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説明会が終わり、県庁から出た俺たちは誰も何も言わずとも集まっていた。
念の為に少し離れたファミレスで参加者間の打ち合わせ(裏)が始まる。
「まずは、お疲れ様でした」
そこはかとなく爽やかな空気を出す彼が言い出すと、
「おつかれー」
やる気の無さそうな声で年下っぽい女の子が続く。
「おう、お疲れ」
筋肉質な体格の青年がそれに続き、
「……お疲れ様です」
俺が最後に応じた。
「いやー、大変な事になりましたね。あ、何頼みますか?」
「あたしチョコパフェ。ドリンクバー付きで」
「俺はこのザ・サラダで。水で十分なんでドリンクは要らないな」
「……僕はサラダとポテトをドリンクバー付きでお願いします」
注文が終わると、
「では、注文が来る前に簡単に自己紹介しておきましょうか。私は神橋 弾(かみはし だん)と申します。クラスはプリーストです」
爽やか系七三頭が自己紹介すると、
「次は俺だな。名前は十文字 隼人(じゅうもんじ はやと)、クラスはファイターだ」
筋肉系ダンスィが続き、
「はいはーい、あたしは露理葉 青葉(ろりば あおば)、クラスはサマナーね」
セミロングにウェーブが入った茶髪、童顔。
一見すると幼く見えるが、素肌の張り・完成度の高いメイク・ふわっふわの中に統一感を持たせた衣服…… ゆるふわで包みながら信念とも言うべき確かな芯が垣間見えるファッション性への高い意識、少なく見積もっても小・中学生ではない! 高校生……いや、まさか大学生もありうるのか!
くっ、数多の女性をこっそり観察してきた小野麗尾アイを持ってしても彼女の実年齢の幅を縮められない! やるな!
な彼女が自己紹介して、
「……僕は小野麗尾 守、クラスはサマナーです」
最後に俺が無難に〆た。
「さて、皆がここに集まった理由は、あのカードの事だと思うけど」
「最下位のヤツが持てばいいんじゃねーの?」
「……それは、どうかな?」
「ん? どういう事だよ」
異議を挟んだ俺の変わりに、
「んー、あのカードね? 多分運営側が目玉として用意したカードじゃないかな?」
「ああ、そうだろうと考えられる。あのカード、今日見せてもらった副賞の中では一番高いカードなんだよ」
「高いっていくらだよ?」
「……一千万円です」
「嘘だろ!?」
「……今ネット調べたけど、その他のカードは六~八百万が相場です」
「あー、やっぱりねー 前見たときその位だったと思ってけど当たってたかー」
「ですね。私もあのカードは運営が悪意や冗談ではなく、本気で良かれと思って用意したものだと思いました」
「俺、サマナーじゃねーけど黄泉醜女が評判悪いカードってのは知ってるぞ? 何でそんなに高いんだ?」
「「……」」
他の二人が黙ったので補足する。
「……黄泉醜女のカードが評判悪いのは能力の問題じゃない。能力自体はBランク相応の物があるっていわれているけど問題はそれ以外の部分にあります」
「じゃあその問題ってのは?」
「……外見と、匂い。特に匂いが不味い。シュールストレミングって知ってますか?」
「ああ、あの世界一臭いっていう」
「……あれと比較する動画があるくらいには匂うそうです」
「……マジか」
「……会った事が無いので風聞ですが、マジだそうです」
「おい、さすがに俺は要らないぞ」
「すみません、私もこれはちょっと」
「あたしもー」
「……僕も、これは。でも、問題は」
「これが目玉扱いになってるって事だよねー」
「ですね。だれも要らないから最下位の人が。ええ、分かります。通常ならそうするべきでしょうが、もし今回その扱いをすると……」
「……主催者側の面子が潰れる」
「怒るかどうかは判んないけど、良い感じは絶対にしないよねー」
「我々への支援取り消しは無いでしょうが、次回のイベント開催に響く可能性は十分にあるかと」
「うっ…… じゃあ、どうするんだよ……」
「……それを、決めよう。最下位の人がこれを持つのは不味い。では一~三位の誰が持つか」
「一位の人はどうでしょうか?」
「賞金一番貰うんだし、妥当かなー」
「で、でも優勝してそれってのもなんつーか、惨くねーか?」
「……まぁ、わかります。三位が持つのも俺から見て、という事ですが微妙じゃないかと思うんですが」
「となると二位、ですか」
「あたし、賞金は惜しいけど他のカードならどれでもいいから一回戦で負けるわー」
「おい」
「……こうなるだろうな、とは思います。僕もサマナーとしては黄泉醜女以外のカードも魅力的ですし」
と言うか、黄泉醜女以外が欲しい。
「手に入れても売れば…… だめか。賞品の転売ってのも人聞き悪ぃしなぁ」
「最低一年間の報告を考えると実際に使用するのが望ましいでしょうし、黄泉醜女以外は誰が使っても問題がないカードだと思います。そこで黄泉醜女だけ売られたとなると……」
「「「「……」」」」
全員の言葉が途絶えたタイミングで注文したメニューが運ばれてきた。
神橋さんも普通のサラダを頼んだのか。
露理葉さんのパフェは少し大き目かな?
十文字さんのはザ・サラダって言ってたけど…… おおう、四~五人分の大きさのボウルに緑の山が。
ドレッシングも掛けずに食い散らしていらっしゃる。
「……あんたたち全員、草食系男子ってやつ?一人は僧職系男子だけど。キャハハハハ。ウケルー」
「いえ、健康に気を使っているだけなのですが」
「……夕飯に差し支えない範囲で考えるとこのぐらいがいいので」
「俺はボクサーなんで減量考えないといけないからな」
「えっ、あんたボクサーやってんの?」
「おうよ。まだプロデビューしたばかりで名前も売れてねーけどな」
「差し付かえなければ、何で冒険者をやっているのかお聞きしても?」
「ああ、っても金・鍛錬・売名くらいのモンだけどな。普通に肉体労働するより稼げるし実戦で経験積めるのも良い。名前が知れるのもボクサーとして良いんじゃないかって思ってな」
「……」
リングと違って命が掛かっているが、それはいいのか?
疑問はあったが、彼はそれを承知の上でやっているのだろう。
俺が聞いても意味の無いことだ。
「俺だけってのも何だし、そっちのプリーストさんはどうよ、おたくは何で冒険者やってんの?」
「ははっ 私ですか。わたしもお金ですね。孤児院にお金が必要なんですよ。ありがたい事に支援金・寄付金は頂いているのですが」
子供達が生きていくだけで精一杯なのですよ、と言う彼の言葉の内容は耳に聞こえた音ほどの軽さでは無かった。
冒険者として死んだ親が、多いそうだ。特に八~十年前に。
「幸いな事に、私は生まれつき回復系のスキルを授かりました。これも神の導きでしょう」
静かに微笑む彼に、ふと疑問に思った事を聞いてみる。
「……回復系のスキルがあるなら、医療の道があるのでは?」
「いえ、残念ながらこの国ではまだスキルによる治療は医療行為として認められていないのです」
法改正に関わる部分として、中々動きが鈍いようだ。
ポーションなどのアイテムの使用も個人として使う分には黙認されているが、他人に使うのは医療行為、か。
「ふーん。何で医者がスキル使わないのか不思議だったけど面倒なものねー」
「本当になぁ、使えりゃもっとトレーニングもできるってのに」
「では次に小野麗尾さんは、どうですか?」
うっ…… いかん。素直には答えられないぞ。
「……」
「おっ何かな? 小野麗尾君は人に言えない理由なのかな~?」
押し通すしかない、か……!
「……ああ、すみません。先のお二人に比べると、とてもちっぽけな理由なので出来れば勘弁していただけると」
「おいおい、そいつはいけねえな。こういうのはノリが大事だぜ」
「まぁまぁ…… 言いたくないなら構いませんよ、人それぞれですからね」
「えー! つまんなーい!」
……チクショウ! 言わなきゃならない空気が! だが少しでも時間は稼げた。言い訳完成。くらえ!
「あはは…… 単に自分を変えたかっただけなんですよ、僕は。その、昔からぱっとしない物で」
「おー、いいじゃねえか。自分を変えたいとか。いや、ちっぽけじゃねーぞ、それは!」
自分の外面をメッキ張りして彼女が欲しかっただけなんです。
「少しばかり方法に問題があるような気がしますが、そういうことなんですね」
誰か! 他に方法があったなら教えてください! 高校生の内に俺に彼女が出来る方法を!
「……う~ん?」
はっ! もしや疑われている!?
「……露理葉さんは、どうなんですか?」
「ん? あたし? あたしはね~」
「……」
よし、回避成功。
「言~わない♪」
! 何だと!?
「それよりもー ずるずる引き延ばしてきたあのカードの件、どうするの?」
卑劣! 自身の追求を逃れるためにあえて目を逸らし続けた現実を持ってくるとか!