テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
12,555
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「何で俺がふかママのとこ行くって分かったの?」
黒服達にクロージングを任せて店を後にすると、俺はリョウさんのやや後ろを歩く。俺がNo.1になったと同時にリョウさんがプレイヤー引退となった今でもこの人の前や隣では歩けない。気まずい沈黙がなんか嫌で、俺はその背中に声をかけた。
「開店前にあれだけの騒ぎと人集りがあったら、1人くらい店子さん居るかと思って。そうじゃなくても、常連さんが居て話聞いた可能性もあるし。まずは店のイメージを大事にするレンだから、悪い話飛んでるなら軌道修正の依頼かけておくんじゃないかってね。」
…正にその通りだった。何も言えずにいると、リョウさんはちらりとこちらに振り返り、俺の表情を見るなり小さく笑った。
「当たり?…っふふ、だいぶ『あの頃』の俺に似てきたね?」
仕方ないでしょ。だって、
「ずっと背中追いかけてたから、そりゃ自然と似るんじゃない?」
再び前を向いて黙々と歩き続ける彼に、少しの照れ臭さを感じた。それを隠すように煙草を取り出すと、キンッ、と澄んだ金属音を発して目の前で既に火が点いている。《…ども。》と煙草の先に火をつけ終わると、ジッポの蓋が閉じられた。
…この先もこの人に勝てることは無いんだろうな。
そう思いながら、肺に巡らせた煙に僅かな敗北感を纏わせて吐き出した。
ドアベルが鳴ると、カウンターから一斉に視線を浴びる。早番のラウールは既に帰宅していたようで、照さんとふかママ、遅番組の2人の店子が並んでいた。
「レン、…リョウもか。いらっしゃい。」
「えっ、リョウちゃん!?」
「お疲れ、ふかママ。照も皆も。」
照さんの言葉にママは自分の顔をぺたぺた触りながらあたふたし始めた。
「え、やば、今日メイクしてない!」
「いつもしてないだろ。」
「失礼な!出勤する時はファンデーションとアイブローとリップくらいしてるよ!」
ツッコんだつもりが思わぬ事実が返ってきたらしく、照さんは大きく目を見開いてママの顔をまじまじと見つめた。
「…8年間で初めて知った…。」
「照?!嘘でしょ!?」
《ていうか顔近いっ!》と少し距離をとったママは軽く咳払いをして、2人の居る奥側のカウンター席へ俺たちを招く。
着席するなりママから灰皿を差し出され、照さんはママを含めた3人分の酒を作り始めた。電子煙草の電源を点けると、ママは切り替えるように1度深呼吸をした。
「まあ、今日はめめちゃんを呼び出したわけなんだけど、リョウちゃんもあの場に居たみたいだし、一緒に聞いていい話ってことなんだよね?」
「、そうだね。」
「じゃあ…単刀直入に。あれはどういうこと?」
「あとめめ、あの子が言ってた『貸し』って何?」
ほーらやっぱり質問攻め。照さんは空気を察してか、俺たちとママにいつものジャスミンハイをそれぞれの前に置いて、そのまま他の店子についた客との輪に入っていった。
「──2人に黙ってたら後々面倒だから、順を追って説明するよ。」
そうして一旦乾杯をし、経緯の説明を始める。ただ、あの騒動の後に実際の現場を見たことだけは、敢えて伏せておいた。
よく考えれば、カネを受け取ったところを見ていない。かと言って、あの雰囲気は明らかに友人に向けたものではない。まだ、グレーゾーンを行ったり来たりしている。そんな中で提供するわけにはいかないと判断したからだ。
一部始終を話し終わった後、吸殻を捨ててママは聞いた話を細かく噛み砕いて吸収するように小さく頷き、リョウさん共々ぽつりと呟いた。
「…なるほど。」
「──その子で確定だね。」
「えっ…?なん」
聞き返そうとした瞬間、背後でばぁん、と勢いよく開かれたドア。そして、
「ママー!こんばんはー!サクが来たよー!!」
台風の襲来。にっこにこに満面の笑顔を浮かべて、俺たちと目が合うと、すかさず駆け寄って滑り込むように俺の隣へ着席する。ママは神妙な面持ちから一瞬にして切り替わり、子犬を可愛がるような声で迎え入れた。
「あらー!久しぶりさっくーん!ごめんね?今取り込み中だから一旦照と待っててくれる?」
「ぅん?…えっ!今日パパ居る!」
「誰がパパだ。サク早くこっちおいで。」
そう言って照さんは俺たちとは反対側のカウンターへ手招きすると、サクさんは素直に招かれるまま導かれていった。
「ねー、なんで俺こっち?」
せっかく合流したのにハブられるとか悲ピーマン…とか思いながら、照に思った疑問を投げかけた。
「ん。」
照が顎でママ達を指したから目を向けると、改めて重要そうな話の3人に俺ピーンときちゃったわけ。たまたま目が合った1番奥にいるリョウが一旦ごめんとジェスチャーしたから尚更。
「…にゃるほど?ありゃお邪魔できないね。」
「とりあえず、ドリンク何にする?」
店子ちゃんと場所を代わったついでに、洗い終わった食器を拭きながら彼は問いかけた。
「うーーーん…照のオススメ!」
「テキーラ?」
「死ぬって!!この後まだ予定あるのに!」
「ふっ…冗談だよ。じゃあノンアルのカシオレでいい?」
そう優しく笑いかけながら照は先に拭き終わっていたソフトドリンク用のグラスに手を伸ばす。
照はほんと優しいなぁ。ママが惚れるのも解るよぉ。そうふわふわしてきた頭でそう思ったから、つい言葉にしちゃった。
「…パパぁ…。」
「いやだからパパじゃねーんだわ。」