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「まあ、いつもと変わり映えのしないメシだがな」
「戦場で温かいスープが口にできるだけマシでしょ」
フレチェリカは俺の隣に座るとパンとスープの入った器を手渡してくれた。
「ほら、ユーヤの分よ」
「いくら強いったって食べなきゃ死んじまうぞ」
この2人だけは俺を名前で呼ぶし、人として扱ってくれている。だからか、いつしか一緒に行動するようになり戦場でパーティを組んでいた。
「いいのか俺と一緒にいて」
「俺らを他の連中と同じにすんな」
「ほんと、誰と戦っているのか分かんなくなるわ」
俺を遠巻きに蔑むみたいな、それでいて怯えた様な視線を向ける兵たちにフレチェリカは鋭い眼光を向けた。それを受けた奴らはサッと視線を逸らす。
「最初はアシュレイン王国の勇者だってんで警戒もしたんだがな」
「ええ、ユーヤはあいつらとは違う。真にこの国の為に戦ってくれてるんだもの」
この2人は魔族によって滅ぼされたスターデンメイアの生き残りだ。
その事でスターデンメイアの生き残った者達はアシュレイン王国の者を嫌悪している。それと言うのもアシュレイン王国は取り決めを破って援軍を送らず、この国を見捨てたからだ。
呼び出された時にあいつらから聞かされた話ではスターデンメイアがあまりに脆く、援軍を送る間もなかったときかされた。だが、ここで各国の連中から聞いた話とは大違いである。
「あいつらはいつも嘘ばかりだ」
俺が掃き捨てるように悪態をつくと2人は肩を竦めた。
「もともと居丈高な国だけど、前はもう少しマシだったんだけどね」
「王太子の前婚約者だった聖女が追放されて、あの女が王太子妃になってからおかしくなっちまった」
この話はよく耳にした。
アシュレイン王国で聞いた噂でもエリーが国を滅茶苦茶にしたと。
また、冤罪で追い出された女性は追放先の辺境で聖女として活躍しているとも。
その女性は今では『辺境の聖女』と呼ばれて他国にもその名が有名になっているらしい。
名前はなんだっただろうか――
「ユーヤは魔王を倒したらどうするの?」
俺が名前を思いだせずに黙っていると、突然フレチェリカが話題を振ってきた。
「やつらに元の世界へ帰してもらう約束になっている」
素っ気ない俺の回答にフレチェリカはしゅんと表情が沈んだ。
「帰るんだ……こっちに残る気はない?」
「無理を言うな。ユーヤにはユーヤの住む世界がある」
「だけど……」
納得のいかないといった表情のフレチェリカに何だか申し訳ない気持ちが湧く。
「済まない。2人には感謝しているんだ……」
「よせやい。感謝しているのはこっちの方なんだ」
「ええ、もう少しでスターデンメイアを取り戻せる」
「ああ、明日からも宜しくな!」
俺の肩を力強く抱いてゴーガンは豪快に笑った。それに苦情を申し立てるフレチェリカもどこか楽し気で、この2人のお陰で俺は腐らずに戦えている。
そうして俺はフレチェリカとゴーガンと共に戦い続け、多くの魔獣や魔族を葬った。その戦いぶりは獅子奮迅というやつだったろう。
その甲斐もあって僅か2年で俺達はスターデンメイアを魔族の支配から解放した。
その祝勝もあり凱旋して欲しいとアシュレイン王国の奴らから懇願された。
どうにもあの国の状況は悪いらしく、俺の勝報で国民のガス抜きをしているようだ。俺を凱旋させて国民にお披露目する事で明るい話題を提供したいのだろう。
「次は魔王との決戦だからな。英気を養っておくのも必要だろう」
「そうそう。戦い続きだったんだし、美味しいものでも食べて体を休めてきなさい」
奴らにいいように扱われるのは癪なので無視しようかとも思ったが、ゴーガンとフレチェリカにそう勧められて、俺は休養がてら王都へ戻る事にした。
凱旋した王都では戦勝に湧き上がっていた。
街中を進めばパレードに湧く群衆に、空を舞う大量の花びら……
どいつもこいつも嬉しそうな顔をしてやがる。
だがそれとは真逆に俺の心は曇りっぱなしだ。
戦場にも届くアシュレイン王国の連中の噂に、こいつらを救う為に戦わなければいけないのかとげんなりした。だが、魔王を倒さなければ俺は元の世界に帰れない。
俺の手に一枚の薄いピンク色の花びらが落ちてきた。
スリズィエ――
桜に良く似ていた、と言うより桜そのものの花びらは、俺の世界との繋がりを連想させる。自称ヒロインのエリーがここが乙女ゲームの世界だと言うのも納得だ。
「ああ、思いだした――」
この懐かしく、愛らしくも綺麗な花びらを見ると、同じ色の髪をしたエリーよりも、俺はまだ会ってもいない筈の『辺境の聖女』を思い浮かべた。
「――ミレーヌ・クライステルだ」