テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
うさみ、とおる。
……本当に、うさぎみたいだな。
「じゃあ、“うさちゃん”」
「えっ」
驚いて顔を上げた宇佐美を見下ろし、意地悪く口元を緩める。
「似合ってるよ、その格好」
そう言った瞬間だった。
宇佐美の顔が、本当にボンッて効果音が聞こえそうなくらい、一瞬で真っ赤に染まった。
「な、なんでそんな赤くなんの」
「だ、だって……そんな、からかわないでください……っ」
「からかってない。可愛いよ」
「〜〜〜っ!?」
顔どころか、白い耳の先端まで真っ赤になっている。
宇佐美は再び猛烈に俯くと
形の良い爪が白くなるほど、ぎゅっとメイド服のスカートの裾を握りしめた。
……何これ。
反応、めちゃくちゃ面白いじゃん。
今まで俺に擦り寄ってきた女の“狙ってる可愛さ”じゃない。
本気で照れて、本気でキャパオーバーを起こして困ってる感じ。
そのあまりにも純粋な反応が、俺にとっては酷く新鮮で、酷く刺激的だった。
「……先輩」
「ん?」
長い睫毛を震わせながら、宇佐美が恐る恐る視線を上げてくる。
その瞳があまりにも真っ直ぐで、吸い込まれそうになる。
「あの、助けてくれて…本当に、ありがとうございました」
あー、これだ。
たぶん、この顔。
この手のタイプは、もうこれで俺のことを特別視して、好きになるやつだ。
いつもなら、そこで興ざめして終わりだった。
「懐かれた後輩」
その程度の引き出しに放り込んで、二度と深く関わろうとはしなかったはずだ。
なのに。
「……先輩?」
不思議そうに小首を傾げる宇佐美から、なぜか視線が外せない。
胸の奥が、妙に騒がしかった。
こいつは、俺の周りにいた奴らと全然違う。
駆け引きの「か」の字もない。
媚びを売るような器実さもない。
それなのに、男の扱いに慣れていないくせに
自分の内側の感情が全部その綺麗な顔に透けて見えている。
面白い。
もっと困らせたら、こいつはどんな顔をするんだろう。
もっと強引に触ったら?
もっと、境界線を越えて近づいたら?
そんなドス黒い独占欲に近い感情が芽生えた瞬間、自分自身の変わりように少し笑ってしまった。
「ねえ、うさちゃん」
「は、はい……っ」
一歩、距離を詰める。
俺の影が、小柄な彼を完全に覆い尽くす。
「俺と、仲良くする?そしたら、変なやつからも守ってあげるよ?」
宇佐美は一瞬、何が起きたのか分からないというように大きく目を丸くした。
それから、限界まで赤くなった顔のまま
ふにゃっと、本当に嬉しそうに、花が咲くように笑ったのだ。
「……え、は、はいっ…!」
一点の曇りもない、その笑顔を見た瞬間。
…やば。
脳内で、何かが決定的に狂う警告音が鳴り響いた気がした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!