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7話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
今回もまたとても長いです。
キヨはレトルトの家の前に立った瞬間、思わず足を止めた。
『……は?』
目の前に広がる光景に、言葉が出てこない。
高い鉄の門の奥には、長く続くレンガの小道。
その先に、まるで映画の中から飛び出してきたような洋館が、夕闇の中で静かに佇んでいた。
『ちょ、ちょっと待ってレトさん……ここ、レトさんち?』
「うん、そうやで?どうかした?」
『いやいやいや……家ってレベルじゃないって!』
正面の門から玄関までは軽く50メートルはある。
両脇には手入れの行き届いた花壇が並び、バラやラベンダーが彩りを添えていた。
庭の中央には、噴水まである。
『……家の門から玄関まで、こんなに距離あることある?』
キヨは半笑いのまま呟いた。
レトルトはきょとんとした顔でキヨの顔を見る。
「うーん….普通じゃない?」
『全然普通じゃないだろ、これ。……貴族の別荘じゃん』
キヨのツッコミに、レトルトはくすっと笑った。
「キヨくん、中入って?」
そう言って門を開けるレトルト。
きぃ、と音を立てて重厚な鉄門が開かれると、甘い花の香りがふわっと流れ出した。
キヨは息を飲みながら、その庭へ一歩踏み出す。
『……レトさん、只者じゃないと思ってたけど、まさかお坊ちゃんだったとは。』
「そ、そんなことないってば!」
慌てるレトルトの姿に、キヨは思わず笑いながら肩を並べた。
そのまま二人は、ゆっくりと花の香る道を玄関へと歩いていった。
玄関の扉が開いた瞬間——
キヨは思わず息を呑んだ。
『……う、わ……』
広がっていたのは、映画のワンシーンのような光景。
床は白く艶やかな大理石で、天井は驚くほど高く、真ん中には大きなシャンデリアがキラキラと光を放っている。
正面にはゆるやかにカーブを描く螺旋階段。
赤い絨毯が敷かれ、その両側には繊細な装飾の手すり。
『……俺、いま異世界に迷い込んだ?』
キヨは呆然と呟き、首を左右に振る。
レトルトはそんなキヨを見て、くすっと微笑む。
「もぅ!キヨくん大袈裟やねん」
『大袈裟じゃねぇよ!俺の予想の範疇、三回転半くらい超えてんだけど!』
すると——
トコトコ、と小さな足音が響いた。
ふわふわの白猫がゆっくりとキヨの足元に寄ってきて、スリスリと身体をこすりつける。
『おおお!? にゃんこ〜〜♡♡♡』
キヨは一瞬で表情をとろけさせ、しゃがみこんで猫の頭を撫でまわした。
『すげえかわいい! ふわふわ! 名前なに!?』
「ミルク。俺が小さい頃から一緒にいるんだ」
レトルトは優しく猫の背を撫でる。
『ミルクか〜、かわいいなぁ……。ってか、めっちゃ人懐っこいじゃん!』
「普段は人が来るとすぐ逃げちゃうんだけど、キヨくんのこと好きなのかもね」
そう言われて、キヨは少し照れくさそうに笑いながら、猫を撫で続けた。
白猫の毛が指の間をふわりとすり抜け、柔らかい温もりが心地いい。
リビングに足を踏み入れた瞬間、キヨはまたもや目を丸くした。
広々とした空間には、大きな木製のテーブルとソファがゆったりと配置され、窓から差し込む街灯の光が部屋を柔らかく照らしている。
「適当に座っといて〜」
そう言うレトルトに、キヨはきょろきょろと辺りを見渡すばかりで、どこに座ればいいのか全くわからない。
『……えっと、ど、どこに座れば……』
アタフタして立ちすくむキヨを見て、レトルトはキッチンへと向かっていった。
しばらくして、飲み物を手にしたレトルトがリビングに戻ってくる。
「……なに、突っ立ってんの?」
くすくすと笑うレトルト。
『いや、だって……俺んちと、違いすて……』
キヨは口ごもりながら、慌ててレトルトについて歩く。
レトルトの家は、自分の家とは全く異なる、別世界のような雰囲気。
それでも、隣を歩くレトルトの笑顔を見て、キヨは少しずつ落ち着きを取り戻す。
「じゃあ、ソファに座ってよ」
レトルトはソファの端を指し示す。
キヨは深呼吸して、ゆっくりとソファに腰を下ろす。
『うわぁ…すげぇふかふかだぁ….」
緊張で硬くなっていた肩が、少しだけほぐれた。
キヨはさっそくスマホを取り出し、ピザのアプリを開くとレトルトに画面を見せた。
「レトさん、どれが食べたい?」
レトルトの目はまるで宝物を前にした子供のようにキラキラと輝いていた。
「えっと……これも美味しそう……あ、でもこっちもいいな……」
なかなか決められず、指を止めては画面を見比べるレトルト。
「これにする!」
ようやく決まったメニューをキヨが確認すると、あとは届くのを待つだけだった。
「届けてくれるなんてすごい! 本当に家まで来るんだ!」
レトルトはデリバリーのシステムに感動し、目を輝かせてキヨに話しかける。
キヨはそんな無邪気なレトルトの姿に思わず微笑む。
『ふふ、楽しみにしてて。すぐ来るから』
レトルトは胸を高鳴らせながら、テーブルの上でそわそわと手を動かした。
初めての体験に、ワクワクが止まらない様子だった。
肩の力も抜けてくつろいでいると、ふわりとキヨの膝にミルクが飛び乗ってきた。
「ゴロゴロ……」
喉を鳴らして甘える姿に、キヨはメロメロ。「かわいい、かわいい」と撫で回す手が止まらない。
その光景を横で見ていたレトルトは、少し不機嫌そうに顔をしかめる。
「ミルク、どいて。」
不機嫌そうに呟いたレトルトは、そっとミルクを抱き上げ、キヨの膝から下ろす。
「ミルク、キヨくんの膝の上は俺のだから、ダメ。」
そう言うと、レトルトは迷いなくキヨの膝の上に跨り、おでこをそっとキヨのおでこにくっつけた。
甘くて小さなレトルトの主張。
「キヨくんも、可愛い可愛いって言い過ぎ。俺以外に言わないでよ。」
顔を真っ赤にしながら小さく呟くレトルト。
その照れた姿、必死に拗ねるような態度に、キヨは胸をぎゅっと掴まれるような感覚になり、思わず悶えてしまった。
『だめだ…喰らった。レトさん、可愛すぎるって…』
キヨは両腕をレトルトの背にまわした。
胸の奥からこぼれた鼓動が重なり、2人の距離はゆっくりと近づいていく。
静まり返ったリビング。
息が触れそうな距離。
目と目が合った瞬間、 まるで何かに引き寄せられるように、自然と目を閉じる。
お互いの顔がゆっくりと近づいてくるのが分かる。
息を止めるほどの距離。
あと数センチ。
──ピンポーン。
突然のチャイムに、2人はびくりと体を離した。
「っ……ピ、ピザ……!」
慌てて声をあげたレトルトが、真っ赤な顔でキヨの膝から飛び降りる。
『お、俺、とってくる!』
焦ったキヨは立ち上がり、少しよろけながら玄関へ走った。
リビングにひとり残されたレトルトは、胸の前で両手をぎゅっと握りしめたまま小さくため息をつく。
「……びっくりしたぁ……」
頬はまだ熱く、鼓動は落ち着かない。
玄関の方から「ありがとうございますー!」と慌てたキヨの声。
その響きが妙に可笑しくて、レトルトはひとりで笑ってしまった。
テーブルの上に置かれた箱を開けた瞬間ふわっとチーズの香りが立ち上る。
「わぁ……!」
レトルトの瞳がまんまるに輝いた。
一口かぶりつくと、トロッと伸びるチーズと熱々のソース。
「んん〜っ……美味しいっ!」
頬いっぱいに笑みを浮かべながら、夢中で食べるレトルト。
そんな姿を見つめるキヨは、なんだか胸がくすぐったくて仕方がなかった。
『……レトさん、ちょっと動かないで』
そう言ってキヨは身を乗り出し、レトルトの唇の端についた赤いソースをペロリと舐めとる。
「っ……!?」
レトルトの目がまんまるに開いた。
口元に熱が広がり、瞬く間に頬まで真っ赤になる。
『昼間の仕返し〜』
キヨは意地悪そうに笑った。
「もう!キ、キヨくんのアホー!」
レトルトは顔を真っ赤にして俯きながらも、笑いをこらえきれず小さく笑った。
ピザ食べた後、ふかふかの絨毯に 2人並んでゴロンと寝転がった。
『食べてすぐ寝転んだら、いつもなら母さんに怒られるわカ
キヨが笑いながら言うと、隣でレトルトもくすっと笑う。
「俺もこんなことしたの、初めてだよ」
ふたりの笑い声が、空気の中でふわりと混ざって溶けていく。
ピザの香ばしい匂いがまだ残る部屋で、
なんでもない時間が、どうしようもなく幸せに感じられた。
レトルトは横を向いて、キヨの横顔を見つめる。
穏やかな表情。
さっきまでふざけていたはずなのに、今は少しだけ優しい顔をしていて、
その静かな呼吸の音に胸が高鳴る。
「……キヨくん」
『ん?』
「こういう時間、ずっと続けばいいのにな」
キヨは少し驚いたように目を瞬かせ、
それから照れくさそうに笑った。
『続くよ、レトさんが隣にいてくれたら』
レトルトは腕を伸ばしてキヨの指先に自分の指を絡める。
何も言わずに2人の指先だけがそっと触れ合ったまま静かな時間が流れた。
「ねぇ、キヨくん……」
レトルトの声が、ふいに静かな部屋の中で響いた。
キヨは天井を見上げたまま「ん?」と返し、ゆっくりとレトルトの方へ顔を向ける。
レトルトは頬をほんのり赤く染め、視線を彷徨わせながら口を開いた。
「……お風呂、一緒に入る?」
一瞬、時間が止まったようだった。
キヨの目がまんまるになる。
冗談かと思ったが、レトルトの表情は真剣そのもの。
『……え、え?』
「いや、その……キヨくんが嫌じゃなかったら……一緒に入りたいなって。」
そう言って、さらに耳まで真っ赤に染めるレトルト。
キヨの胸がどくんと鳴る。
(レトさんって、もっと控えめだと思ってたのに……)
意外なほど大胆な言葉に、キヨは頬をかきながら、
照れ隠しのように笑った。
『嫌なわけないじゃん!一緒に入ろっか』
煩く響く鼓動を抑えきれないまま
2人は手を繋いで脱衣所へと向かった。
続く