――さて、神を超える為の課題だが、当然ながら研究は行き詰まる。神の写し身である人は、神を超えられない。そこで結論に達したのが、新たな人を創り出す事だ。新人類と云うべき存在を。
全ての生体に在る性別。これが全ての鍵を握るだろう事をベースに、人が神を超える為の計画――『新人類創成計画』が掲げられ、世界各国が総力を揚げての研究が進められた。
新たな命を意図的に創り出す。これは決して犯してはならない、禁断の領域だった。正に神に背く愚行。
だが人は踏み外し、そして背いた。
そして西暦2049年6月。遂に人は生み出してしまった。
最も優秀な男女の遺伝子を組み合わせ、幾多にも渡る研究の結果、最終レベル――臨界値『400%』を突破した新人類第一号を。
それは性別という枠を超え、両方を備え持ったアンドロギュノスで、究極の生体兵器でもあった。
新人類第一号は『type:Noctis』と命名。
そう、君達も知る狂座の創始者――ノクティスの事だ。
つまる所、ノクティスはこれより先の、未来からの人物。
何故未来の人物が、現代に居るのか?
それを説明するには、これから先の事を話す必要が有る……。
――人は神を超える事を証明した。それは同時に、この世界――神が創造した宇宙そのものの、真の支配者で在る事も意味する。
“臨界値『400%』超”
この数値がどういう事を意味するか、分かるかい?
簡単に言うと、常識を軽々と超える。つまり世の理に囚われず、宇宙の法則をも変える可能性を持つ、至高を超えた存在だ。
ノクティスの保有する能力は『時空』と『光速』。この力で人は、常識を覆す技術を得ようとした。
だがね……ノクティスが人に制御出来る筈が無かった。神を超えた存在が、その下に従う道理は無い。
ノクティスが神そのもので在る人類を淘汰する可能性を秘めた、最も危険な存在である事に、人が気付くには遅過ぎた。いや、最初から間違っていたのだよ……。
――西暦2050年1月1日。自身の力を認識した新人類第一号、そして最後となる究極の生体――“神を超えし者”ノクティスは、旧人類の排除を開始。
現代とでは比較にならぬ軍事を持つ未来が人類の力も、ノクティスの前では全くの無力だった。
ノクティスが人類排除を開始してから僅か24時間足らずで、人類は根絶の危機に陥る事になる。
そして遂に人類はノクティスを消す為に、自身が生み出した最悪の殺戮兵器――『核』を試みた。
結果、人類は当然のように滅亡の道を辿り、地球は死の星となった。
ノクティスはというと、神を超えた存在がそれ以下の物で倒せる訳が無い。つまりどちらにせよ、人類の滅亡は必然だったという訳だ。
諸悪の根元はノクティスでは無く、それを生み出した自らの傲りが人類の歴史に終止符を打った。
フフ……全く以て、自業自得としか言い様が無い。これは人が禁断の実を食してから始まった人類の有史より、定められた運命だったのかもしれないね。
――人類の歴史は此処に終幕し、途絶えた。だが全ての人類が根絶した訳でも無かった。
特異点と謂われる者。そして後天性でも、特に強大な能力を持った者は、極少数ではあるが生き残った。
まあそれ以下の、核シェルターに避難していた者達は即、ノクティスによって処分されたがね。
ノクティスは生き残った力の有る者達は、敢えて排除しなかった。利用価値が有ると判断したんだよ。
人類を滅亡せしめたノクティス。彼の行動原理は単純に一つ――“愉しむ”事のみ。全てを根絶してしまったら、愉しむ意味を失うと判断したノクティスは、彼等を自分の配下に置いた。
彼等には従う以外の道は、残されていなかったのだよ……。
――これで解ったかな? 狂座は“神を超えし者”ノクティスと、それに次ぐ力を持った能力者達で創られた組織だ。
そして狂座は死の星となった地球を見切り、銀河系――そして他天体にまで視野を広げ、無差別な全宇宙侵略を開始した。
超光速移動、そして時空間ワープ機能を備えた最新鋭城型宇宙船――『エルドアーク宮殿』を根城に……ね。
――未知の地球外生命体との遭遇、そして戦闘。
だが宇宙という枠に於いて、狂座の――ノクティスの前では全てが無力だった。
狂座はあらゆる天体を縦横無尽に駆け巡り、地球をも越える高度な文明を誇った星さえも容易に攻略。宇宙のあらゆる生命体を、片っ端から蹂躙。
ノクティスを頂点とし、最強に近い精鋭で構成された狂座は、正に宇宙最強最悪の軍団。全宇宙の真の支配者だったーー。
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「…………」
エンペラーが語る驚愕の事実を、皆が呆然と聞き入っていた。
狂座――未来の組織。そして訪れる人類の滅亡。
「ちょ……ちょっと待て。いくら何でも、そりゃ無茶苦茶だ。未来とかそんな、誰が信じると……」
だが余りにそれは、現実味に乏し過ぎた。当然、一番に反論したのは時雨だが、それも無理からぬ事。誰であろうが、これを素直に受け入れる方がおかしい。
「でも、それなら……」
言い淀む琉月。しかし頭ごなしに否定は出来ない。
狂座という組織が持つ、人智を超えた力や技術の数々を垣間見てきた彼等にとって、エンペラーの言った事実は信憑性に足るもの。そしてそれなら辻褄も合う。
「あぁ頭がおかしくなりそうだ……。んっ? だがちょっと待てよ? 狂座が未来で創られたとしてだ。じゃあアンタは一体何なんだ? 狂座はアンタと、あのノクティスってのが創ったんだろ? アンタの話では、まるで自分は部外者としてしか聞こえねぇんだけど……」
だが全てに納得は出来ない。時雨の言う通り、エンペラーは語り部ではあったが、聞く限りエンペラーとノクティスの関連性を見出だせない。
「まさか自分も未来人で、あのノクティスとやらの配下というオチじゃねぇだろうな?」
その真意の是非を問う時雨。一見、それが最も理にかなうように思えたが、それだと辻褄が合わない。エンペラーとノクティスは、あくまで対等に見えた。どちらが上でも、下でも無い。そんな理をも超えた、特別な関係に。
それに両者が何故か、既に死亡しているという謎もある。
そして雫との同一の関係性。そしてエンペラーとノクティスの両者が、特別視している悠莉についてもだ。
「まあ、話は最後まで聞くものだよ……」
一息置いていたが、エンペラーは再び語り始めた。
そう、これはあくまで序章。終わりとなる人類の滅亡と、新たな始まりの事柄に過ぎない。
全てに繋がる、本当の始まりは――
…