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同時刻、命からがら脱出したリンドバーグ・ファミリーの構成員達は港湾エリアを抜けて十五番街にある隠れ家へと逃げ込んだ。
そして桟橋に於ける詳細を知らされたリンドバーグは、焦りを覚えた。
「やはり収拾はできなかったかっ!構成員全員に通達、我々はこれより地下へと潜む!」
「ボス!?逆襲するんじゃないんですか!?」
その言葉に部下達は驚愕する。
「当たり前だ!分からんのかね?既に我々は暁の術中にある。嵌められたのだよ、盛大にな」
「そんな馬鹿な!?」
「我々が強奪したブツはかなりの額になるんですよ!?」
「それすらも策略だったのだとしたら?わざと奪わせるために用意したとなれば、我々は暁の経済力を見誤っていたのかもしれん」
「あり得ないっ……!」
「荒波の歌声はどうなったのだね?」
「残念ながら、逃げ延びた奴は居ないでしょう。奴等の追撃は激しくて」
そう漏らした部下の言葉に、リンドバーグは青ざめる。
「待て、それほど激しい追撃を加えてきたのならば何故少数とは言え我がファミリーには生還者が居るのだ……!?」
リンドバーグの言葉に一同顔を青ざめさせる。
「『血塗られた戦旗』に連絡しましょう!俺達だけじゃ勝ち目がない!」
「いや、そもそも奴等がここまで乗り込むとは思えない!ここは『血塗られた戦旗』の縄張りなんだ!」
「希望的観測は止めたまえ。暁が血塗られた戦旗を敵として見定めているならば、そこに拘りはあるまい。直ぐに撤収の準備を。それと、万が一に備えて戦闘準備も整えたまえ!」
「はいっ!」
リンドバーグ・ファミリーは交戦に備える。
対する暁は、マクベス率いる戦闘部隊の到着を待って十五番街へと進軍。大量の馬車が列をなして進撃していた。
幸い三者連合の隠れ家はメインストリートから離れた閑散とした場所にあったため、混雑を避けることができた。
とは言え、『血塗られた戦旗』の支配地域に堂々と軍を侵入させたのだ。当然彼らといざこざが起きることを警戒していたが、『血塗られた戦旗』は手を出してくることはなかった。
「やけに静かだな、逆に不気味だ」
ベルモンドが疑問に思うのも無理はない。
実は『暁』の侵攻に合わせて『オータムリゾート』が『血塗られた戦旗』へ圧力を掛けていたのだ。
「あー、てめえらが匿ってる奴等、三者連合だっけ?あいつらが盗んだ品の中に私らの取り分があるんだ。ふざけた真似してくれたと思わねぇか?落とし前付けるから、邪魔すんなよ」
リースリット直筆の脅迫状を受け取った『血塗られた戦旗』のリューガは苦悩した後、現状を省みて抗うことは得策ではないと判断。リンドバーグ・ファミリーを見殺しとする決断を下す。
これにより『血塗られた戦旗』は監視のための人員を配置したものの、静観の構えを見せた。リンドバーグ・ファミリーからの救援要請は無視されたのである。
一方暁はリンドバーグ・ファミリーの立て籠る三階建ての屋敷を完全に包囲していた。
「さぁて、どうやって攻めるかねぇ?」
「真正面から挑むのも悪くはありませんが、犠牲者を覚悟せねばなりませんな」
ベルモンド、マクベスが話し合っているとそこへカテリナとアスカ、リナが合流した。海賊衆は慣れない地上での戦いで疲れを見せていたので第四桟橋に後退、万が一に備えて待機となっていた。
「よう、お三方」
「お疲れ様です、皆さん」
「……おつかれ」
「……状況は?」
「ご覧の通りさ」
リンドバーグ・ファミリーは残された人員を結集して屋敷に立て籠り、家財などでバリケードを築いていた。
「見る限り、あちらの装備はマスケット銃ではありませんな。あれは、M1873です」
「なんですか?それは」
銃器に疎いリナの質問に対して、カテリナが簡潔に答える。
「……マスケット銃より高性能ですよ。『ライデン社』、余計な真似をしてくれますね」
忌々しげに呟くカテリナ。
ウィンチェスターM1873とは『ライデン社』が十年以上前に開発した新型のレバーアクションライフルである。
レバーアクションライフルとは、銃の機関部下側に突き出た用心鉄を兼ねたレバーを下に引き、それをまた戻すことで薬室から空薬莢を排除すると同時に次弾を装填するという仕組みを有するライフル銃である。
専用の管状弾倉を備えることで連射することが可能となり、それまで1発発射するたびに弾込めが必要であったマスケット銃より画期的なものであった。
ボルトアクションライフルが正式に量産され始めた現在でもマスケット銃より強力な銃として裏社会で広く流通している。
尚、ウィンチェスターM1873は西部開拓時代に活躍した銃であり、西部劇ではお馴染みで西部を征した銃とも呼ばれている。
「M1873か、そいつぁ厄介だな。マスケット銃より連射できるぞ」
「単純な連射速度ではボルトアクションライフルを越えるかもしれません。こちらの優位は射程ですが、屋敷に籠られては活かせませんな」
しばらく話し合いをしていると、屋敷の扉が開いて老紳士が一人出てくる。
「構え!まだ撃つなよ!」
包囲している一同は一斉にライフルを構える。
老紳士は正門の手前まで出てきて、そこで立ち止まる。
「暁の御一同に物申したい!私はリンドバーグ!諸君が包囲している組織を率いるものである!」
それは周囲に響き渡る大きな声であった。
「あれがリンドバーグ!?仕留めますか?」
リナとエルフ達も弓を構える。
「話を聞いてみるか。まだ撃つなよー?」
「諸君がもっとも理解していることであろうが、事ここに至って我等に逆転の手はない!諸君らに停戦、いや降伏を申し入れたい!最早これ以上の争いは無意味である!今後は諸君らの傘下として身を粉にして働くことを誓おう!」
「なんと!?降伏を!?」
「納得いかぬならば、この老人の首を進呈しよう!どうか我が組織の若者達を逃がしてはくれまいか!?伏してお願い申し上げる!」
「おいおい、マジかよ。降伏してくるとは思わなかったが……」
「……忌々しい、やってくれましたね」
「シスター?どうしました?」
カテリナの呟きにリナが反応する。
「……あれだけの大声で叫ばれては、周囲の第三者に聞こえているでしょうよ。奴はそれを計算に入れてあんな真似をしているのです」
事実屋敷の周囲には隠れているとは言え十五番街の住人や『血塗られた戦旗』の構成員が居る。彼らの耳にもリンドバーグの言葉は届いていた。
「これで俺達が無体をすれば、うちの悪評が広まるって訳だ。参ったな」
「シスターカテリナ、お嬢様のご指示は?」
「……生存者の必要は無しと」
「だよなぁ。アイツを生かしておくと困る。最低限野郎を殺れるなら……ん?」
「……ベルモンド、どうしたの?」
アスカが首をかしげる。
「いや、あいつは……なるほどな、危うく引っ掛かるところだった」
「ベルモンド殿?」
「マクベスの旦那、構わねぇからアイツを撃ち殺してくれ」
「なっ!?それでは悪評が広がるぞ!」
「……何のつもりですか?ベルモンド」
「なぁに、大丈夫だ。俺を信じてくれ、シスター。お嬢の顔に泥を塗るような真似はしないからさ」
「……分かりました。マクベス、殺りなさい」
「はっ!構え!」
「なっ!?我々は!」
「撃て!!!」
次の瞬間構えていた百名が一斉射撃を敢行。リンドバーグを無数の銃弾が貫いた。
「何と言うことを!」
「いや、あれを見ろ!」
倒れた男の顔からマスクが剥がれ、若い青年が姿を表した。
「若い!?」
「偽物だと!?」
屋敷が騒がしくなる。
「だから大丈夫だって言ったろ?」
ベルモンドはニヤリと笑い、慌ただしくなった屋敷を見つめるのだった。