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season2 start.
「デートに行きたいです」
真面目な顔をしながら、俺の目の前で姿勢を正して 正座をした蓮くんは急にそう言った。
「デート…?」
「うん。亮平と二人っきりで出かけたいです。」
「どうして敬語なの…?」
「俺は真剣だよって伝えたくて」
「そ、そうなんだ…。」
「それで、いい…?デートしてくれる?」
「うん、すっごく嬉しいよ。俺も蓮くんと二人でお出かけしたいな」
突然の蓮くんからの申し出に俺は少し戸惑ったが、誘ってもらえたことはとても嬉しいので素直にそう伝えると、蓮くんは大きくガッツポーズをして「っしゃぁあ!」と喜んでいた。蓮くんもそうやって嬉しそうにしてくれるから、俺もとても幸せを感じた。
「ふふ、二人で夜ご飯食べにいったっきりだったもんね、外に出かけるのは。どこに行くの?」
「当日まで内緒、俺が目一杯亮平を楽しませるから。」
そう言って蓮くんは、俺の手の甲にちゅ、と口付けを落とした。
恥ずかしくて「もう!」と唸れば、蓮くんも照れくさそうではあるが、ケラケラと笑っていた。
今日は一ヶ月に一回、蓮くんがお泊まりに来てくれた日。
ラウールくんの就職祝いのパーティーも無事に終わって、あれから3ヶ月が過ぎた。
ラウールくんからは、毎日「やっぱりお仕事って大変だね!でも、たくさんの学びがあって楽しいよ!」という連絡が届く。たまに、向井さんとお昼ご飯を食べている時に撮ったのであろう写真も送られてくるのだけれど、そこに写っているラウールくんの顔は、いつもとても幸せそうだった。
話を戻すが、ラウールくんのお祝いパーティーが終わった後、うちに泊まった蓮くんに少しだけ提案をしてみたのだ。
「一ヶ月に一度、いつでもでいいから、うちに泊まってくれないか」と。
きっと忙しいだろうし、一ヶ月に何回もと言うのはさすがにためらわれて、俺は蓮くんにそう伝えた。俺が会いたいから、寂しいから、と言うだけの理由でこんな無理を言ってしまって申し訳ない、という気持ちから項垂れながらそう伝えれば、蓮くんは「マジで!?いいの!?」と嬉しそうな声を上げた。
それから、付け足すように「本当は毎日でも泊まりに行きたいくらいだけどね」と蓮くんは笑っていた。
それが、三月の頃だった。今は六月になって、蓮くんが四月から毎月どこかのタイミングで来てくれるようになったのも、これで三回目。
何をするでもなく、ご飯を食べて、一緒にテレビを見て、二人で眠りにつく。
それだけのことが楽しくて、幸せで仕方がない。
突然のデートのお誘いにはとても驚いたけれど、また蓮くんとの思い出が増えると思ったら、すごくわくわくした。
「来月の土曜日、この日朝、迎えに行くね」と言った蓮くんの言葉に頷いて、甘えるように蓮くんの肩にもたれてみた。蓮くんは俺の頭をずっと優しく撫でてくれていた。その手が温かくて、俺は夢見心地で目を閉じた。
翌朝、蓮くんを自宅から一番近いコインパーキングで見送って、俺も通勤のために駅まで向かった。
スマホが振動したので、内容を確認すると、オーナーから連絡が来ていた。
ロックを解除して、アプリを開く。オーナーとのトーク画面には、
「来週、買い物に付き合って欲しいんだけど、時間空いてるかな?」
と表示されていた。
「空いています!なんのお買い物ですか?」と返信すると、「どうしても欲しい服があるの」と返ってきた。
オーナーはオシャレさんだから、きっと流行りにも敏感なんだろうなと思いながら、「どこまでもお供します!」とまた返信した。
買い物に出かける日、オーナーと電車に乗って、大きなショッピングモールへ向かった。
目的地までの道中のお供として、俺たちはお互いの近況について話した。
「ラウールがね、入社してから二週間に一回くらいのペースでうちに来るの。ふふっ、仕事の勉強しながら、「おーなぁー、向井さんとご飯行きたいー」ってずっと言ってくるの。連絡先知ってるんだろうから、俺じゃなくて康二に言ったらいいのにね?」
「ドキドキしちゃうのかな、なんだか甘酸っぱいですね」
「それを言うなら、阿部達もだけどね?」
「えぇっ、そうですか?」
「うん、それに初めて会った時より、阿部がすごく明るくなったから、本当に目黒さんと出会えてよかったって思ってるよ」
「そんなに変わりましたかね…?お恥ずかしい…」
「ふふっ、あの頃の阿部、懐かしいなぁ。ねぇ?初めてのお客様?」
「そのお話には未だにびっくりしてます…。」
オーナーと話しながら歩いていると、あっという間にお目当てのお店に着いた。
オーナーは滅多に表情を崩さない人だけど、この時ばっかりは、目を輝かせていてなんだかとても可愛らしかった。
「そう!これがどうしても欲しかったの!」
そう言って嬉しそうに笑う顔はとても輝いていて、オーナーのその様子を通りかかる人たち全員が見ている。「かわいい」と呟く男性や、「かっこいい、足長い」と惚ける女性でお店の前が少しだけ混雑していた。
話には聞いていたけれど、渡辺さんが過保護なまでにオーナーを心配する気持ちが、実感として俺の中にも湧き出していった。
一方で、オーナーはそれに全く気が付いていないのか、大切そうにお目当ての洋服を抱き締めてレジに向かっていった。
オーナーの買い物が終わった後、同じ建物の中に入っているご飯屋さんで一緒にお昼ご飯を食べた。
「今日はお店の方は大丈夫なんですか?」
「うん、今日はこの洋服がどうしても欲しかったから、夕方から開けようと思って、朝から昼まではクローズにしてるの」
「そうだったんですね」
「自営業はこう言う時に自由がきくから、たまのちょっとで甘えちゃった」
「たまにはお休みすることも大事なのでいいと思いますよ?」
「ふふ、ありがとう。それより、目黒さんとは最近どうなの?」
「おかげさまで、変わりなく仲良くさせていただいてます。それから、蓮くん、一ヶ月に一回だけ泊まりに来てくれるのでとても幸せです。」
「そっか、いいね。もう、一緒に住んじゃえば?」
「えっ!!?」
オーナーの言葉に驚いて、動揺から持っていた箸を落としてしまった。
「満足できる?一ヶ月に一回で」
「そ、それは…」
図星だった。
本当はもっとたくさんの時間を共有したいし、会えば手を振る時に、余計に寂しさが募っていくばかりだった。だけど、蓮くんの今の生活が崩れてしまうのは申し訳なかったし、第一、忙しい蓮くんにそんなことを考えさせてしまうのはどうなのかと思うと、自分のこの欲求に踏み込んで突き詰めていくことができなかった。
「遠慮してないで、もっと欲張りになったらいいのに」
そう言ってくれたオーナーに、俺は下を向きながら「考えてみます」と答えた。
お腹もいっぱいになったところで、オーナーは「阿部、どこか見たいところはある?」と聞いてくれた。あまり物欲は無い方だし、特に必要なものもなかったよな?と思考を巡らせていって、一つの不安に思い当たった。
いつまでもオーナーのおんぶに抱っこ状態で、大変申し訳ないのだが、自分だけではどうすることもできない分野なので、思い切って甘えてみようと、申し出た。
「あの、、来月、蓮くんと出かけるんですが、、その…いい感じの服がなくて…一緒に選んでもらえませんか……すみません…」
「あははっ、お安いご用だよ。いろいろ見て回ろうか」
楽しそうに笑ってモールの中を歩き出すオーナーの後ろを「すみません…」と言いながら着いていった。
「夏だし、涼しそうな色がいいね」と言いながらオーナーが服を選んでくれた。
「何か一つは阿部らしいものを選ばなきゃ、せっかくのデートなんだし」そう言って、一つだけ俺が選んだものにオーナーがアイテムを付け足していく。
無難なものをと手に取った、ゆったりとした薄手のクリーム色のシャツに、オーナーは同じ色のリボンタイと、青空色のぼったりしたジーンズ、通気性の良さそうな夏用のベレー帽を選んでくれた。急に天気が崩れることがあるかもしれないからと、若草色の大きめのショールも付けてくれた。オーナーは、靴紐がついたタイプのローファーも手に取って、試着室へ向かった。
試着してみると、いつもの自分じゃないくらいにオシャレな自分が目の前の鏡に映っていた。
「うん、いい感じだね。阿部の可愛さが引き立ってる。よかった。」そう言ってくれたオーナーの流石のセンスに感服しながら、俺は全て脱いで、レジでお会計をした。
紙袋を提げて、オーナーと電車に乗り、一緒に家の最寄り駅で降車した。
オーナーのお店の前で二人立ち止まって、俺はオーナーに頭を下げた。
「今日はほんとうにありがとうございました!」
「いえいえ、それは俺のほうこそだよ。買い物、付き合ってくれてありがとね。一人で行くのもいいんだけど、誰かと行くのはもっと楽しいから、誘ってみてよかった」
「俺のほうこそとても楽しかったです!」
「じゃあ、またね。」
「はい、お仕事頑張ってください!」
「ふふ、デート、楽しんでね?」
「っ……はい…」
顔が火照るのを感じながら、俺はオーナーに手を振って自宅へ向かった。
自宅に着いて、買ってきたばかりの洋服のタグをハサミで切っていく。
一つ一つビニールの紐を取りながら、当日はどんなところに行くのかな、と考えると、うきうきと心が弾んだ。
「楽しみだな、ふふっ」
自然と溢れたその声は、新品の服の匂いに混ぜて包み込んだ。
「あと、三日…お店は予約した…ナビも全部保存しといた…服も決めた…あとは、あとはなんだ…?」
亮平とのデートがあと三日というところまで迫ってきて、準備に足りないところはないかと何度も当日のシュミレーションをしていた。
大体は全部終わったと思うのだけれど、それでももっといいデートにできるんじゃないかと思うと、今のままでは何かが足りないような気がしていた。
必死に頭を回転させて考えていると、耳元で「ブツブツうるさい」と声がして、座っていた椅子から飛び上がって、その拍子にバランスを崩して床に尻餅をついた。
「いってぇ…」
「フハハハァッ!!だっせぇ!」
「何すんすかしょっぴー…」
「ずっとブツブツ言ってるお前の方が怖ぇわ。また阿部ちゃん?」
「はい!明々後日、デート行くんすよ!」
「あっそ。」
楽屋で俺に話しかけてくれたしょっぴーを見ていたら、いいことを思いついた。
「ねぇ、しょっぴー。しょっぴーはデートする時、どんなことするの?」
「は?」
「ねぇ、教えてよ。亮平をかっこよくリードしたいんすよ!!」
「阿部ちゃんの好み知らねぇもん。阿部ちゃんに聞けよ」
「それじゃあサプライズにならないじゃないっすか!」
「自分で考えなきゃ意味ねぇだろ。阿部ちゃんを好きって気持ちがあればなんでも喜んでくれるんじゃねぇの?」
「「阿部ちゃんを好き」ってしょっぴーの口から聞きたくない。そんなこと言わないで。しょっぴーにはオーナーがいるでしょ?」
「なんなんだお前…」
「でも、そうか、俺の好きを亮平にたくさん伝えればいいんすね。よし、頑張るぞ。朝迎えにいってまずはこうで…それから、あそこに着いたらこうやってで…うんうん、よし…いい感じだ……」
「絶対に伝わっちゃいけない方向に伝わったなこれ。めめー?おーい……だめだこれ。」
亮平と会えるのは、もう少し、あと少し……。
朝、七時に起きて支度を始めた。
前日の夜、10時に迎えに行くね、と蓮くんから連絡をもらったので、三時間もあれば流石に満足のいく状態まで準備ができるだろうと、アラームをかけていた。朝の少しだけ眠い目を擦って洗面台へ向かった。
顔を洗えば、頭もスッキリ目覚め始める。
顔がパリパリしないように、化粧水をぴたぴたと肌に叩き込んだ。
部屋着を脱いで、オーナーに選んでもらった服に着替える。
一式身につけてみて、時間にゆとりもあることだしと、髪の毛をセットしにまた洗面台へ向かった。
帽子を被るから片方の耳は出してみようと、髪をかける想定で緩くウェーブをかけていく。全体的に可愛らしい服装だから、前髪は分けずにまっすぐ下ろした方がいいかもしれないと、目にかからない程度にアイロンをかけた。
バキバキにならないようにしっとりしたバームで、セットした髪に束間を持たせれば、我ながらなんだかいい感じに見えた。
ところが、帽子をかぶっても変じゃないかな?と軽くかぶってみた瞬間、髪型と相まって少し可愛すぎるんじゃないかと急に不安になってきた。年相応には見えなくて、「いい大人なのに…」とか、「余計なことしたかな」と思ったが、時すでに遅し。もう直せない。何度同じ失敗を繰り返すんだと自分に呆れながら、できるだけのことをしてみようと何度も髪をいじくり回した。しかし、どうにもならなくて、大人しく一番最初にセットした状態のままで諦めることにした。
朝の支度や着替え、ヘアセットをしている間に2時間半が経過していて、気付けば時刻はもう九時半だった。
もう少しで蓮くんが来るからと、戸締りも済ませてソファーの上で本を読みながらお迎えを待つ。
十五ページほど読み進めたところで、インターフォンが鳴ったので応答すると、スピーカーから「目黒です」と声が返ってきた。
小さなカバンを持って、電気を消し、いつも玄関の靴箱の上に置いている鍵を掴んだ。
「いってきます」と心の中で唱えて、ドアノブを思い切り捻った。
「蓮くん、おはよう。お迎えありがとう!」
玄関の前に立っている蓮くんにそう挨拶をすると、蓮くんは瞬きもせずに俺をずっと見ていた。目元が乾燥で潤み始めると流石に心配になったので「大丈夫?目乾いちゃうよ?」と蓮くんの肩を叩いて声を掛けた。
「はっ!!ごめん。亮平が可愛すぎて心臓止まってた。」
「えぇ、、?」
「ほんとにかわいい。帽子もリボンも、亮平にぴったり。すごくかわいい。食べたい。大好き。」
「ぁ、ありがとう…恥ずかしいからそんなに可愛いって言わないで…。子供っぽくない?」
「ううん、よく似合ってる。亮平の可愛さが際立ってる。」
「そ、そっか、、、うれしいな…」
いつものことだけど、たくさん褒めてくれる蓮くんの言葉が嬉しくて、思わず笑うと蓮くんはぎゅっときつく俺を抱き締めた。
「れ、れんくん…ちょっと、、、ぐる“じい“…っ」
「かわいい、マジかわいい…なにそのふにゃぁっとした笑顔…かわいすぎてつらい…」
いつまでもこの状態でいるわけにもいかないので、強い力でしがみついてくる蓮くんをやっとの思いで引き剥がして、二人でアパートの廊下を歩いていった。
家の前に車を停めていてくれたみたいで、蓮くんは流れるように助手席のドアを開けてくれた。
「ありがとう」と伝えて車に乗る。
行き先がわからなくてドキドキする。でも、それだけだろうか。
蓮くんといる時はいつも胸が高鳴る。無意識に上がっていく口角を隠すように口元を両手で隠して、必死に平静を保ったように見せた。
「ここ、俺のお気に入りの場所」
そう言って蓮くんは海に連れてきてくれた。
俺たち以外に人は誰もいなくて、お誘いを受けた時に蓮くんが言っていたみたいに、本当にこの世界に俺と蓮くんとで二人きりになったみたいだった。
「すごい!綺麗だね!」と年甲斐もなくはしゃいでしまう俺を見ながら、蓮くんは「気に入ってもらえてよかった」と笑った。
近くにあった流木の上に二人で腰掛けて、引いては返す波と水飛沫を眺めながら、蓮くんと手を繋いだ。
「蓮くん、ありがとう。こんなに綺麗なもの、こんなに好きな人と見たの、初めて。」
「俺も亮平と一緒にここに来られてすごく嬉しいよ。」
「俺も、この場所、すごく好きになった。」
「また一緒に来よう?来年も再来年も、その次の年もずっとずっと二人でここに座って、一緒に海を見よう?」
「うん、蓮くんがそばにいてくれる限り、俺もそうできたらいいなって思ってるよ。」
どうしても自信が持てなくて、自分の望みも願いも言い切れない俺に前を向かせるように、もっと蓮くんに愛されている自分を強く信じろと言うように、蓮くんは俺に口付けた。
誰もいない初夏の海辺に、小さく鳴ったキスの余韻は波の声に攫われていった。
潮風が冷たく感じて、オーナーが選んでくれた若草色のショールを蓮くんと一緒に羽織った。
二人分の体温がショールの中に集まって、体も心もぽかぽかした。
「寒くなってきたから、そろそろ行こうか。」と蓮くんが俺の手を取って歩き出していった。この手に引かれて、どこまでも一緒に歩いて行きたいと思った。
俺の前を歩く大きな背中をいつまでも見ていたいと思った。俺でもいいなら、いつまでも支えさせて欲しいと思った。
口に出す度胸は無くて、蓮くんに伝えられはしないけれど、そのもどかしさも切なさも一緒くたになって胸に染み込んでいった。苦しくて、心地よくて、きゅぅうっとせりあがってくる気持ちを繋いだ手に込めるように、少しだけ強く握り返した。
車を少し走らせた先に佇んでいる、お客さんが誰もいないラーメン屋さんでお昼ご飯を食べた。
「ここ、お客さんいつもいないんだけど、すごく美味しいの。デート向きじゃないかもしれないけど、こういうとこも亮平と来てみたかったから。」
そう、頬を掻いて申し訳なさそうに言う蓮くんに、「蓮くんとなら、どこにいても楽しくて嬉しいよ」と、思ったままに伝えた。
蓮くんはぱぁっと少年のように笑って、ラーメンを勢いよく啜った。
ご飯を食べた後は、蓮くんがいろんなところに連れていってくれた。
小高い丘の上から見る青空といつもは大きく感じるビル群が小さく密集した風景、夕陽が綺麗に水面と反射する湖、暮れかかった太陽と夜が混ざった、オレンジ色と紫色の大空が一面に広がる展望台。どの空もキラキラと輝いていて、こんな素敵な場所を知っている蓮くんは本当にすごいと思ったし、蓮くんとだから、余計に綺麗に見えるんだろうな、なんてことも思った。
「最後に、ご飯食べて帰ろう」
そう言って蓮くんが入ったお店はがらんとしていたけれど、優しい暖色の光がぽうっと光る、いい雰囲気のお店だった。
お料理も美味しくて、お店の人もかっこよく親切にサーブしてくれて、恥ずかしながら初めてのコース料理にとても緊張していたけれど、テーブルマナーを咎める人も周りにはいなくて、安心し切ってご飯を食べていたら、蓮くんが唐突に「亮平」と俺を呼んだ。
「なぁに?」
「こんなこと聞くの、カッコ悪いかもしれないけど、今日のデート、どうだった?」
「とっても楽しかったよ。ここまでしてくれてありがとう。さすが蓮くんはたくさん素敵な場所を知ってるんだね。それから、今日一日中蓮くんと一緒にいられて幸せだったよ」
「ほんと…?よかった…。気に入ってもらえるかなって思ってたから、そう言ってもらえて良かった。俺も今日一日中ずっと、亮平と過ごせて幸せだった。」
そのタイミングでお店の人がサーブしてくれたデザートを、お辞儀をしながらテーブルの上に置いてもらった。美味しそうなケーキの下には、チョコレートで記された綺麗な筆記体が固まっていた。そのお皿に書いてある文字に俺は目を見開いた。
“I will love you forever.”
「俺、英語は苦手なんだけど、日本語よりはかっこいいかなって思って調べてみたんだ。それに亮平は頭いいからちゃんと伝わるかなと思って」
照れたように斜め下を向きながらそう言った蓮くんに、俺も英語で返した。
少し意地悪だろうか、それでも、日本語よりは、その場ではわかりづらい英語で伝えた方が、いつも俺が蓮くんに思っていることを、自信を持って言えるような、そんな気がしたから。
「I will continue to love you too.」
蓮くんは「へっ?」と声を上げながら、目を丸くしていた。
楽しい時間はあっという間に終わりの時間を迎えて、蓮くんの車がついに俺の家の前で止まってしまった。
寂しさ、物足りなさ、恋しさがたくさん襲いかかってきて、車は止まっているのに、シートベルトを外す手が止まりそうになる。
きっと明日も蓮くんは忙しいのだから、迷惑をかけちゃダメだと、無理に右手をベルトのロックを解除するボタンに掛ければ、その手を蓮くんが制した。
「駄目。やっぱり帰したくない。」
今の俺はどんな顔をしているだろう。
嬉しくて、恋しくて、苦しくて、切なくて、これ以上ないくらい幸せで、泣いてしまいそうだった。
蓮くんが俺と同じ気持ちでいてくれることが、俺を求めてくれることが、この時間を終わらせたくないと思ってくれることが、嬉しくてたまらなかった。
ふと、オーナーに言われた言葉が頭をよぎる。
ーー「遠慮してないで、もっと欲張りになったらいいのに」
言ってみてもいいのかな、欲しがりな俺でも嫌になったりしないかな。
俺の右手を抑えたままの蓮くんの手に自分の左手を重ねて、恐る恐る、それでいて強く主張するように、俺は夜の闇の中で光る蓮くんの瞳を見て伝えた。
「俺も、まだ帰りたくない」
一ヶ月に一度なんて約束は、どこかへ置き去りにして、俺たちは二人で夜の中に紛れ込んでいった。
To Be Continued………………
コメント
3件
最高!!続き待ってますっっ!!!
最高以外の言葉が見つからないーー🤦🏻♀️🖤💚