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そんなわけで、俺はもう一度、真帆さんに例の黒い人影について詳しく話した。
真帆さんは「ふむふむ」「なるほど」「へぇ~、こわ~い!」といいながら、なんだかわざとらしい反応を見せるばかりだった。
……本当に大丈夫なんだろうな? 心配になってくる。
最後まで話し終わって、俺は改めて真帆さんに訊ねた。
「本当に大丈夫なんだろうな? 魔法でどうにかなるんだろうな?」
すると真帆さんは、「う~ん、そうですねぇ」としばらく唇に指をあてて考えるような仕草を見せてから、おもむろに茜の方に顔を向けた。
「この件は、茜ちゃんにお願いしてみましょうか」
「はいぃ!?」
茜が素っ頓狂な声をあげて驚いたのは、いうまでもない。
俺だってびっくりだ。なんでこんな小娘なんかに。
「おいおい、なんでこんな子供に? あんたが対応してくれないのかよ!」
真帆さんは口元に笑みを浮かべてから、
「まあまあ、そうカッカなさらず。まずはその黒い人影の正体から探ってみてください、茜ちゃん」
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってよ、真帆さん!」
「なんですか?」
「なんでわたし?」
「茜ちゃんにちょうどいい案件だと思ったからですよ?」
「どこが! 超怖いじゃん! なんかあったらどうすんのよ!」
「まぁ、そのときはそのときで」
「いやいやいや! なにいってんのよ!」
「だいじょーぶですって!」
真帆さんは「ぷぷっ」と噴き出すように笑ってから、
「今のところ何の害もないみたいですし、問題ありませんって」
「そもそもわたしは――」
「うちのバイトでしょ? 神楽のおばあちゃんからも修行になるなら使ってあげてっていわれてますし、ご安心ください」
「ご安心できるかぁ――っ!」
その叫びは店の中に大きく響き渡ったのだった。
っていうか、俺だってこんな小娘に本当に対処できるのか心配でしかたがない。
今のところ害がないというだけで、これから害があるかもしれないじゃないか!
「俺は反対だ。あんたに対処してもらいたい」
「いいですけど、それなりにお代を頂くことになりますけど、よろしいですか?」
「それなりって、いくらだ」
そうですねぇ、と真帆さんはどこからともなく(それはまるで宙から唐突に生み出されたかのように見えた)電卓を取り出すと、
「諸経費や魔法の原材料費など、諸々含めまして――これくらいですね!」
示された数字に、俺は目ん玉が飛び出しそうになった。
どう考えても桁がおかしい。どこぞの黒い無免許医師か、こいつは!
「さすがにこれはぼったくりだろ!」
そんな俺の苦情に、真帆さんはにやりと笑んでから、
「そんなことありませんよー、これでも親切価格ですよー?」
棒読みの台詞みたいにいいやがる。
こいつ、絶対に嘘を吐いているに違いない。
けど、ここで食い下がってもしかたがない。
こんな軽い口調で嘘を吐きながら、嫌がる茜にあの黒い人影を任せようってからには、なにか考えがあるような気がしてならない……いや、気のせいか?
しばらく口を真一文字に閉じて、俺は真帆さんをじっと見やる。
隣では茜がまだ真帆さんに対して文句を言い続けており、真帆さんは何が楽しいのか、にやにやと笑みを湛えていた。
俺は大きくため息を吐いてから、
「……本当に、こんな小娘になんとかできるんだろうな?」
「そうですよ! わたしみたいな小娘に対処できるわけないでしょ!?」
「できますできます。保証します!」
「むむむ……」
「真帆さん! 本気!?」
「あっははは! 安心してください。絶対に、大丈夫ですから!」
そういって、真帆さんは小さく首を傾げながら、その小さな両手のひらを、ぱんっと叩いて見せたのだった。