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#続かないとオーバーブロット
「陽の国のもてなし、静かなる影」
–招かれた仮面と、迎える笑顔の奥に–
⸻
〔オンボロ寮・昼下がり〕
午後の光が差し込むリビング。
フェイドは、窓際に腰掛けながら本を読んでいた。
ユウはグリムと一緒にクッションを並べて昼寝の準備。
エースとデュースは、宿題のページをめくっては、ため息をついている。
「なあ、これ明日提出だっけ? まだ全然終わってないんだけど」
「オレも。魔法史の字が細かすぎて目が痛い……」
「ぜ〜ったい寝てた方がいいぞ、オレ様は賢いから寝てるだけだニャ!」
「えっ、グリムそれはただのサボりだよね」
フェイドは、笑みを浮かべながらティーポットに手を伸ばす。
「お茶、入れましょうか? 皆さま、集中しすぎて少々目元がお疲れのようですし……ミントを足してもよろしいですか?」
「あ、それ助かる〜……ネメシスがいなかったら俺たちもう終わってるよ……」
と、そのとき――
扉がノックされた。
「よぉ!!、ネメシスいるか?」
声の主は、明るく透き通るようなトーン。
扉を開けると、そこにいたのは――
カリム・アルアジーム。
砂色の服に身を包み、豪奢な刺繍が夕日に映えていた。
手にはたくさんの果物や香辛料を抱えている。
「やあ、急にごめんな! オンボロ寮に差し入れ持ってきたんだ。
寮で余ったやつなんだけど、よかったら使ってくれよ!」
フェイドは、丁寧に一礼して出迎える。
「それは……お気遣いありがとうございます。まさか、スカラビア寮の寮長自らとは」
カリムはにっこりと笑った。
「寮長だからって偉そうにしてるの、オレ好きじゃないんだ。
それに、こないだの試合、ネメシスがすごかったって話を聞いてさ。気になってたんだよ!」
「よかったらさ、今度、うちの寮にも遊びに来てくれない? ユウたちも一緒にさ!」
「えっ、いいの? わあ、楽しそう!」
「うおっ! オレ様、香辛料たっぷりの肉料理とか食べてみたいぞ!」
「もちろんだよ! オレの国の料理、うまいぞ〜? ジャミルも腕がいいしさ!」
フェイドは、カリムの気取らない笑顔に目を細める。
「では……ありがたく、お招きに預からせていただきます。
皆さんでご一緒させていただいて、よろしいですか?」
「もちろん! 寮生もみんな歓迎してるよ。
オレんとこ、暑いけど楽しいぞ〜!」
⸻
〔その日の夕方・スカラビア寮前〕
夕暮れ、赤く染まった空を背景に、オンボロ寮の面々がスカラビア寮に足を踏み入れる。
門の前には、先ほどより落ち着いた雰囲気のカリムと――
隣に静かに控える、黒髪の青年がいた。
副寮長・ジャミル・バイパー。
その目は、フェイドを一目見るなり、かすかに目を細めた。
「……初めまして。ジャミルです。寮長のお招きに応じてくださり、感謝します」
フェイドは丁寧に頭を下げる。
「“ネメシス”と申します。お招きに感謝いたします。……どうぞ、よろしく」
ジャミルはその名をどこかで聞いたことがあるような、少し警戒を込めた表情で見返していた。
「……(この子……どこか、引っかかるな……)」
だが、すぐに彼は微笑みを作る。
「歓迎します。今日は、ごゆっくりどうぞ」
「宴と仮面と影」
–陽気な空間の奥に潜む、無言の観察者たち–
⸻
〔スカラビア寮・メインホール〕
広々としたホールの中。
香辛料の香りがふわりと漂い、絨毯には陽気な装飾、天井には揺れるランプの灯。
中央の長テーブルには、色とりどりの料理が並んでいた。
スパイスの効いた肉料理、ハチミツと果物のタルト、金色の香油がきらめくデザート――
「どうだ? オレんとこの料理、美味しいだろ!」
カリムは嬉しそうに笑いながら、グリムの皿に大盛りの料理を取り分けている。
グリム:「んぐっ……これ、うっまっ! なんだこの味!? しっぽが震えるぞ!」
ユウ:「わっ、辛いのに甘い……でもクセになる味……!」
エース:「さすが金持ち寮だなぁ。皿からして豪華すぎる……!」
デュース:「この香辛料、調合の比率が絶妙だ。調理担当の人って……」
ジャミル:「……僕です。香りが強くても胃に残らないよう、配合に工夫を凝らしています」
フェイドは、テーブルの端に控えめに座っていたが、香りと湯気を見てふわりと笑う。
「これはまた……目にも舌にも華やかで、まるで一つの“魔法”のようですね。
副寮長殿のお手前、見事にございます」
ジャミルはその言葉に軽く目を細める。
「……お褒めいただき光栄です、“ネメシス”さん」
「(この子……やっぱりただの生徒じゃない。物腰も言葉も……“素性”を隠している者の匂いがする)」
⸻
〔スカラビア寮・屋上庭園〕
宴の後。
皆が腹を満たして落ち着いた頃、フェイドは一人、屋上に出ていた。
夜風が髪を揺らし、砂の香りが静かに漂っている。
そこへ、足音が一つ。
「やっぱり来てたか、ネメシス」
カリムが、ランプの灯を手に歩いてくる。
「うちの寮って、賑やかだけど……この屋上は不思議と落ち着くだろ?」
フェイドは静かに頷いた。
「ええ。ここは……風も静かで、星もよく見えますね」
「オレ、こういうとき思うんだ。
“たくさんの人と一緒にいられる幸せ”って、案外すごいことなんだなって」
「ネメシスにも、そういうのあるか?」
フェイドはしばらく黙っていた。
けれど、ゆっくりと口を開いた。
「……“共に過ごす”ということが、どれほど尊くて儚いものか……
それを知ったのは、きっと昔のことです」
「……そっか。じゃあ、今がそうだといいな」
カリムの声には一切の打算も疑いもない、ただの“まっすぐさ”だけがあった。
フェイドの瞳がほんのわずか揺れる。
(……この純粋さを、いつまで守っていられるだろう)
⸻
〔その頃・スカラビア寮・厨房〕
ジャミルは、一人厨房で片付けをしていた。
ふと、手を止めて呟く。
「“フェイド”――そう呼ばれていた存在が、仮にあの子の隠れた名にいるとしたら……」
「学園長、そしてオクタヴィネル……少なくとも、彼らは“知っている”」
ジャミルの目が、静かに光を宿す。
「……やっぱり、“計画”を早めるべきかもしれないな」
「蛇の計略、目覚める影」
–笑顔の隣に潜む、静かな毒–
⸻
〔スカラビア寮・翌朝〕
朝日が赤金色のカーテンを揺らす。
フェイドは早朝の空気の中、バルコニーで静かにストレッチをしていた。
彼女の髪はきちんと後ろで束ねられ、朝の準備をしていた。
やがてバルコニーの奥から、ふわぁ、と大きなあくびが聞こえる。
グリム:「ふあー……まだねむいぞ……」
ユウ:「朝ごはん、今日もジャミルさんが作ってくれるのかな……?」
「おはようございます、皆さま」
ジャミルは時間通り、すっと姿を現す。
手にはサフランライスと、スパイスの香る豆のスープ。
「昨日の食事が少し重かったようですから、今朝は消化に優しいものを。お口に合えば幸いです」
フェイドは丁寧に礼をして一言。
「さすがでございます。朝の空気とこの香りが、何とも心を整えてくれますね」
「……恐縮です」
その表情は変わらない。だが――
その視線だけが、フェイドの一挙一動を捉えていた。
(……やはり、只者じゃない。あの言葉遣い、立ち振る舞い……そして、妙な“魔力の気配”。
もしや、魔法が使えないというのも――偽りか)
〔昼・スカラビア寮・談話室〕
ユウとフェイドは、カリムと一緒にスカラビアの文化を体験していた。
絨毯織りや楽器の音合わせ、香の調合、民族舞踊……どれも、見たこともないような魅力にあふれていた。
「な? オレの国の文化って、面白いだろ? 空の下で踊るのも、香水つくるのも、みんなの文化なんだ!」
「うん! こんなにたくさんの香りの種類があるなんて知らなかった……!」
フェイドも微笑んで頷く。
「香りは、“記憶”と深く結びつく感覚です。
目に見えぬものほど、人の心を縛る……それは魔法と似ているのかもしれませんね」
「うわっ、なんか詩人みたいなこと言うな〜ネメシスって!」
「でもオレ、そういうのすごく好きだ。
ネメシスも、ユウも、いつかオレの国に遊びに来てほしいな」
その言葉は、澄んでいた。
何の裏も、見返りも求めない――まっすぐな“光”そのもの。
フェイドはその光に、少し目を細めて頷いた。
「……お誘い、光栄です。いつか皆様と……きっと」
〔同時刻・スカラビア寮・地下倉庫〕
倉庫の奥、埃をかぶった地図と古文書が並ぶその場所で――
ジャミルは一人、何かの調整をしていた。
「この“魔法薬”が完成すれば……カリムは、しばらく“大人しく”なるだろう」
「陽の光ばかりじゃ、人は育たない。時には……“影”が必要なんだよ」
彼の指先には、小瓶が光を帯びていた。
✧ 第四章
「支配の序章、閉ざされた自由」
–黄金の笑顔に走るひび、静かな異変–
⸻
〔数日後・スカラビア寮・朝〕
スカラビアでの滞在も数日が過ぎ、フェイドたちはすっかりここの空気にも慣れていた。
砂漠の陽光は相変わらず眩しく、朝食の食卓には今日もスパイスの香りが広がっている。
しかし、今日の空気には、どこか違和感があった。
グリム:「んー……なんか、カリムのやつ、ぼーっとしてねぇかぁ?」
ユウ:「えっ……そうかな。昨日の夜、すごく元気だったけど……」
エース:「なんかこう……やけに静かっていうか。いつものハイテンション感がないっていうか……」
カリムは椅子に座りながらも、目元に疲れを滲ませ、スープをかき混ぜているだけだった。
「……あー……うん、なんだか、ちょっと眠くてさ。
オレ、大丈夫だよ。ほんとに、ただの寝不足……」
デュース:「先輩、もしかして具合が悪いんじゃ……」
フェイドは黙って彼の様子を見ていた。
穏やかな目の奥に、一瞬だけ、冷静さがきらりと光る。
(魔法的な異変……身体の気の巡りが、妙に沈んでいる。
それも自然な疲れではなく、“外部からの操作”……)
けれどフェイドは、それをすぐには口にしなかった。
「お身体の不調は、日々の疲れの蓄積もございます。
どうか、本日は無理をなさらず……」
そう静かに言葉をかけると、カリムは微笑みだけを浮かべて頷いた。
「うん、ありがとう。ネメシスって、ほんとに……優しいな……」
その言葉はどこか遠く、熱のこもらないものだった。
〔同日・中庭の回廊〕
食後、ユウとフェイドは中庭を歩いていた。
木陰に広がる花の香りが、砂と香辛料の気配を柔らげている。
「……アウル。ねえ、さっきのカリム先輩、やっぱりちょっと変だったよね?」
「……はい。あれは“意図的な沈静”。自然の眠気や疲労ではございません。
けれど、確証がない限りは、軽々に断定できぬ問題です」
「……それって、誰かが“なにかしてる”ってこと?」
「……そう考えられます。“副寮長殿”の動き、少し見張っておいた方が良いかもしれません」
「ジャミルさん……?」
フェイドは頷いたが、その目にはどこか冷静な決意が宿っていた。
(この寮には、光と影が共に存在する。
その均衡が今、静かに崩れ始めている)
⸻
〔同時刻・スカラビア寮・副寮長私室〕
ジャミルは小瓶を手に、帳簿を整理していた。
「……ふむ、効果は出始めているな。
このまま“カリム”が失言し、混乱を招けば……寮の責任者は僕に代わる」
「そして、自由が手に入る。“誰かの影”としてではなく、僕自身の人生が――」
その目には、決意と……冷えた怒りが宿っていた。
「失われる声、深まる影」
–静かな命令、甘い囁きが絆を切り裂く–
⸻
〔スカラビア寮・深夜〕
寮が静まり返ったころ。
明かりの消えた廊下を、ジャミルは音もなく歩いていた。
向かうのは――カリムの私室。
部屋に入ると、ベッドの上でうたた寝をしていたカリムが、目を覚ましかける。
「ん……? ジャミルか……?」
その瞬間。
ジャミルは、低く、柔らかな声で囁いた。
「《スネーク・ウィスパー》」
ぴたり、とカリムの瞳から光が消えた。
その瞳は、糸を引くように静かで、感情が抜け落ちたように遠い。
ジャミルは、一歩、彼に近づいて命じた。
「明日、オンボロ寮の生徒たちに“寮の責任は全部僕に任せる”と宣言して。
君は少し“疲れた”って言えばいい。……でわかったか?」
「……わかったよ、ジャミル……」
その声は、優しく素直なカリムのものだった。
けれどそこには、いつもの無邪気さも、輝きもなかった。
「おまえってほんと……器用だな」
ジャミルは、どこか自嘲気味に笑う。
「誰にでも好かれて、誰からも守られて……“選ばれる”側は、どんな気持ちなんだろうな」
そしてもう一度、カリムに向き直る。
「忘れて。今のこと、全部。いつも通りでいて。
君は、俺の言うことだけ聞いてればいい」
そして、ゆっくりと背を向けた。
⸻
〔翌朝・スカラビア寮 談話室〕
朝食の席で、カリムはゆっくりと話し出した。
「あのさ、今日からしばらく……ジャミルに寮のこと、全部任せようと思うんだ。
オレ、ちょっと疲れちゃってさ。……みんな、ごめんな」
エース:「えっ、マジで? 急じゃね……?」
デュース:「な、何かあったんですか?」
ユウは心配そうにカリムを見つめ、フェイドは静かに目を伏せた。
(……魔力の乱れ、感情の抑制。間違いありません。これは“誰かの意志”による“強制”。
……そしてこの魔力の特性は――)
「おそらく本人固有の魔法、俗に言うユニーク魔法でしょう 」
フェイドは、囁くようにユウに伝える。
「それって……! じゃあ……」
「ええ。私の憶測では副寮長殿かと。」
〔スカラビア寮・キッチン裏・その夜〕
ユウとフェイドは、ジャミルの動きを観察していた。
フェイドは声を低くし、仮面の下で目を細める。
「――まもなく、彼の“計画”は終盤に差し掛かります。
あとは……カリムさんが“失言”する機会を、どう演出するか」
「止めなくちゃ。……私たちで、できるかな……?」
フェイドは、ユウの手をそっと取り、柔らかく微笑む。
「大丈夫です。……貴方が、信じる限り。
私もまた、信じて動くのみです」
「仮面の下、動き出す正義」
–沈黙の観察者が、静かに舞台へ上がるとき–
⸻
〔スカラビア寮・夕刻の中庭〕
陽が傾き始めたスカラビアの中庭。
今日はどこか、空気がざわついている。
寮生たちは小声でひそひそと囁き合っていた。
「なあ、最近の寮長、やけに元気なくねぇか……?」
「副寮長が全部仕切ってるのも変だよな……いつもはあんなに後ろに控えてたのに……」
フェイドは、そのざわめきを静かに聞いていた。
ユウは隣で少し落ち着かない様子。
「……みんな、やっぱり気づいてるね」
「“声”は、真実の端を連れてくるもの。
いずれ、この寮にも波が立つ……その前に、私たちが動かねばなりません」
彼女の目は、仮面の奥で真剣に光っていた。
手には、いつの間にか小さな魔道具――“魔力の流れを測る指輪”が握られている。
〔スカラビア寮・ジャミルの私室・夜〕
その夜――フェイドは単独で、ジャミルの私室へと向かった。
扉の前で足を止めると、指先が軽く震える。
だがその震えは、ためらいではない。
“決断”を告げる風の前触れ。
扉をノックせず、フェイドはそっと呟いた。
「《アブソリュート・サイレンス》」
魔法が発動し、室内の音と気配が全て遮断される。
そのまま静かに扉を開け、彼女はジャミルの前に立った。
「……来ると思ってたよ、“フェイド”」
「それほどに、私の“疑念”は隠しきれませんでしたか」
ジャミルは表情を崩さず、書類の束を閉じる。
「君は――いや、“君たちの一族”は、こういう時に動く。
リーチの妹、そして……“あの名”を持つ者ならば、当然か」
フェイドは瞳を細めた。
(……やはり、この男、私の素性に勘づいている)
だが――ジャミルの口元が、ふっと歪んだ。
「でもお前だってわかるだろ? 俺が、どれだけ“自由”じゃなかったか」
「俺はずっと、カリムの影だった。寮長は表向き、僕は裏。
どれだけ努力しても、名前も栄光も、全部“あいつのもの”。」
「それが正しいって、誰が決めたんだよ」
フェイドは一歩、彼に近づいた。
「……だから、“操る”という選択を?
それは、正しさではなく、ただの“別の支配”にすぎません」
「……お前にそれを語る資格があるのか?」
フェイドの声は静かだった。
「はい。私は、“仮面”を被ることで、誰にも知られず生きてきました。
誰かに選ばれることもなく、誰かに頼られることもなく。
けれど――誰も、操ったことはありません」
その言葉に、ジャミルの目がわずかに揺れた。
「……私は、あなたのことを責めるつもりはありません。
ですが、“これ以上”――あの方を傷つけるのなら」
仮面の奥の瞳が、深く静かに燃える。
「――止めます」
「決裂と対峙、蛇は牙を剥く」
–交わらぬ理想、裂けゆく絆–
⸻
〔スカラビア寮・夜明け前〕
薄明かりの空の下。
スカラビア寮の中庭には、誰もいないはずだった。
だが、その中央に立つ影――
操られたままのカリムが、ぼんやりと空を見上げていた。
そして、その前に立つフェイド。
彼女の仮面は冷静そのものだが、心の奥には確かな“怒り”が宿っていた。
「カリムさん……お願いです。どうか、目を覚まして」
「……なに、言ってんだ……オレは、ジャミルの言うとおりに……」
その声は平坦で、感情のない人形のようだった。
ユウ:「ネメシス……!」
ユウとグリム、エース、デュースが走って駆け寄る。
エース:「な、何これ……! 本当に操られてるってことかよ……!」
デュース:「こんなこと、許されるわけない……!」
グリム:「あいつ、どこにいやがるんだぞ! ジャミル!!」
⸻
〔その頃・スカラビア寮・地下通路〕
ジャミルは、古い通路に立っていた。
「俺の魔法は絶対だ。言葉一つで、あいつは何でも言うことを聞く。
……俺はもう、誰かの影じゃない。今度は、僕が――」
そこへ、フェイドの声が届く。
「――その道の先には、何も残りませんよ、ジャミルさん」
ジャミルが振り返ると、そこにはすでにフェイドの姿があった。
「“影”というならば、私は今までもずっとそうでした。
でも……影は、光を消すためにあるのではなく、光を映すためにあるのです」
「黙れ……!」
「お前みたいな“選ばれし者”に、俺の気持ちがわかるもんか!!」
その瞬間――
「《スネーク・ウィスパー》!」
ジャミルが指を鳴らし、フェイドへ命令を発動しようとする。
だが――
「無駄です。私は、あなたの魔法の影響を受けません」
アウルの手元に光る魔法陣。
「――《反響の盾〈レゾナンス・ヴェール〉》、
精神干渉系魔法、完全遮断状態にて、解除不能です」
「なっ……!」
フェイドは静かに歩み寄る。
「あなたの“怒り”も、“願い”も、すべて理解しようとは思いません。
けれど、それを理由に誰かを操るなら――それは、“あなた自身”を傷つける行為です」
その言葉は、刃ではなく――“赦し”に近いものだった。
〔直後・中庭〕
ユウ:「ネメシス!、カリム先輩は……!」
フェイド:「彼を“縛る魔法”はまだ解けていません……ですが、“主”が弱まれば――」
カリム:「……ぁ……」
フェイドの魔法が解き放つ“反響”の力が、カリムの中に残る命令を打ち砕く。
その瞳に、徐々に“光”が戻っていく。
カリム:「……あれ? なんだろう……すごく、夢を見てたような……」
ユウ:「カリム先輩…! よかった……!」
フェイド:「どうか、しばし安静に。精神への負荷が残っています」
「砂上の誓い、友情の在処」
–絆は、奪うものではなく、築くもの–
⸻
〔スカラビア寮・地下通路・その刹那〕
フェイドの言葉が静かに届いたその瞬間――
ジャミルの顔が、激しく歪んだ。
「……うるさい……! うるさいうるさい……!」
「誰も! 誰も、俺の気持ちなんてわかるはずがない!!」
その叫びと同時に、彼の身体から黒い靄が溢れ出す。
空気が震え、天井の砂岩が砕ける。
フェイド:「……オーバーブロット――」
⸻
〔オーバーブロット・ジャミル〕
その姿は、巨大なコブラのような影を背にまとい、
首元には煌びやかな蛇の装飾、眼は真紅に染まっていた。
「“支配されるのが嫌なら、最初から生まれてくるな!”
“望まれるだけの人間は、どんなに努力しても、決して超えられないんだよ!”」
その声は、怒りと嘆き、悔しさで満ちていた。
カリム:「ジャミル……!」
ユウ:「逃げなきゃ――!」
フェイドは皆を庇うように一歩前に出る。
その口元は笑っていた――冷静な、“フェイド”の微笑みだった。
「……では、あなたの“支配”に、真正面から“対抗”いたしましょう」
⸻
〔戦闘描写:フェイドvs オーバーブロット・ジャミル〕
ジャミルのブロット魔法は、視界と感覚に“幻覚”をもたらすもの。
影の蛇たちがフェイドの足元から絡みつこうとするが――
「《セレスティアル・バインド》」
フェイドはユウ達にバレぬよう足元に魔法陣を展開し、幻覚を打ち消す聖なる光を放つ。
それは“星の理”を呼び起こす封印の魔法。
「な、何が起こってるの…?」
状況が飲み込めず唖然とするユウ
「申し訳ありません…。ユウさん、少しだけ夢を見ていてください。」
フェイドはユウとカリムに睡魔の魔法をかけ眠らせる。
「ネメ…シ..ス…?…」
「これで何も隠さずにいられますね。」
「ふん、小賢しいな..!」
2人の間に緊張が走ったら。
フェイドが冷たい眼差しであり、どこが余裕がありつつ詠唱を始めた。
「すぐに終わらせてあげましょう。」
「《アビス・ロック》」
一瞬でジャミルの体は光に包まれる。
「…っ..は..?」
「こんなもので……俺が……!」
あまり痛みに悶え苦しむジャミル。
そこへ強者の余裕かの如くフェイドが呟く。
「“真実”の光は、嘘と幻を焼き尽くします。
――あなたの心が、本当は何を求めていたのかをも」
最後に彼女は、そっと手を差し出す。
「あなたの苦しみは、もう誰かを支配する必要などありません」
⸻
〔ジャミル・覚醒後〕
轟音と共に、闇が晴れた。
ジャミルは、地に伏していた。
少しするとユウとカリムも目を覚ました。
カリム「……ジャミル、ケガしてないか!? ごめん……オレ、何も気づいてやれなくて……!」
ジャミル:「……なんで……なんで、そんな風に言えるんだよ……俺は、お前を操って……」
カリム:「それでも! オレは、ジャミルと一緒にいたい。
ジャミルがオレを守ってくれたみたいに、オレだってジャミルを守りたいんだ!」
沈黙――
そして、ジャミルは初めて、崩れるように肩を落とした。
⸻
〔スカラビア寮・後日・日常編〕
明るい日差し。
改めて整えられた食堂の中、カリムとジャミルが一緒に料理をしている。
エース:「あれ? 今日のカリム先輩、なんか料理してない?」
デュース:「ジャミルさんの監督付きだけど……なんだか楽しそうだな。」
グリム:「オレ様にも分け前よこせよな~!」
ユウとフェイドは少し離れた場所からそれを眺めていた。
「……よかった、元通りだね」
「いえ、元通りではございません。
――“少しずつ、本当の関係を築き直している”のだと思います」
「ネメシスって、なんだか時々すごく大人びて見えるよね」
フェイドは小さく微笑んで、
「……それは、秘密です」とだけ言って、仮面の奥でそっと瞳を伏せた。
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