地下室の奥に現れた石造りの階段は、まるで地の底へと誘うように闇へ続いていた。
理沙は崩れた瓦礫を踏み越え、慎重に一歩を踏み出す。
――ギィ……ギィ……。
下りるたびに、階段は異様な音を立てる。
懐中電灯の光が頼りだが、壁には古いランタンが等間隔で掛かっており、誰かがここを使っていたことを示していた。
やがて、階段の終わりに鉄扉が現れた。
扉には奇妙な文様が刻まれ、中央には回転式の仕掛けがある。
“円の中に七つの星”――だが星の一部は欠けていた。
「……また、七人が関わる謎……」
理沙は観察記録のノートを開く。
そこには過去の“挑戦者”たちの名前とともに、同じ文様が描かれていた。
ページの余白には赤いインクでこう書かれている。
『星を埋めるのは“影の記憶”。過去をなぞらぬ限り、扉は開かない』
その瞬間――階段の上から足音が聞こえた。
カツ、カツ……規則正しく。
理沙は慌てて振り返る。
光に浮かび上がったのは――浜野香里。
「……香里!? どうして……外に出たはずじゃ……」
だが、その表情は異様に無機質で、瞳は黒く濁っていた。
「理沙……戻ろう? 一緒に外へ。もう、戦わなくていいよ」
理沙の背筋に冷たい汗が走る。
目の前にいるのは“本物の香里”ではない。
“影が作り出した偽物”だ。
「……あなたは香里じゃない」
影の香里は微笑みを浮かべ、ゆっくりと理沙に近づく。
「違わないよ。私は香里の記憶から生まれた。外に出たあの子たちも、きっと幻。結局、君はここに一人で取り残されたんだ」
言葉が鋭く胸を抉る。
理沙は震える手でノートを握りしめる。
「……いいえ。私はみんなを信じる。幻に惑わされてる暇なんてない。私はこの扉を開けて――このゲームを終わらせる」
影の香里の姿が歪み、黒い靄となって消え去った。
その代わりに、扉の仕掛けにひとつ星が浮かび上がる。
「……やっぱり。“影の記憶”を乗り越えることで、星が埋まるんだ」
理沙は深く息を吐き、再びノートを開いた。
次に現れる“影”は――誰の姿だろうか。
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