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土曜の昼。ニューヨークのアパートの台所に、めずらしくエディが立っていた。
Tシャツにジーンズ姿、腕まくりして気合は十分。
「今日はちゃんとした飯を作る。もう外食ばっかりは懐がもたん」
エディが宣言すると、頭の中に重低音の声が響いた。
「ピザでいい。もしくはチョコレート。もっとシンプルだ」
「いや。今日はスパゲッティ・ミートソースだ」
「なぜだ?」
「俺が食いたいからだよ」
「俺は人間の脳みそがいい」
「却下!」
エディは玉ねぎを手に取り、包丁を構える。
「みじん切りだな……」
とトントン刻み始めた瞬間、黒い触手がぬるっと伸びてきて、
ドゴォ! と玉ねぎを握りつぶした。
「……おいヴェノム!!」
「早い方がいいだろう」
「これじゃ粉砕じゃねえか!」
「俺は効率的だ」
「俺は涙目だ!」
目を押さえて涙を流すエディを見て、ヴェノムが愉快そうにククッと笑う。
エディはひき肉を炒め始めた。
「よし、ここは焦がさないように……」
その横から舌がぺろりと伸びてソースを舐める。
「……味が薄い。脳みその風味が必要だ」
「やめろ!! そういうのを料理番組みたいに真顔で言うな!!」
「ではチョコを入れよう」
「入れるか! 甘いミートソースとか絶対イヤだ!」
それでもヴェノムは聞かず、触手がチョコバーを冷蔵庫から取り出そうとする。
エディは慌てて押さえ込み、キッチンで取っ組み合いになった。
ようやくソースが完成し、あとは麺を茹でるだけ。
「これで勝った……」とエディが呟いたその時。
鍋から盛大に泡が吹き出す。
「わっ、吹きこぼれ――!」
ヴェノムが触手で鍋を持ち上げ、ぐらんぐらんと振る。
「エディィィィ、これは面白い!」
「やめろ! 麺が宙を舞ってる!!」
茹で上がったパスタが床にばら撒かれ、キッチンは戦場のようになった。
トマトソースの飛び散り、玉ねぎの残骸、泡だらけの鍋……。
数十分後。
キッチンは壊滅状態になりながらも、なんとか二人はテーブルにスパゲッティを並べた。
エディはぐったりしながらフォークを手に取る。
「……地獄の調理だった」
「最高だった」
「お前だけだよ」
一口食べる。意外にも、普通にうまかった。
「……うん、ちゃんと食える」
ヴェノムも舌でソースを舐めて満足そうに唸る。
「悪くない。だが次はチョコを入れる」
「絶対イヤだ」
それでもエディは笑ってしまう。
料理なんてひとりならただの作業だけど、この相棒と一緒だと……疲れるけど、退屈はしない。
エディは深いため息をつきながら呟いた。
「……まあ、こういう日常も悪くないか」
「WE ARE VENOM……そしてWE ARE COOKING!」
「言うな!!」