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「この店…めめちゃんとこ?あ、ここ映ってる。」
ママがひそひそと話していても、耳がいい俺にはしっかり聞き取れる。それにしても…めめちゃん?音量落とされる前にすぐ後に聴こえたのが女の子の声だったけど…『こっち』の人間で合ってる?いや、『あっち』で撮ったって言ってたな。
「隣は…リョウちゃんかな。やっぱかっこいいね?」
リョウちゃん。男女問わずある名前だから何とも言えないな。そう思案していると、店子は気づいてほしいようにスマホの特定の位置を指差す。
「違うこっち!この子!」
「あら、スタイル良いね。顔もちっちゃいし、かわ…あれ?」
すかさずママに気付かれないように視線を移すと、その表情は急に真剣なものへと変わり、思案するように腕を組んで右手で口元を隠した。
「どう?」
「いや、画質と画角がちょっとなぁ…。何、右手どうしたの?」
「怪我したっぽいんだよ。」
右手に怪我…ね。ママがその人を探してるなら、一旦俺の方でも近いうちに康二と会って確認しないとだな。
そう思いつくと1口酒を煽り、即座にスマホを取り出してチャットアプリを開く。暫く連絡を取ってなかったこともあり、トークルームを見つけることに時間がかかりそうだ。
「顔確認しようとしたけど…俺、身体が女だし、背が低めじゃん?その後すぐ野次馬ハケちゃったし、俺だけ近付いてじっくり…とはさすがにいかなくて。」
「そうよねぇ…でもありがと。これ、送っといてくれる?」
「分かった。改めて買い出し行ってくる!」
ママに返却されたスマホをポケットに押し込み、改めて店を後にする店子。ついでにとママは灰皿を取り出してそのまま電子煙草の準備を始めたところで、俺は本格的に康二のトークルームを探した。
「涼太、」
「うん?」
不意に翔太から声をかけられ、差し出されたスマホを見る。そこには、康二と思われるホーム画面。ほぼ同時に発見して開いていた康二のトークルームのアイコンとは違うものだった。
「探してるの、これだろ?アイツ、去年携帯ぶっ壊れてデータ全部飛んだんだよ。クラウド使ってなかったし。連絡するとは言ってたけど…絶対忘れてるんだよな。」
「………送ってくれる?」
本当、この幼馴染の洞察力と直感力…最早怖いまで来てるんだけど。
“めめちゃん、この前話してた子と会ったの?”
“終わったらお店来なさい”
あの騒動から数日経った閉店後、事務所でチャットアプリを確認していると、ママからの連絡。
文章に続けて送られたのは俺と一緒の画角で写ったアイツの切り抜き写真で。呼び出しまでされてしまったからにはもう言い逃れできないことを察して失意に沈んでいると、唐突に背後から衝撃が走った。
「っどーーん!!レン何してんのー?」
「ぅお、!?、サクさん…ビックリした…。」
「んにゃっはは、ドッキリ大成功ー!」
飲酒に少し顔を火照らせながらきゃっきゃと上機嫌なサクさんは俺の手元のスマホを見つけると、それを手に取ってその内容まで読んだ。
「あっ、ママじゃーん。んははっ呼び出しくらってるしー!……およっ?誰この子?ていうか画質荒ぁー!」
「ちょっ…勝手に見ないでよ。」
スマホを奪い返すと、画面を閉じて内ポケットにしまい込む。《ねー!誰なのー!?どこの男よー!》と俺の左肩に頭を置き、耳元で尚も騒ぐサクさんにノールックで強めのデコピンを1発お見舞いすると、
「ぎゃんっ!」
と尻尾を踏まれた猫のような声をあげて大人しくなった。
「レン…俺、一応先輩なんだけど…。」
「先輩ならリョウさんの振る舞いを見習ったらどうなの?」
「ご、ごもっともで…。」
額をぱたぱた仰ぐ自称先輩を気にすることなく席を立つと、続いてリョウさんが事務所に入ってきた。
「うわっ、…2人ともここにいたんだ。今日もお疲れ様。」
「お疲れ様でした。」
「リョウお疲れーぃ!」
自分のデスクに座ると、シフトとスケジュールを確認してスリープ状態のパソコンを起こす。パスワードを叩き込みながら、彼はそのまま立ち去ろうとした背中に向かって俺を呼んだ。
「めめ、今日は結局アフター入れてないよね?」
「そうだね。たまにはいいでしょ。」
「うん、全然いいんだけどさ。この精算終わったら呑み行かない?」
意味ありげな表情でこちらを一瞥すると、伝票の金額を慣れた手つきで素早く入力していく。
「えっ?」
「どうせふかママのところ行くんでしょ?俺も行く。」
「えーー!じゃあ俺も行きたーい!」
「サク、アフター入ってなかったっけ?」
リョウさんの指摘に《あ。》と真っ直ぐ挙手していた手をゆっくり下ろすと、名案が閃いたようにその手を胸の前でぐっと握った。
「近くの店だし、ぱぱっと食って合流する!」
「…いいけど、姫を雑に扱うことだけはしないでね?サクそういうとこあるから。」
「了解でありますっ!じゃあ早めに行ってきまぁす!」
嵐のようなサクさんが去ったことで、事務所内が静かに感じる。待つことしかできなかった俺は、カタカタとキーボードを叩くリョウさんの左後ろにつき、入力済の伝票を手に取った。
「…ダブルチェック、手伝います。」
「本当?ありがと、助かる。」
俺の『夢』を知るリョウさんはスタッフの仕事を俺がやることに快く承諾してくれる。…まあ最も、仕事が早く終わるからっていうことが1番の理由なんだろうけど。