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第五話→まきぴよさん
風呂についたシャワーで身体を流す間、特に変わった事はなかった。
顔も身体も幼くなった阿部ちゃんに、さすがに欲情はしない。万が一欲情してそれが身体に出ていたりしたら、元に戻った後に軽蔑されるだろう。
「よし、綺麗になった」
「アイス食べたかったのに…」
「阿部ちゃん、ここ部屋に露天風呂ついてるよ。ちょっと入ったらまたアイス買いに行こう?」
アイスにつられた阿部ちゃんはおとなしく着いてきた。が、俺はすぐにこの言い伝えの恐ろしさと自分の浅はかさを知る事になる。
露天風呂で阿部ちゃんを膝に乗せて、敢えて楽しい話をした。
今どこの国が気候的に旅行しやすいかとか、そこの世界遺産とか。この間、阿部ちゃんが突発で台湾へ旅行していたので、美味しかったものの話とか。
阿部ちゃんは姿こそ小さいけれど、変わらずたくさん話して聞かせてくれた。
「幸せそうにしてたら、って言ってたけど、こんなに楽しくしてても一晩経つまでは戻らないのかなぁ」
ふと、思い出したように阿部ちゃんが言ったその時。
「阿部ちゃん!?」
足を滑らせたわけでもない、俺が手を離したわけでもない。
でもその瞬間まで俺の膝にいた阿部ちゃんが、突然風呂に沈んだ。
水の中で大きく見開いた目と自分の目が合って、弾かれたように身体が動き、湯船から阿部ちゃんを掴んで引き上げて抱っこで抱きしめた。
「げほっ、げほっ、うぇっ、…うわあぁん」
咄嗟のことに水を飲んだようで、激しく咳き込んで呼吸が落ち着くと共に泣き出した。
心臓が痛いぐらいに鳴る。子どもは静かに溺れると聞いた事はあったけど、阿部ちゃんも水の中からこちらを見るだけで暴れもせず、音の一つも立てなかった。
そしてあの瞬間、わざと潜らなければ全身が入るはずのないあの状況で、 まるで何かに引きずり込まれるようにして沈んでいった。
まだ時折咳き込む阿部ちゃんの背中を撫でながら慌ててあがる。
身体を拭いているとふっと意識を飛ばすように眠りそうになるので不安になって、『阿部ちゃんだめ、もう少し起きてて』と無理やり起こしながら風呂を出た。
命からがら、という言葉をこれほど実感したことはなかった。
泣き声が聞こえていたのか、部屋ではしょっぴーが岩本くんにしがみついている。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない…」
岩本くんに言わせると、この時の俺は魂が抜けたような顔をしていたという。やっとの思いでベッドに腰掛け、阿部ちゃんを撫で続けていたらしい。
阿部ちゃんはひっくひっくとしゃくり上げながら、ぐったり俺に身体を預けていた。
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コメント
6件
こわ😱😱
私がアホなパスしたら命に関わった😱😱😱ww
怖い😱怖い😱 とにかく、無事で良かったけども💦