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#怪異
イキリ火の玉
1,443
満月から一週間が経った。
晴れてハザマビトからニエビトになった努たち。翌朝確認に行くと確かにトンネルも消えていた。そして携帯電話の電波と同じくカーナビも車のラジオも受信しなくなっていた。
満月の夜からこの村は本当の正体を現した。
まずは格差。薄々気づいてはいたがこの村には歴然とした上下関係があった。奥原とその取り巻きはそれ以外の村人に命令や暴力を平然とおこなっていた。
こんな小さな村に上下関係があることに違和感があったが、隔絶された小さな村だからこそだと梶に教えられた。
そしてなによりこの村をこの村たらしめているのは生け贄だ。
良くも悪くもこの村は生け贄によって成り立っていた。生け贄の選び方や儀式の方法という情報の専有で反乱を防ぎ、生け贄選びで奥原一派が村人を支配していた。
逆に生け贄がなければ食料や女を巡って人間同士が殺し合いをしていただろう。それは梶の言葉だったが人間の闇を沢山見てきたであろうヤクザの梶だからこそ真実味があった。
「生け贄の村だな」
努は口に出した。そのとき森の奥からケェェェェと何かの鳴き声が聞こえて思わず小さな悲鳴を漏らしてしまった。
「梶さん。親分さんは助けなくていいんですか?」
お堂へ向かう途中で梶に訊いた。安田に半殺しにされた親分は次の生け贄として拷問屋敷に拘束されて2~3日に一回あの儀式と拷問を受けている。
怪我の治療の見込みがないこの村では怪我人は優先的に生け贄に選ばれるのだ。
「助けたところで怪我の治療は出来ないからな」
忠誠心の高そうな梶だったが、やはりその辺は冷徹だった。早々に親分を見捨てている。いや、むしろ親分の性格を分かった上で安田とちぃこを集会所に残したのじゃないかとすら疑っていた。梶が自由に振る舞うにはどうしたって親分は邪魔だったからだ。
梶は奥原に気に入られて上層の村人として認められていた。努もそのついでに上層側の立場にしてもらえている。まったく労働がないわけではないけどお堂の書物を調べるといえば比較的自由に行動出来た。
ちぃこはアオ様の使いということで一軒を与えられて大切にされていた。奥原も使いを名乗る人物は初めてだったようで、どう扱っていいかわからないようだ。
安田は完全にちぃこの護衛になっていて、沢村と木村は梶のように上層の村人ではなく、かといって下層に命令出来る立場ではない宙ぶらりんの状態だった。
お堂につくと二人は書物を調べ始める。集会所に持って行ってもいいのだけど、ここの方が集中できると二人とも意見が一致していた。
「退治する方法は何かないのか?」
小一時間ほど経って梶が訊いてきた。
「特に見つからないですね。前にネットで調べたことですが妖怪退治の方法はいくつかあって、矢で射る、刀で倒す。犬をけしかける。酒を飲ませて弱らせる。毒。火」
「人間相手と変わらないな」
「それ以外だと封印するとか追い払う方法もよくありますね。有名なのだと節分の柊の葉と鰯の頭とかで臭いとか、火とか、変わったのだと名前を叫ぶとか」
スマホで調べていた内容を良く覚えていた。それが梶がパートナーに選んでいる理由だと努自身理解している。
「名前なんて呼んだら、むしろ近寄ってきそうだがな」
「なんか本当の名前を呼ぶと正体を知られていると思って逃げるらしいです」
「フッ、匿名ネットみたいだな」
「はは、そうですね」
本腰を入れて調べてみるとお堂の書物には沢山の情報があった。
妖怪の名前はこの村に迷い込んだ侍が故事から名付けたとか、村の結界は旅の山伏が張ったとか、生け贄は結界が張られる前からあったなど。
その中に妖怪の正体や倒し方がないかと探したけど簡単に見つかるものではなかった。
コメント
1件
第26話、読み終えました。 村の本当の姿が露わになって、どんどん緊迫感が増してきましたね。生け贄によって成り立つ村というシステムと、格差社会のリアルさにゾッとしました。「生け贄の村だな」って努さんが呟くシーン、静かな絶望と覚悟が混ざっていて印象的です。梶さんの冷徹な判断力も、ヤクザだからこその実感を帯びていて引き込まれました。 お堂の書物を調べながら妖怪退治の方法を探す場面、まるで自分も隣で一緒に調べているような気分になりました。名前を呼ぶと逃げるって話、匿名ネットみたいって流れがちょっと笑えて、こういう緩急のバランスが好きです。 続きが気になります。努たちがどんな策を見つけるのか、楽しみにしていますね🌷