新聞部に所属する事になった俺達だが、今はまだ何も活動をしていない。部長の訂正・謝罪文が公表されたのが、ついこの間で次の新聞の発行予定が一ヵ月後になったからだ。
俺も放課後清掃・日課のトレーニング以外の時間は公開されている動画の研究に当てたかったので正直助かる。
本選に行けなかったとしても他の冒険者の実際の探索を見る機会は参考になるだろうし。
そんな感じで平日の放課後は過ごし、休日は訓練施設で体を動かして二週間程たったある日、遂に人気投票の投票締め切り日が来て本選出場者が決定した。
人気投票の結果は4位。
あー、人気投票出場枠には入れなかったかー。
動画を見る限りでは俺よりも良さそうな冒険者もいるし、これは本選には参加出来なかったかな。
と思っていたのだが、その三日後。
「まもるー、県庁の職員さんから電話よー」
下から母さんの呼び声がした。落選のお知らせかな。結構まめなんだなー、と思いながら出た電話で
「はい、お電話変わりました。守です」
「私、○×県庁冒険者支援課の小川と申します。小野麗尾 守様、この度は○×県の冒険者支援イベントにご参加頂き誠にありがとうございました」
「……いえ、こちらこそ」
「本日のご用件なのですが、小野麗尾様のイベントの予選通過のお知らせと、本選出場の意思の確認をさせていただきたくご連絡させていただきました」
「 」
一瞬思考がフリーズした。
「……え、あ。予選、通過できたんですか。本当に? えっと何が理由で通過できたんですか?」
「申し訳ございません。審査内容に関しましてお話させて頂く事は出来かねます。」
「あっはい。えと、本選出場の確認ですよね。今決めないといけないですか? 今すぐでなければ、いつまでに回答すればいいでしょうか?」
「出来れば本日中にご回答頂ければと思いますが、明日まででしたら私共の方にご連絡いただけましたら大丈夫です」
「……はい、分かりました。あ、余計な事を聞いてすいません。えーと、それでしたら出場させていただきます」
「かしこまりました。それでは近日中に書類一式を郵送させていただきます。ご足労をお掛けいたしますが本選前に一度出場者の方にお集まり頂く事になりまして、その件に関しましてもお送り致します資料に記載がございますのでご確認をお願い致します」
「……はい、分かりました」
「他に何かご確認や分からなかった点はございましたでしょうか?」
「いえ、大丈夫です」
「ありがとうございます。それでは本日はこれで失礼致します」
「はい、ありがとうございました」
電話を切った直後は予選を通過したと言う実感が湧かなかった。
実感が出てきたのは夕食時に両親に報告した時だ。
「おお! 守が本選に出るのか! やったじゃないか、凄いぞ守!」
「あらあら、もう少し早く教えてくれれば今夜はご馳走を作ったのに。でも、おめでとう守。頑張ったわね」
二人が喜んでくれた事がなんだかこそばゆい。
「……ありがとう。でも俺が何で本選出場出来たのか良く分からないし」
「何を言ってるんだ。守は冒険者になってからずっと頑張ってきたじゃないか。もっと自信を持っていいんだぞ?」
頑張ったのはモチベーション(彼女欲)が高かったから……(震え声
「まぁ、一回戦負けしないようには頑張るよ。一回戦といっても準決勝だけど」
「二回戦も勝てる様に頑張っていいんだぞ? 決勝戦だけどな!」
「お父さん、機嫌がいいわねぇ」
テンション高すぎだろう、父さん。
夜に池流と鍵留に連絡したときも、あいつらの方が盛り上がったが、この時には俺もかなりテンションが上がってきていた。
最低でも賞金五十万とCランク相当のカードが手に入ることは決まった様なものだ。うまくいけば賞金は五百万円分にもなる。
カードの進化、装備の強化、スキルの取得…… うん、悪くない。むしろ良い。
本選まで二週間位だが、今度の休みの訓練はパーティー全員でやろう。
せっかく本選に参加できたのだ。よし、優勝を目指すか!
そして三日後に届いた通知に従い、土曜の午後に本選の打ち合わせに参加した。
打ち合わせの為の会議室には俺以外の出場者と説明のための職員が二名いて、まず当日のスケジュール、次に本選の説明が行われた。
主な内容は、
・会場と選手がスキルで守られている
・決着は試合時間三十分以内に選手が一定以上のダメージを負うか降参する
・召喚モンスターの有無・ダメージは考慮されない
・三十分以内に決着が付かなかった場合は審判三名による判定により勝敗が決まる
という感じだ。
問題は最後、副賞のモンスターカードだった。
上位入賞者から順に選ぶ事を聞かされたのだが参考までに、と見せられたカードが
・大天使(Dランク)
・前鬼(Cランク)
・鈴鹿御前(Cランク)
・黄泉醜女(Bランク)
の4枚だ。
大天使は攻撃・サポート・回復のいずれにも活躍できるDランク上位のモンスターで、前鬼は怪力剛健な前衛火力特化型、鈴鹿御前も前衛型だが力ではなく手数と技量で火力を出すタイプだ。
ここまでは良いのだが、最後の黄泉醜女。これが問題になる。何故混ざっている。
他の参加者もこのカードを注視している。おそらくこの場にいる俺を含めた四人の心境は一致している。
((((これはちょっと))))
県の職員さんは何かを勘違いしたのだろう。
「やはり皆さん、そのカードが気になるようですね! そう、何とBランクのカードですよ!」
なんて事をしやがったのでしょう。
やばい。多分カードを用意した奴はこれが一種のネタカードであることを知らない……!
すさまじく微妙な空気が参加者間に流れたが、職員はそれに気付かなかった様だ。これはいけません。
いや、ホントどうしよう。