「え?おじさんもいえいっしょだよ?」
「ん?おじさんはおじさんの家があるんだよ?」
「いっしょ!」
「はい?」
俺の頭が混乱する。家が一緒なんてことない。まさか娘?いや違うだろう。俺も娘は右目の近くにほくろがある。でもこの女の子にはない。じゃあどういうことだ?
「おじさん知らないよ?君のこと。今日初めて会ったよ?」
「うん彩も!」
「じゃあ家は違うよね?本当のこと教えて?」
「ちがうよ!彩とおじさんのいえはいっしょ!!!」
「嘘はダメってお母さんから言われなかったの?お嬢ちゃん?」
「いっしょだもん!」
「だ〜か〜ら〜!本当の家を教えって言ってるだろ?」
「イッショダモン!うえええええええええん!」
女の子は大泣きし始めた。外に聞こえるのではないかと不安になる。
意味がわからない。家が一緒なんて。嘘に決まっている。子供はよく嘘を付く。子供の中で嘘が流行っているのだろう。これくらいの年では。
「お嬢ちゃん、そういえばお名前は?」
「彩の…ぐすん…おなまえ?」
女の子はぐすんと鼻をすすりながら俺に聞いた。
「そう。君の名前」
「彩は…谷杉(たにすぎ)彩!ママとパパとにいにがつけてくれたんだ!」
女の子は俺に向かって決め顔をして自慢する。俺の娘もこうだっただろうか。それすらも忘れてしまった。帰りにケーキでも買っていこうかな。娘のことを思い出しそう思う。
「お兄ちゃんいるの?」
「うん。いまあ小学2年生!ピカピカのしょうがくせいっていってた!」
「そうか。じゃあお兄ちゃんは家にいる?」
「ううん。だからさっきいったでしょ?ここにはいないって」
先程から「ここにはいない」という言葉が気になる。どんな意味なのだろうか。
「じゃあいつもはどこで暮らしてるの?」
「ん?いっかげつくらいまえからうえでくらしてる」
「上?2階ってこと?」
「ちがう!うえ!」
「上?」
俺は試しにバスの窓から顔を出し夜空を見上げる。冷たい風が俺の上半身に当たる。
空を見上げても何も無い。やはり嘘だろう。
「なにもないよ?…うわっ!」
俺が振り向くと俺の胸のあたりに女の子が飛び乗ってきた。
「ふふん!彩はてんさいだからこんなところにもとびのれるんだ!すごいでしょ!」
「ちょっと降りて。重いから」
「ええ?パパにやったらすごいねっていわれたのに…でもにいににやったらおこられた」
「ん…」
「ママにやってみたかったな…」
「やってみたかった…?」
「うん」
俺はこの子の「ここにはいない」という意味が分かった気がする。もしかすると、女の子の家族は……。
だとすると女の子をどこに帰せばいいかがわからなくなる。親御さんがいないのなら祖父母の家?いや親戚…?
「お嬢ちゃん。家ってどこ?家族が心配するよ?」
「いない。かぞくなんて。ぜんいんいなくなっちゃった。彩ひとり」
「家はあるでしょ?家」
「ない。彩はかわをわたっててんにのぼった」
「は?なにを?」
「おじちゃんもでしょ?」
コメント
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めっちゃ混乱してるw 名前覚えてないけどおじさん頑張って!