ニューヨークの夜。アパートの一室で、エディ・ブロックはパソコンに向かっていた。
机の上には取材メモ、コーヒーの空きマグ、そして冷めたピザの箱。
「……よし、もう少しで記事になる」
独り言のように呟きながら、キーボードを叩く。
だが、その集中を妨げるように、頭の奥からぬるりとした声が響いた。
「エディィィ……チョコレートが欲しい」
「今は我慢しろ」
「我慢できない。お前の集中力を高めるためにも必要だ」
「どこの医学論文にそんなこと書いてあるんだよ」
ヴェノムの黒い触手が伸び、冷蔵庫の扉を勝手に開ける。
中からチョコバーをつかみ取り、にやりと牙を剥いて囓った。
「ん~~~、至福だ!」
「おい、俺の夜食だぞ!」
「俺たちの、だろう?」
エディが立ち上がろうとしたその時――。
窓の外で、金属が擦れるような音がした。
「……ん?」
エディが眉をひそめ、窓をのぞき込む。
そこには黒い影が。マスクをかぶった男がナイフを手に、窓をこじ開けようとしていた。
「泥棒かよ……!」
エディが小声で呟くと同時に、ヴェノムの影がぞわりと背後から溢れ出す。
「エディ。出番だな」
「……なるべく穏便にだぞ。絶対に食べるなよ」
「約束はできん」
次の瞬間、窓が開いた。
男が部屋に足を踏み入れる――その目の前で、闇が爆発するように広がった。
巨大な白い目。鋭い牙。
ヴェノムが部屋いっぱいに現れ、低い声で唸る。
「よくもエディの部屋に入ったなァ……!」
「ひっ……ひぃぃ!」
男は腰を抜かし、ナイフを取り落とした。
エディは慌てて制止する。
「やめろヴェノム! 脅かすだけでいい!」
「俺は腹が減っている」
「チョコ食っただろうが!」
部屋に響くエディの声。
ヴェノムは大きく口を開き、今にも男を飲み込みそうな気配を見せる。
男は恐怖に耐えきれず、窓から転げ落ちるように逃げ出した。
悲鳴と共に路地裏へ消えていく。
沈黙が戻る。
エディは頭を押さえて深いため息をついた。
「……ったく。お前はやりすぎなんだよ」
「だが守った。俺のおかげで無傷だ」
「……それは認めるけどな」
エディはソファに戻り、机の上のコーヒーを口に含んだ。
苦い味が広がる。
一方でヴェノムは、冷蔵庫を再び開けて中を物色している。
「チョコは……もう無いな」
「そりゃそうだ。全部お前が食ったんだ」
「ならば……アイスだ」
「やめろ! それは俺が楽しみに取っておいたんだ!」
冷蔵庫の前でもみ合う二人(?)。
真剣に記事を書いていたはずの夜は、結局いつもの騒がしい日常に戻っていく。
だが、エディは心のどこかで安堵していた。
さっきの泥棒事件。ヴェノムがいなければ危なかったのも事実だ。
そして、守ってくれる“相棒”が今もここにいる。
「……ほんと、お前ってやつは」
呆れたように呟きながらも、エディの口元には小さな笑みが浮かんでいた。
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