もできないのはしょうがないよ」
と言いながら憐れみのため息をつきながら、ミズキの肩をポンポンと軽く叩く。
「おい……まだ何も言ってねーんだけど!負けてねーからまじで、次やったらボコボコだったわ」
「お前が?」
「殺す。今ここで真っ二つじゃ、ボケー」
と言い刀を構え、前傾姿勢になり、居合を繰り出しそうなポーズを取る。彼の様子はまるで修羅を連想させるような圧倒的な覇気を纏っている。
「やめりょー!ナギをいじめるなー」
ナギとミズキの間に割って入るイチカ。幼女に守られるナギの無力さが際立ってしまっている。
「おい、ミズキ、その辺にしときな」
低めの女性の声がこの空間を支配する。そして襖が勢いよくガッと音を立てる。
「目が覚めたか、少年。とりあえずhappy end って言いたいとこだが、色々話さなきゃいけないことがある」
「そうだな……こっちも色々聞きたいことがある」
役者はとりあえず揃ったと言うとこか、全員丸くなって座る。
そして長身の女……ここの主、ユリさんがタバコに火をつけ、フーッとタバコの煙を吹き出す。
「煙た!割と狭いからタバコNGでお願いします」
「くしゃいぞ、デカブツ」
イチカはナギの体に顔を埋める。
その時、ユリさんは鬼の形相を見せる。
イチカはビビってしまったのか何も言はずナギをさらに強く抱き締める。
「さあ、本題に入ってくださいよ、ばば…店長」
「お前、今ババアって言おうとした?」
「いいえ、そんなこと」
「減給かあいつの命選べ……」
“あいつ”が誰を指しているのはナギとシオンにはさっぱりだった。
「その二択なら減給で……三択目にお咎めなしの追加を要求します」
大きなため息をついて、ユリさんはこの返答を無視する。
冗談半分なのだろう。ミズキもリアもユリさんも呆れたような態度をちらつかせていた。
「……とりあえず、本題に入る。パラレルについてだ。お前らパラレルについてはどこまで知ってる?」
「いや全く」
シオンとナギが一言一句、完璧なタイミングで息を揃える。
「そうか……パラレルってのは名前の通りもう一つの世界だ。パラレルに長く身を置くと、帰って来れたとしても現世の人々はその人の存在を忘れる、そして世界のルールさえも書き換えられてしまうらしい」
「なんか……都市伝説みたいだな」
都市伝説と言うワードに反応したのかシオンの目に輝きが宿る。まるで餌を前にした子犬のようだ。
「都市伝説……ではないかな…….」
なんかごめん見たいな雰囲気を察知したのか、しょんぼりとその場で縮こまるシオン。こいつの反応はわかりやすすぎて逆に面白いまである。
「話を戻す。パラレルの存在は昔はほとんど、いや0に等しかったが、朧市でも最近、急に原因不明の行方不明者が増えているだろ?」
学校へ行く前に聞いていたニュースにそんなものがあったことを思い出す。
「ああ……」
「それは全部パラレルの影響だ……」
「つまり?」
シオンが結論を催促する。なんか全部妖怪のせいみたいなアニメを思い出してしまったがここはグッと堪えて、心の奥に留めておくとしよう。
「つまり、現実世界に侵食してきてるってこった。しかもうちらの調査結果では、あと3〜6ヶ月以内に世界は完全にパラレルに飲まれる。」
非現実的な話に脳の処理が遅れる。そして処理に忙しくあまり回ってない頭で出した一つの疑問。
「どうやったら、阻止できる?」
気づけばこんな事を言っていた。これは暗にこいつらに協力するという事を揶揄していると受け取らざる得ない。でも放って置けないのがナギ。まあ関わった以上、どうにかしたいものだ。
「そうだなー。パラレルの柱……まあ言い換えるとパラレルの神もどきだ。そいつらを全員殺し、核の人を殺すか、神を連れ戻すかだ……」
核。それはおそらくユキの事だ。ユキを殺すか神を連れ戻す……。苦渋の選択を迫られるナギ。
「核を壊すのほうが楽じゃね?」
シオンがポツリと発言する。
「それはダメだ!」
「なんで?」
「なんでって……殺すとかあんま良くないし…….ね!」
とりあえずユキの事は黙って置いた方が事が進むと考えた。そのうち彼女らにも話す予定だ……たぶん。
その発言に対して苦い顔をし目を逸らすシオン。
そして、今まで固く閉ざしていたミズキの口が重く開く。
「お前、パラレルの住人か?」
ナギに殺気を帯びた刺さるような視線を送る
「違……」
「最初から匂いがすんだよ。あっち側の、そいつと同じ匂いがっ」
金髪の幼女、イチカを睨みつける。
幼女の緑色の双眸は彼を捉えて瞳を揺らす。
「違う……」
「何が違うんだ?あの子をあんなにしたのはおま……」
「落ち着け!」
ユリさんの怒鳴り声が空間を支配する。そして部屋は静寂に包まれる。
「すまなかったな。一旦解散にしよう。少年は寝ていてくれて構わない」
そういうとみんなそれぞれ散らばる。
空が怪しくなっているのをナギの瞳が捉える。
ポツポツと滴が雑草を揺らす。
そして今日は無意味に過ぎるのである。
おまけ
なんとか第二章まで来ました。
これからもよろしくお願いします!
最近忙しめ……