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「やばっ。すげー遅くなった」
今日の日の為に、ここ数日仕事を調整したはずなのに。
結局こんな大事な日の当日まで仕事に追われるだなんて。
もう皆集まってんだろな。
急用の仕事を終わらせ、ようやく今日の目的の場所へと辿り着く。
「いっくん! もう遅いよー! ようやく来た!」
「ごめん麻弥。遅くなって」
案の定、今日の主役の麻弥はオレを待ちくたびれたような言い方で、相変わらずいつものように接する。
「今日は大事な日だから絶対遅れないでって言ってたのに」
「悪い。どうしても外せない仕事入っちゃって」
「ホントいっくん。大忙しだね。でも、こんな日までお仕事入れなくても・・・」
「ってか麻弥。・・・いいじゃん」
「え?」
「ウエディングドレス」
「いっくん・・・。ありがと・・」
純白の華やかな白いウエディングドレスを纏いながら、恥ずかしそうにお礼を言う麻弥。
「ごめんね、いっくん・・」
「何が?」
すると今度は申し訳なさそうに謝って来る。
「私だけが幸せになって・・・」
「なーに言ってんの。麻弥らしくねーなー。お前そんな素直でしおらしかったっけ?」
「ちょっといっくん!」
「いいんだよ。お前が幸せになってくれるならオレはそれで嬉しいんだからさ」
「いっくん・・・」
「麻弥・・・。結婚、おめでとう」
「ありがとう」
そう言いながら嬉しそうに幸せそうに笑う麻弥。
ホントなら、麻弥の隣にはオレが立つはずだった。
だけど、今麻弥の隣に立っているのは、オレではなく、麻弥のことをオレ以上に大切にしてくれる麻弥を愛してくれている人。
こんなに早くオレが麻弥の結婚を祝う日が来るだなんて思ってなかった。
透子と別れてからのオレはというと、今まで以上に目の前のことに没頭して。
その間にも何度も麻弥は気持ちを伝えては来ていたけれど、結局オレは一度も麻弥の気持ちに応えることはなかった。
すると、いつの日からか、麻弥の近くにいた男性が麻弥を支えてくれ、いつの間にか麻弥の大切な人へと変わった。
オレは麻弥にこんな自然な笑顔をやれてただろうか。
お互い大人になってから、昔のような子供の頃みたいに無邪気に笑えなくなって。
気付いた時から麻弥はオレに普通以上の感情をずっと見せていて。
だけど、オレにとってはやっぱり子供の頃一緒に無邪気に笑い合ってたような、そんな関係でいたくて。
オレの中ではずっと麻弥は妹みたいに大切な存在だった。
そう、そこまでの存在だった。
だから、ようやく麻弥がオレじゃなく、ちゃんと心から一緒に笑い合える存在に出会えて、本当によかった。
「で。いっくん。透子さん来てるよ」
「あ、あぁ・・うん。さっき見かけた」
知ってるよ。
この会場来てすぐ、一番に透子の姿を探した。
一年ぶりに見かけた透子は、また一段と綺麗になっていて。
遠くから見てもやっぱり誰よりも目立っていて、この目に入るのは一人だけで。
その姿を見るだけで、やっぱり胸の奥が切なくて、そして温かくなる。
オレがいなくても、やっぱり透子はこうやってどんどん綺麗になっていく。
結局ずっとどこにいてもオレが追いかけ続けたい人。
こんな風に、その姿を思い出すだけで、愛しくなるくらい。
「まだ会ってないの? そんな顔してるくらいなら、とっとと会っちゃえばいいのに」
「え?」
「自分で気付いてないの? いっくん、透子さんのこと思い浮かべる時、ホント愛しそうに優しそうな表情してるんだよね」
「はっ? えっ? そうなの?」
全然無意識なのに、麻弥にそう言われてまた動揺してしまう。
「大丈夫。前から言ってるでしょ。それ私しかわかんないから」
「あっ・・そっか・・」
「いっくん。変わんないね」
そう麻弥に言われて、一年も経っていても、結局変わらないのだと自分自身も自覚する。
透子と別れて一年。
今日まで一度も透子とは会うことはなかった。
会社でたまに見かける時もあったけど、それもほんの一瞬。
透子もきっと気付いてないくらいの距離と時間。
あれから気持ちも環境も切り替えたオレは、迷いが出ないようにどんな少なくてもどんな距離感でも透子との接触を避けた。
とにかくオレは目の前の仕事に集中していた一年で、大きく自分の環境はあれから変化した。
オレの中で、自信も力もついた意味ある一年。
透子と離れた意味ある一年。
そう。そのはずなのに。
確実にその選択は正しかったと言えるはずなのに。
だけど、こうやって透子を意識すると、一気に一年前に引き戻される。
一日も忘れたことはなかったけど、意識せずにいようとした一年。
結局、どんなに環境が変わって、どれだけ昔より自分に自信も力もつけたとしても、ただ透子への気持ちだけは何も変わらないのだと、改めて実感するだけ。
それどころかもっと前以上に透子が大切な存在なのだと知った一年だった。
どれだけ離れても、どれだけ会えなくても、透子の存在が心にあるからオレはここまで頑張れて。
透子がいなければ、今のこの時間も何の意味もなくて。
今、透子が何を考えて、誰が好きか、オレをどう想ってるかなんてこともわからないけれど。
だけど、結局この気持ちが交わろうがそうじゃなかろうが、オレにとって透子という存在があることで、オレの人生はきっと生き続けるから。
だから後悔はない。