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(な、なんか怒ってる?)
勝手に話を進めてしまったことに対して怒っているのだろうか。それとも、別の事?
睨まれただけで、怒っていると決めつけるのはよくないと思いつつも、なんか機嫌が悪そうな気がして、こっちも出を窺ってしまう。いや、本当に、睨むのはよくないと思う。こっちが悪いのかもしれないけれど。
(まあ、私たちの共有の話なのに、勝手にそれをどうこうしたいっていう私が悪いと思うけれどさ……)
「お、怒ってる?」
「はあ?」
「ひいいっ!?」
パニックになって、怒っているかと、怒っていそうな人に対してはなってしまった。それが、完全に相手の機嫌を損ねるような結果となってしまい、アルベドは、私を睨みつける。私が、びくびくと体を震わせていれば、なんだか申し訳なさそうに頭をかいた。
「いや、別に怒ってねえよ。さっきも言ったが、お前が考えて、出した答えだったんだから、何も言う資格はねえし。確かに、俺たちの秘密だけどよ……ブリリアント卿が思い出せば、それも秘密でも何でもなくなるだろうが。皇太子殿下が好きだってことは、ブリリアント卿も知ってるだろうしな」
「そ、そうなんだけど……」
「まあ、取引が上手くいったんならそれでよかったんじゃね?としか、俺は言えねえけど。本当に、慎重にな」
「アルベドは、取引とかしたことあるの?」
ふとした質問を投げれば、アルベドは、なんで俺の話なんだよ、とまた不機嫌そうに返した。怒っているじゃん、と口を尖らせば、紅蓮の髪をかいて「怒ってねえからな!」と怒鳴る。もう、いいや、と私も考えないようにして、アルベドの言葉に耳を傾けた。
「そりゃあ、いっぱいあるさ。そういう世界で生きてきたんだからな」
と、アルベドはどこか得意げにニヤリと笑うと、頬杖をつく。
まあ、アルベドだし、あるよね、とは思いつつ、そういう裏の話を聞いていいものなのかと迷いながら、おずっとアルベドを見る。だって、怖いから。アルベドが悪い人じゃないとはいえ、暗殺者で人を殺してきたことには変わりないから。
でも、取引の仕方とか、依頼の受け方とか、アルベドはよく知っているのだろう。聞いておけばよかったと思ったが、こちらも時間がないのだ。
「で?どんな取引?」
「そりゃあ、お前がよく知ってる、暗殺者としての仕事。取引っつっても、そいつが、善人でなきゃしねえぞ。んでまあ、人殺しを依頼してきている時点で善人かって言われたら、そこは答えるのが難しくなるが、善人で、そいつのせいで苦しんでいるっていうのであれば依頼を受ける。金か、そいつの命か」
「……」
「怖いだろ?」
「今の話、嘘が混ざってた」
「あ?」
「だって、アンタは、善人は殺さない。悪人しか殺さない暗殺者だから、依頼料にその人の、善人の命は含まれないんじゃない?」
「……ステラ、そういうとこだぞ」
「え?何が?」
「間違い探しとか、そんなんじゃねえんだから……はあ。その通りだけどよ」
と、アルベドは拍子抜けしたように肩を落とす。
何かしてしまっただろうかと思って、自分の発言を思い返してみるが、これと言って変なところはなかったはずだ。私が気づけていないだけなのだろうが、アルベドは、まあいいや、と気持ちを切り替えたようで、はなすのをやめた、と大きなため息をついた。
「せっかく面白かったのに」
「お前が水を差すからだろ。つっても、汚い話ばっかだから、お前の耳にはあんまよくねえかもな」
「汚い話……」
「お前は知らなくていい話だよ」
「ほんと、アンタはさ……一人で抱え込もうとするよね。確かに、出会う前のこととか全然知らないけど。少し話してくれてもいいんだから……私でよければ、の話だけどね」
「ほーいうようになったなあ。それだけ、親密になったっていうことでもあるし、俺としてもありがたいが、お前の耳が腐ると嫌だし、話さねえよ。でも、これでも頼りにしてるぞ?」
「ほんと……?」
さすがに、それが嘘だったら泣くが、そんなしょうもない嘘をつくような男でないことを私は知っていた。だから、その言葉を信じたうえで、彼が聞かせたくない話について、少し想像だけしてみようと思った。でも、簡単に想像がつくような内容ではないので、そこで私の思考は停止する。
「んで、話戻すが、まあ、確かに、ブリリアント卿から秘密についてねだられたら、とりあえずはそれを話ときゃ何とかなるだろ。ステラ自身にこれといった秘密もねえし、それが最適」
「だ、だよね。ありがとう」
アルベドに指摘されて、私の秘密がないことがぐさりと刺さった。
本当は転生者なんですーとか言ってしまえたらいいのかもしれないが、それも説明が長くなるし、あまり関係ないだろう。もう、ストーリーの外に出てしまっているのだから、この世界のことを知っていて、助けに来た、というのも嘘くさく聞こえる。ただ、攻略キャラで、プレイヤーの私腹を肥やすための存在だったって言われたら、ショックを受けるかもしれない。それだけは言いたくないなあと思うし、私も実際、今ここにいるからこそ、彼らは生きていて、簡単には好感度が上がらない、人は合うあわないあるんだよってことを言いたいし。
(攻略キャラって、つい思っちゃうけれど、攻略全然できていないからね……まず!)
攻略云々はまあ、さておき、今この世界で生きている、息をしているという実感が、私を、この世界に縛り付けたのかもしれない。戻ってもいいことがないというのは全くその通りなのだが、それ以上に、この世界を愛してしまった。この世界を作った冬華さんも、きっとこの世界のことが大好きなのだろう。そうじゃなければ、彼女は、きっとこんな細かいところまで設定できなかったはずだ。自分の作った世界だからこそ、細部までこだわって。
(すごいな……私も、そんな道に進めたのかな……)
ただのオタクから、クリエーターになることもできたかもしれない。でも、あっちの世界の私は、怠惰で自ら何かをしようとしなかった。絵が欠けたら、文章がかけたらまた違ってきたかもしれないけれど、私は何もできない、ただお金を費やすオタクだったから。
(でも、このゲームの二次創作は作っちゃおうかなって思うくらいには好きだったんだよなあ……)
リースが! リースが! ここ重要!
と、誰も聞いていないのに、脳内盛り上がって、ぐへへ、としていれば、さすがに、私の様子が変だと気付いたアルベドに、気持ちが悪いと言われてしまい、私は涎が出ていないかとふきふきして、咳ばらいをした。アルベドはそれでも、気持ちが悪いな、と私を見つめていたので、世の中のオタクはみんなこうなの! と叫びたい衝動にかられた。
「ま、まだ、顔変?」
「いや……お前、たまに一人でなんかやましい妄想とかしてんじゃねえの? それか、なんか……変なもん食ってるとか。違法な奴やってないだろうな」
と、こそりと、アルベドが耳打ちするので、まさか! と飛び跳ねて、私は内々と首を横に振った。あんな高いものにお金を費やす人の気持ちが分からなかった。いや、オタクも全員そういわれるのかもしれにないけれど。私が飛び跳ねたことで、驚いたのか、アルベドの毛が若干逆立っていたのは面白かった。
「まあ、お前に限ってないことだとは思うがよ。まあ、慎重に……」
「慎重に、ね!大丈夫!」
「ほんとかよ……ああ、あとどうすんだよ。今年の……」
アルベドはそこまでいうと、ちらりと私の方を見た。何の話? と首を傾げれば、なぜか言いにくそうに、アルベドは口をもごつかせた。はっきり言えばいいのいいのに、と私が頬を膨らませば、言うって、と怒鳴るようにして言うと、消え入るような声で、こういった。
「星流祭……のこと。今回は誰と回るんだよ」