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デュラハンのゼピスは集まった魔物達を見渡し、声を張る。
「皆!待ちに待ったこの時が来た!その剣を!力を!お嬢様の御為に奮うことが出来るのだ!」
「「「応っっ!!!」」」
「ならば憂いも未練もあるまい!お嬢様の願いを叶えて差し上げるため!身命を|賭して《として》戦うのみ!あらゆる障害を排除せよ!暴虐卑劣な獣王をお嬢様の御前に引きずり出すのだ!」
「「「応っ!応っ!」」」
地面を踏み鳴らし、声を挙げる魔族達。
「何よりも!先ほどのお嬢様に対する卑劣であり、非礼な振る舞い!皆もその眼でしかと確かめたはず!あのような手合いばかりでは、お嬢様の願いは永久に叶わぬ!ならば我々がその障害を排除するのだ!命を惜しむな!今こそ命を捨てる時ぞ!」
「「「おおぉーーっっ!!」」」
雄叫びが『ロウェルの森』に木霊する。
「いや、命を捨てるなんて真似はしないでよ?私、そんなことされても嬉しくないからね……?」
マリアは謎のテンションに若干引きながらも釘を刺す。
「慈悲深いお嬢様がそう仰有るならば、命を大事に参ります。周辺警備を厳とせよ!これより遺跡へと向かう!進軍せよ!」
ゼピスの号令に従い、中身の無い西洋鎧の魔物死霊騎士やゴブリン、オークの部隊が前進を始める。
これらのゴブリンやオークは他の野生種と違い凛々しい顔付きをして、皮の鎧と鋭い槍を持ち隊列を組んで一糸乱れぬ動きを見せていた。
その集団の中心にマリアが居た。先頭を進むことを望んだが、周囲の大反対で一番守りの固い位置に居ることとなった。
「魔物の気配が少ない……獣王の戦力は出払っているのかしら?」
マリアは周囲の気配を探りながら側に控えているゼピスに問い掛ける。
「はっ。魔物の大半は森を追われて北上しております。ならば獣王の側に控えるのは、先ほどの無礼者と同じ手合いかと」
「つまり、獣人ね。ダンバート、数は分かる?」
「空からじゃ監視は難しいからなぁ。獣人は無駄に素早いから、奇襲に気を付けた方がいいよ」
「つまり、ここは敵地なのね。出来れば血を流したくはなかったわ」
「お嬢様の慈悲を奴らは無視した。それだけでございます」
「さっきの人?だけかもしれないじゃない」
「それはないよ、お嬢様。獣人って連中は人間の、お嬢様みたいな女の子は性処理の道具程度にしか見てないから。そんな種族なんだよ」
ダンバートの言葉にマリアは顔をしかめる。
「……それじゃあ、どうにもなら無いじゃない」
「そうだよ?獣王を倒さない限りスタンピードは何度でも起きる。アイツらは自分達のことしか考えてないからね」
「ここで根絶やしにするのも手かと。長い目で見れば世のためとなりましょう」
「根絶やしなんて絶対にしないけどね……?」
マリアは、ふと周囲が静けさに包まれていることに気付く。
風に木々が揺れる音は勿論、先ほどまで聞こえていた動物の鳴き声さえ聞こえない静かな森に違和感を覚えたのだ。
マリアの様子に気が付いたゼピスが声をかける。
「お嬢様、如何なさいましたか?」
「何だか急に静かになったような……気のせいかな?」
首をかしげるマリア。だが彼女の言葉が彼らの命運を分けた。
「っ!?総員止まれ!厳戒態勢!」
次の瞬間、木々から無数の槍が雨のように降り注ぎ、魔族達を傷付けていく。
「お嬢様!」
「きゃあっ!?」
ゼピスが手に持つ大盾を上段に構えて傘のようにし、マリアを守る。
「うぉっ!?危ねぇなぁ!?」
ダンバートはヒラリヒラリと槍を避けるが、全員が間に合ったわけではない。
「グゥッ!?」
「ガァアッ!?」
槍をその身に受けたゴブリンやオークの悲鳴が挙がる。自分を慕ってくれている魔族や魔物の悲鳴が聞こえる度に、マリアは辛そうに表情を歪める。
「これで終わりではない!死霊騎士団前へ!」
鉄壁を誇る死霊騎士が大盾を構えて周囲に展開。その盾で槍を防ぎながら攻撃に備える。
「「ヒャッハーッッ!!!!」」
槍の攻撃が終わった瞬間、空を覆う背の高い木々から次々と武装した獣人達が飛び降りてきた。彼らは獣人らしい身体能力を活かして縦横無尽に駆け回る。
「奴らの動きに惑わされるな!円陣を組め!お嬢様を御守りするのだ!」
ゼピスの号令に従い死霊騎士が大楯を構えて円陣を組み、その内側にゴブリンやオーク部隊を配置。中心にマリアを置いた。
「木が邪魔で空から援護は出来そうにないなぁ。地上で護らせて貰うよ」
ダンバートも人型のまま剣を抜きつつマリアの側に立つ。
「これは一体!?」
走り回る獣人達を見ながらマリアは困惑する。それはまるで待ち伏せていたような状況であるからだ。
「待ち伏せだよ。最初から交渉をするつもりは無かったってことさ。さっきのアイツは、ただの時間稼ぎだったのかもしれないな」
ダンバートの言葉を聞いて、マリアは深い落胆を覚えた。対話による解決は最早絶望的であると感じ取った為である。
「私が一人で来ていたら変わったのかしら?」
「それこそあり得ない選択さ。獣王は言葉じゃ止まらない。今度は確実に殺すしかない」
「怯むな!臆するな!時期を見定めよ!今は耐えよ!」
周囲を縦横無尽に走り回る獣人達ではあったが、死霊騎士団の鉄壁の護りを前に攻めあぐねていた。
「ちぃ!槍が通らねぇじゃねぇか!」
「オラァ!コソコソ隠れてないで出てこい臆病者ぉ!」
罵声を浴びせかけるが、魔族達はそれに動じること無く護りを固める。だがマリア達にも焦りがあった。
「くっ!想定していたより敵の数が多いっ!陣を崩すな!」
獣王復活に呼応して『ロウェルの森』へ馳せ参じた獣人の数は優に一千を越えており、四百に満たない一団とは倍以上の戦力差があったのである。
膠着した状況に苛立った獣人は、遂に痺れを切らした行動に出る。
「ええぃっ!面倒だ!こんなもの乗り越えてしまえ!」
「応っっ!!!」
熊の獣人達がその恵まれた体躯を武器に猛然と死霊騎士の構える大楯に体当たりを敢行したのである。
「グゥッ!?」
「オノレッ!」
死霊騎士達はその凄まじい衝撃に耐えているが、遂に厳戒が訪れた。
「おらぁあっ!」
「だぁあっ!」
「グォッ!?」
一体が体当たりに耐えられずに押し負け、陣形が一部崩れる。
獣人達はそれを見逃さなかった。
「抉じ開けたぞ!雪崩れ込めぇ!」
「「「うぉおおおーっ!!」」」
「通すなぁあーっ!」
死霊騎士団の鉄壁を破った獣人達が武器を手に円陣の内側へ切り込む。それをゴブリンやオーク達が迎え撃つ。
「死霊騎士団陣形を変えよ!最小円陣!他のものは獣人共を迎え撃て!」
敵味方が入り乱れる乱戦となるが、数体の死霊騎士がマリアを囲むように立ち塞がる。
「お嬢様はそこを動かないでね!直ぐに片付けるからさ!」
ダンバートも剣を片手に迫る獣人達を迎え撃つ。
「なんで、こんなことにっ!」
乱戦を眺めながら自分の決断に深い後悔を感じたマリア。彼女の試練はまだ始まったばかりである。