テラーノベル
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人混みの隙間から覗いたその姿に、一瞬だけ、本当に一瞬だけ、思考がフリーズした。
艶のある黒髪。
透き通るような白い肌。
涙を溜めたように潤んだ、形の良い大きな瞳。
文化祭の出し物の試着か何かだろう。
フリルがふんだんにあしらわれたミニ丈のメイド服を着せられており
本人はその場にうずくまりそうなほど顔を真っ赤にして俯いている。
「だからぁ、“ご主人様♡”って言ってみ? 言ったら解放してやるよ」
「む、無理です……っ、やめてください……!」
「えー?言えないならここで脱がす?それとも───」
「この格好のまま、どっか空き教室連れてってヤるのもよくね?男でもコイツならイケるし」
「や、やだ……っ」
必死に拒絶しているつもりなのだろうが、震える声も、涙を堪えて潤んだ瞳も
何一つ威嚇になっていない。
それどころか、困り果てて怯える反応がいちいち扇情的に映る。
(…女よりエロいだろ、あれ)
周りの連中が面白がって加虐心を煽られている理由が、嫌というほど分かってしまった。
「……おい」
気づけば、考えるよりも先に声が出ていた。
ドスの利いた俺の声が響いた瞬間
それまで加熱していた周囲の空気が一気に凍りつき、全員が弾かれたように振り返る。
「あ……一ノ瀬先輩」
「何してんの、お前ら」
「え?いや、コイツが大人しいから、ちょっと弄ってただけっすよ」
「泣きそうじゃん。見て分かんねぇの?」
「えー、でも本人も満更じゃなさそうっていうか……」
一歩、歩み寄る。
「どけ」
低く、有無を言わさないトーンで言い放つと
さっきまで威勢の良かった連中が気まずそうに視線を泳がせ、蜘蛛の子を散らすように散っていった。
最後に残った一人が「ちぇー、つまんね」と吐き捨てて去っていく。
静まり返った廊下。
フリルのスカートを揺らしたまま
メイド服の後輩だけがポツンと、床を見つめたまま立ち尽くしていた。
一歩近づき、至近距離で見て、改めて息を呑む。
びっくりするくらい、どこを見ても綺麗な顔をしていた。
伏せられた長い睫毛。
病的なまでに白い肌。
小刻みに震える、薄いピンク色の唇。
……いや、女より全然可愛い。
「……大丈夫?」
声をかけると、宇佐美の肩がびくっと大きく跳ね上がった。
「あ…っ、す、すみません……っ!」
「いや、なんでお前が謝んの」
「め、迷惑…かけちゃったかなって、思って……」
蚊の鳴くような、小さな声。
しかも、まだ恐怖の名残があるのか、生まれたての小動物みたいに細かく震えている。
「名前、宇佐美だっけ?」
「っ、は、はい…!宇佐美、透、です……」
「へぇ」
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