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家に帰り着いた。
薄暗いリビングで、ビールを飲む。
紗枝との関係が思わぬ形で終わってしまったことに、がっかりしてしまう。
_____普通は浮気相手には、奥さんよりいいと言われたいんじゃないのか?
「なんでだよ!」
誰に聞かせるつもりもない独り言は、シンとした部屋に予想以上に響いて、杏奈が起きてしまうんじゃないかと焦った。
……が、杏奈も圭太も起きる気配はない。
_____いい気なもんだな
安心しきって眠っている二人を見ると、ホッとするのと同時に虚しさも感じた。
_____このまま、家族のためにずっと働いていくのか?もうそれだけなのか?
むしゃくしゃして、着ていたものをあちこち脱ぎ散らかして、シャワーを浴びた。
なんだか寝付けず、あと2本のビールを飲み干したころ、やっと眠くなった。
朝起きると、杏奈は散らかったリビングを片付けていた。
「おはよう、昨夜も遅くまでご苦労様。疲れ、溜まってるんじゃない?」
「あー、別に。なんで?」
散らかしたままだったから何か小言でも言われるんじゃないかと身構えたのだが。
「んー、なんていうか、部屋が荒れてたから。空き缶捨てたり洗濯物をまとめておいたりするのも面倒だったんだろうなって。それくらい疲れてるんだろうなって思ったから」
_____紗枝とのことには、全く気づいてないようだな
体の心配をしてくれるとは、予想していた対応と違ったことに、少々焦った。
「仕事で疲れて帰ってるんだから、それくらいいいだろ?水、ちょうだい」
頭をぼりぼり掻きながら、どかっとソファに座り仕事で疲れているアピールをする
_____まぁ、紗枝とは何もバレることなく終わったんだしビクつくこともないか
何かおかしな態度をとってしまっても、全て“仕事のせい”にしておけば、杏奈は俺のことを疑いもしないだろう。
そのためにはいい夫、いい父親でいないといけない。
いきなり泊まりに来ると言う俺の母親のことを、杏奈はあまり好きではないことはわかっている。
どうしてだろう?と考える。
昨夜、お袋が俺の上着についていた香水のことを杏奈に告げ口していたけど、杏奈は俺のことを庇った。
「あの、お義母さん、それきっとそういうお店の女の子の香水かもしれません。雅史さんは仕事の関係で、そういうお店にも付き合いで行きますし」
「そうなの?雅史」
「あ?あぁ、うん。不景気になってきたから営業みたいなこともやっててさ。接待にそんな店に行ったわ」
慌てて話を合わせておく。
接待とかしたことないけれどと思いながら。
「そうなんですよ、少し前にも違う香水のニオイがしたことがあったんです。でも今回のは気づかなかったな」
_____えっ!
心臓がドクン!と跳ねた。
_____もしかして、杏奈にバレてるのか?
でもここは、とりあえず杏奈の話に合わせておく。
「えっ!あ、そうそう、少し前にもそんな店に行ったわ。酔っ払いの相手ばかりで疲れるよ、ホント」
イマイチ納得していない様子のお袋だけど、俺はできるだけ平然を装い、“だから、何?”という態度をとった。
「そういうことなら仕方ないわね。私はてっきり杏奈さんが香水なんか付けてるのかと思ったから」
香水くらい別にいいじゃないかと思い、そのまま言ったけれど、お袋の頭は固そうだ。
それにしても、前回も今回も香水がついていたということは、どちらも紗枝だ。
なのに違う香水ということは、一人の女が相手だと思われないようにという紗枝の戦略(?)かもしれない。
とすれば、紗枝はセフレとしてはいい女だった。
俺の家庭をどうこうする気はないということだったのだから。
けれど。
杏奈に香水のことについて深く問い詰められたら厄介だと思い、見もしないテレビをつけた。
結局、杏奈はどこかのホステスのものくらいにしか考えていないようで、ホッとする。
ホッとしたと同時に、逃がした魚は大きいという諺を思い出した。