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今日は珍しく仕事が早く終わったので、亮平に連絡をしてみた。
土曜日だから、もしかしたら亮平も休みかもしれないと思って、液晶をたぷたぷとフリックしていくが、気持ちが早って何度か打ち間違ってもどかしさが募った。
「今日早く終わったんだけど、この後会いに行ってもいい?」それだけ送ると、10分ほど経って、返事が返ってくる。
「うん、俺も会いたいと思ってた。ご飯作って待ってるね。」
心の中で「うぉぉおおおおぉ!!」と叫ぶ。了承の返事をもらった瞬間、車のエンジンをかけて、駐車場を出た。
亮平とこうして一緒にいられるようになってからは、いつでもどこにでも行けるように、可能な限り車で移動するようになった。タクシーも深夜は捕まらないし、電車も終電になれば動かない。こうやって急に会えるようになることもある。いつ何があってもいいようにと、車で来ておいて良かったと改めて思った。
違反しないように安全運転で、気持ちだけはハイスピードで目的地まで向かった。
亮平の家の前には駐車場がなかったことを途中で思い出して、近くのコインパーキングを探してそこに駐車した。家までの道のりは自然と早足になって、口角も上がっていく。
もうすぐ、もうすぐ、と心臓が高鳴る。
きっと、いつまでも、俺は亮平にこうやってドキドキするんだろうなって、そんな気がする。何度も会っているのに、いつだって新鮮な気持ちがする。
少しだけ緊張している息をほぅっと吐いてから、インターフォンを押した。
部屋に通してもらうと、亮平は料理の真っ最中だった。
俺も手伝いたくて、一緒にキッチンへ立った。
と言っても、何をしたらいいかわからなくて、右往左往していると、亮平が「これ、お皿に盛ってくれる?」と促してくれた。
亮平が作ってくれたご飯を一緒に食べながら、最近あったことについてお互いに話す。
なんでもないこと、楽しかったこと、たくさん話して二人で笑い合った。偶然が何度も重なったことから共通の知り合いが増えて、俺たちの話はより一層深くて濃い物になっているような気がした。
「それでね、ラウールくんが好きな人に再会できたんだって!」
「えぇっ!?ほんとに!?」
「オーナーからこの間連絡をもらったの。ラウールくんが春から就職する職場の先輩なんだって!それから、その人、オーナーの高校時代の後輩さんなんだって!」
「すごい…!またここでもいろんな人が繋がるんだね」
「「世間って狭いね」」
ぴったりと重なった言葉に、二人で笑った。
亮平と出会ってから、俺の世界がより一層賑やかになった。毎日が楽しい。俺の周りには、いつの間にかいろんな人がいた。大切な人が増えていくことにとても幸せを感じた。
ご飯を食べ終えて、二人で洗い物をした。
亮平が泡をつけてスポンジで擦ったお皿を、俺が水で流す。リレーのようで楽しかった。
食後にコーヒーを飲みながら、ソファーに背中を預けてまったりしていると、不意に亮平の携帯が振動した。
「あ、オーナーからだ。ごめん、出てもいいかな?」
「うん、いいよ。」
「ありがとう。…もしもし?」
「…あ、はい!そうですね!…そろそろ決めないと…お祝いのパーティーだから、ラウールくんの好きな物をたくさん作りたいですね!日にちも決めないとですし…」
…お祝いパーティー?ラウール?
オーナーのお店で集まってやるのかな??
ラウールが主役ってことは、就職祝いとかなのかな?
初めて知った。亮平とオーナーが打ち合わせしてるってことは、しょっぴーはなにか知ってるかも。聞いてみようかな。
俺はスマホを開いて、しょっぴーに連絡してみた。
「ねぇ、しょっぴー。ラウールのお祝いパーティーの話、なにか知ってる?」
「おい、バカ、ここで聞いてくんな!!」
「え?」
「なになにー?パーティー?!」
あ。佐久間くんだ。あれ?しょっぴー個人のトークルームと、メンバーのグループチャットと間違えたみたい。まぁいいか。
俺はそのまま返信した。
「しょっぴー知ってたの?」
「涼太がここ最近、毎日その計画の話、家でしてるからな。」
「なんで教えてくれなかったの?ラウールは俺らの友達でもあるのに」
水臭いなぁ、なんて思っていたらポンッと音が鳴って、岩本くんとふっかさんからもメッセージが飛んできた。
「パーティーってことは、またケーキ食べれるの?」
「照が太んないのがほんと不思議。とりあえず、ラウールが主役のお祝いパーティーがあるってことね?お前らのスケジュール調整するわ。うまいもん食えるぞー!!!」
「いええええぇぇぇぇぇぇぃい!!!」
「ケーキ!!差し入れにタピオカ持っていく!!」
「プレゼントみんなで選んで買いに行こうよ!!」
佐久間くん、岩本くん、ふっかさんが会話に参加していって、どんどん盛り上がっていく中、スマホが振動したので、一度グループチャットを閉じて、通知を確認すると、しょっぴーからだった。
「…こうなると思ったからだよ………。お前マジでさぁ、、個人の方で連絡してこいよ…。」
とりあえず「ごめんね」と返しておいた。
グループチャットはずっと鳴り止まなくて、しょっぴーが頭を抱えている姿が頭に浮かんできた。俺の隣では、まだ亮平が楽しそうにオーナーと電話していた。
「…へー!オーナー達はそういうところに出掛けるんですね!なるほど…えっ!?いや、、、俺は機会があったら…」
「…あ、確かに!夜だったら人も少ないし、あそこは綺麗ですよね!…はい、ちょっと聞いてみます」
…流石に長くないか?
お祝いパーティーの話はどこに行ったんだ?というくらいに、話題がどんどん変わっていく。俺にとっても、亮平にとっても、オーナーは大切な人だから仕方がないけど、少し寂しくなってきた。
亮平の髪を撫でてみたり、耳に触れてみたり、手を握ってみたり、そろそろ構って、俺のこと忘れないで、とアピールしてみた。しかし、その甲斐も虚しく、スマホを片手に上目遣いの 亮平に人差し指で唇に触れられ、小さな囁き声で、「だぁめ」と言われてしまった。
「ん“ん”ッ…かわい”い“……」
亮平の可愛さはとんでもない破壊力で、俺はソファーの上で、ひとりずっとのたうち回っていた。
パーティー当日、ラウール以外の全員が集合時間通りに集まった。
どういう手を使ったのか、俺たち全員のみっちりとしたスケジュールを見事に調整し、尚且つ差し入れを買う時間まで作ったふっかさんは、本当にすごい。
本日最後の仕事は、全員で出演させてもらった歌番組の収録だったので、俺たちはその足でふっかさんが運転してくれる車に乗ってオーナーのお店まで向かった。
亮平もすでに到着していて、オーナーと一緒にご馳走の準備をしていた。
カフェのテーブルを全部繋げて一つにしてあるその上に、次々と料理が置かれていく。
俺たちは、買ってきたお酒やプレゼントを袋から出して準備を始めた。
それから、ほとんどは佐久間くんが手当たり次第にカゴに入れたパーティーグッズも、ビニールを剥がして出していった。パーティー用のバズーカ砲、クラッカー、「今日の主役」と書かれたタスキ、ギラギラと輝く虹色の謎のサングラス。
ローマ字の形をした風船を、俺と佐久間くんとしょっぴーで膨らませた。
誰がいちばん早く膨らませられるかの対決がいきなり始まったが、何度やってもしょっぴーの圧勝だった。
勝負に負けた佐久間くんが悔しがっている間にも着々と準備は整っていき、飾り付けも料理も全て完成した。
タイミングを見計らったようにドアが開く音がして、ラウールが「こんばんは!」と言いながら入ってきた。
「わぁ!すごい!!いつものお店じゃないみたい!風船すごい!」
「だろー?俺ら頑張ったんだぜ!」
「佐久間くん、あんなに高いところに付けられたの?すごいね!」
「おぉい!誰がチビだ!」
「キャハハ!みんな来てくれると思ってなかったから嬉しい!しょっぴーが呼んでくれたの?」
「俺は嫌だって言ったんだけど、こいつら聞かないし、涼太が良いって言うなら、俺はそれで良いから」
「相変わらずやきもち焼きでツンデレだね」
「…うっせ」
ラウールと俺たちが話しているところに、キッチンから亮平が戻ってきたので、俺は迷わず抱き締めた。
「亮平、お疲れ様。ご飯ありがとうね」
「いえいえ、楽しみだね。蓮くん、ちょっと苦しいよ?」
「あと少しだけ抱きしめさせて。今日初めて会ったから、充電したい。」
「もう、しょうがないなぁ。ふふっ」
お祝いパーティーが始まる前から盛り上がる空気を割くように、また、カランコロンとドアが開く音がした。
「すまん!遅れてしもうた!式、長引いてもうて!…って、おっと?」
「あっ!向井さん…っ!お疲れ様です!」
「康二、お疲れ様」
「ちょ、だて、村上くん!初めましての人こんなおったん!?流石に多すぎひんか!?」
「まぁまぁ、みんなラウールのお友達なの」
「ほうか、ほんならちゃんと挨拶せなね。どうも、みんなの万能調味料こと、塩麹よりも向井康二です。ラウールが就職する結婚式場でカメラマンさせてもろうてます!」
この人が、この間亮平が言っていたラウールの好きな人か?
明るくて、優しそうな、いい人って感じがする。関西弁でコロコロと話すのが、なんだか可愛らしかった。
みんなも向井さんの登場に驚いてはいたものの、オーナーとラウールの知り合いだと言うことで納得し、喜んでいるようだった。
「さぁ、これで全員揃ったし、まずは乾杯しようか」
オーナーの一声で、みんながテーブルにつく。
全員の手にグラスが渡り、視線が一斉にラウールの方へ向く。
少し驚くように目を開くラウールだったが、気を取り直して口を開いた。
「今日は、みんな忙しいのに来てくれてありがとう!僕、これからもたくさん頑張ります!それから、みんなともっと仲良くなれたら嬉しいです!じゃあ、かんぱい!!」
ラウールの掛け声に続けて、みんなで「乾杯!」とグラスを掲げた。
ラウールは目の前に並べられたご馳走に目を輝かせていて、その様子を亮平とオーナーは嬉しそうに眺めていた。
「唐揚げ!お寿司!いくら!ちっちゃいハンバーガーもある!かわいい!」
「好きなだけ食べてね、阿部も手伝ってくれたんだよ」
「そうなの!?嬉しい!!阿部ちゃん、ありがとう!」
「いえいえ、喜んでもらえてよかった」
向井さんは、さっき会ったばかりとは思えないほど楽しそうに、俺たちに話し掛け続けていた。
「なんや、みなさんえらい男前のええ顔しとるなぁ。だてもべっぴんさんやけど、こうもええ男ばっかりやと、気後れしてまうわ。」
「涼太を褒めるな。それを言っていいのは俺だけ。」
「そんな言わんでええやんか!相変わらず、しょっぴーはだてのことになると、途端にケチケチすんねんから」
「え、翔太知り合いだったの?!」
俺も佐久間くんに同意だ。しょっぴーは向井さんを知ってたのか。
「涼太と俺、高校同じ。こいつ、後輩。たまにうち来るけど、今日来るとは思ってなかった。」
「すんごいね!」
「向井さん、タピオカ好き?」
「おお、、いきなりやな。好きやけど。それに康二でええで?」
「じゃあ、遠慮なく。康二一緒に飲もう?ここのすごい美味しいの」
「ん…ほんまや!めちゃめちゃうまい!」
「んふふ、よかった。」
岩本くんはタピオカ仲間を見つけられたことにニコニコと笑って、嬉しそうにしていた。
「阿部ちゃん、海老のお寿司取って〜」
「はいはい。ほんと海老好きだね」
「うんまいもん。」
ふっかさんは珍しくずっとご飯を食べていた。ご飯食べてるのかなって心配だったから、少し安心した。しかし、その細い体のどこに入っていってるんだというくらいに、ずっと食べ続けているので今度は吐かないかと、不安になった。
みんなのお腹も膨れたところで、オーナーが席を立ちキッチンの方からケーキを運んできた。オーナーのお手製だというそのケーキは、全体にコーティングされたチョコレートがツヤツヤとしていて、所々にキラキラと輝く金箔が散りばめられていた。
佐久間くんがハッとしたように椅子から立ち上がって、用意していたバズーカ砲を担ぐ。ふっかさんもクラッカーを構えて、岩本くんは今日しか使い道がないだろう、あの謎のサングラスをかけた。しょっぴーは呆れたように自分のメンバーとマネージャーを見ていた。俺は完全に出遅れてしまったので、そのまま座っていることにした。
「改めて、ラウール、就職おめでとう」
「おめでとうー!」
パンッ、と言う音とともに、紙吹雪があたり一面に舞う。
甲高い声で笑うラウールは、とても楽しそうに見えた。
大切な人がこうやって喜んでくれる、その人の幸せな瞬間に自分が立ち会える、全部嬉しかった。今日、ここに来られてよかった。
「俺たちから」と渡したプレゼントを、ラウールは嬉しそうに受け取ってくれた。
すぐに自分の思い通りに仕事ができる、とはならないだろう、でも、根気強く頑張って欲しかった。これまでも「向井さんにもう一度会いにいく」という目標に向かってずっと頑張ってきたのだから、絶対に大丈夫だとは思うが、そんな気持ちを込めた。
俺たちも下積みが長かったからこそ、今こうして、色々なところに出させてもらえるようになった、この景色を愛おしく感じる。
ラウールも、いつか自分の景色を愛おしく思うことができる時が来るはずだから、その時に着てくれたら嬉しいなという思いを込めて、岩本くん、佐久間くん、しょっぴー、ふっかさんとで、明るいオリーブ色のスーツを選んだ。サイズはおそらく特注になるだろうからと、事前にオーナーからそれとなく聞いておいてもらった。
遠慮されないようにと、そこまで値が張らないものにしたが、それでもやっぱりラウールは「本当にいいの…?」と眉尻を下げていた。
亮平とオーナーも一緒にプレゼントの用意をしていたみたいで、名前の刻印が入ったボールペンと印鑑を渡していた。
向井さんも、「俺が今まで使ってきた中で一番使いやすかったやつや」と言いながら、ラウールに四角い箱を手渡した。
中には、本革の手帳が入っていて、中身を入れ替えれば、ずっと使えるものだった。まだ硬そうな新品のその皮は、これからラウールが成長していくたびに柔らかくなって、深い色になっていくんだろう、と想像するとなんだか感慨深かった。
「みんなありがとうー!!」
いつの間にか俺たちの間にできた弟は、もらった全部のプレゼントを大事に抱き締めていた。
俺たちはみんなでニコニコしてラウールを見つめながら、甘いチョコケーキを食べた。
隣に座っている亮平を盗み見ると、亮平も幸せそうに笑っていた。俺の視線に気付いたのか、亮平も俺の方を見てくれる。
ふと、亮平の頭に、先ほど佐久間くんとふっかさんが撒き散らした紙吹雪の一片が乗っていることに気付いて、取ってあげると、同じタイミングで亮平も俺の頭に触れた。
「蓮くん、紙吹雪ついてたよ」
「亮平にも」
お互いの頭に乗っていたものを見せ合えば、なんだかおかしくて、くすぐったくて、おでこをくっつけて二人で静かに笑った。
大切だと思う人、誰と過ごしていたって楽しくて嬉しいけど、やっぱり亮平には敵わない。亮平が隣にいてくれたら、祝福の紙吹雪一枚だけで、こんなにも幸福を感じる。
次々に込み上げてくる幸せな気持ちは、テーブルの下で亮平とこっそり繋いだ手の中に隠して、俺はみんなに気付かれないように、亮平の頬に口付けた。
To Be Continued………………
(next. season2 )
コメント
9件
あ〜幸せ🙏😭💖
見てるこっちが幸せになる🤭 あったかいお話でほんとに大好きです! Season1お疲れ様です!! Season2も楽しみにしてます🫶🏻🫶🏻
みんなが幸せそうで、何よりです❤️❤️ Season2楽しみにしています。