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『ロウェルの森』では激闘が続いていた。乱戦となりながらもある程度陣形を保ち組織的に反撃する魔族達と、森の地形を最大限利用して縦横無尽に駆け回る獣人達は一進一退の攻防を繰り広げていた。

そんな最中、マリアは数体の死霊騎士に護られながら周囲の激闘を見守っていた。だが彼女も黙って見ているわけではなかった。

「グァッ!?」

視線の先でオークの一体が獣人の槍に突かれて悲鳴を挙げる。それを見たマリアは直ぐに行動に移る。

「癒しの光よ、ヒール!」

そのオークへマリアが手を差しのべると、淡い光が傷口を包み、瞬く間に傷が塞がる。

「アリガトウゴザイマス、オジョウサマ!ヌンッ!」

「ぐぉっ!?」

礼と共に槍を振るい、今自分を攻撃した獣人を吹き飛ばす。

「気を付けて!怪我をした人は直ぐに知らせて!」

マリアのもっとも得意とする治癒魔法。聖属性のそれは本来魔の者は扱えないが、人間であり魔王の力を受け継ぐ彼女は、光属性の魔法以外は問題なく行使できるのである。

彼女は負傷した魔族や魔物を治癒しながら援護。これにより魔族達も総崩れにならずに応戦できているのだ。

「お嬢様のお手を煩わせる結果となるとは!不甲斐ない!」

「今はそんなの気にしなくていいだろ?ゼピス。おりゃ!」

「げぇっ!?」

飛びかかってきた獣人を蹴飛ばしながらダンバートがゼピスに声をかける。

「そうだな。皆!遠慮は要らぬ!根絶やしにせよ!」

「「「応っっ!!!」」」

マリアを中心に陣形を崩さず応戦する魔族達を見て、獣人達も攻めあぐねていた。

「あの人間の雌だ!アイツが余計なことをしてやがる!」

「俺達に任せろぉ!行くぞ野郎共ぉ!!」

再び熊の獣人達が前進を再開。その意図を察した魔族達も立ち塞がるが、獣人達も邪魔をさせぬと激しく攻め掛かり熊の獣人達の活路を切り開いた。

「いかんっ!お嬢様!」

「ちぃ!邪魔なんだよ!」

ゼピス、ダンバートは獣人達に阻まれ、マリアの近くに熊の獣人達を通してしまう。

「オジョウサマヲ、マモレ!」

マリアの周囲を取り囲む死霊騎士達は大楯を構えて衝撃に備える。

「うらぁあっ!」

「くらいやがれぇ!」

死霊騎士達に飛び掛かる熊の獣人達。その体躯を活かした一撃は何度も繰り返され、徐々に死霊騎士の姿勢を崩していく。

「ブースト!皆頑張って!」

マリアは死霊騎士達に身体強化魔法を施して支援するが、それを上回る質量の攻撃に死霊騎士達は徐々に押されていく。

「サセヌワァ!」

「ぎゃあっ!?」

オーク、ゴブリンが一部の熊の獣人を背後から強襲するが、それでも勢いを潰すことはできず、遂に一体の死霊騎士が圧に負けて横転。

その隙を逃す筈もなかった。

「くたばれ雌がぁあっ!!」

その隙間から熊の獣人がマリアに向けて飛び掛かる。それを見てマリアも杖を強く握る。

「お嬢様!」

悲鳴が響く中、熊の獣人がマリアに触れることはなかった。

彼は突如現れた太い腕に頭を捕まれて宙吊りとなったのである。

「がっ!?」

「なんだ!?」

そこに現れたのは、三メートルを越える体躯を誇る鍛え上げられた肉体をもつ大男であった。

「ロイス!」

マリアが大男に声をかける。それと同時に獣人達もその姿を見て目を見開く。

「まさか、オークチャンピオンだと!?そんな化け物がなんでこんな場所に!?」

オークチャンピオン。それは数多の修羅場を潜り抜けた歴戦のオークの中から、更に抜きん出た戦功を挙げた個体が至る進化の最終形態。

極めて希少な存在であり、その実力もあってブラッディベア等と同じように災害級と呼ばれる魔物である。

同時にオークチャンピオンは高い知性を持った個体が存在し、オークの群れを率いていることもしばしばある。

マリアの危機を救ったのは、そんなオークチャンピオンの中でも異質の存在であった。

平均すれば五メートルの体躯を誇るオークチャンピオンの中で三メートル前後と小柄ではあるが、高い知性を有する。なにより特記すべきはその姿である。

人間の男と変わらぬ顔を持ち、知らぬ者が見れば緑色の肌をもつ大男にしか見えないであろう。

数多の傷跡をもつ鍛え上げられた肉体に金属製の鎧を纏い、漆黒のマントがその存在感をより際立たせている。

そんな彼はマリアからロイスの名を与えられたネームド個体としてマリアに仕えているのだ。

「お嬢様にその汚らわしい面を近付けるな。獣風情が!」

ロイスはそのまま掴んでいた熊の獣人を地面に叩き付ける。周囲に衝撃波を生み出すほどの力で叩き付けられた獣人の頭部はまるでザクロのように粉砕され、頭を失った胴体が痙攣を繰り返す。

その様に周りの獣人達は怯み、その隙に死霊騎士達は再びマリアを取り囲み陣形を再構築する。

「ありがとう、ロイス」

マリアは礼を述べ、それにロイスは右手を挙げて答える。

「これしき、礼には及ばぬ。しかし、何と不甲斐ないことか。ゼピス!ダンバート!貴様らが居ながらお嬢様に汚らわしい獣風情を近付けるとはな!」

「面目ない!」

「いやー、助かったよ。肝が冷えたぜぇ」

ロイスの言葉にゼピスは悔やみ、ダンバートは苦笑いしながら答える。

「ロイス、あまり怒らないであげて。私の軽率な行動が招いたのよ」

「お嬢様の行動は全て正しい。それを阻む獣人と、それを駆逐できない我々が悪いのだ。悔やむことはない!」

ロイスは宣言すると身の丈はあろうかと言う巨大な大剣を構える。

「同胞達よ!これより俺が指揮を取る!遠慮は無用だ!薙ぎ倒せ!」

「オゥッっ!!!」

ロイスの言葉にオーク達が奮起して、猛然と獣人達に仕掛けていく。

「なんだこいつら!?急に動きが!」

「げぁあっ!?」

傷付くことを恐れぬオーク達は護りを捨てて攻めかかり、獣人達を蹴散らしていく。

「ぬんっっ!!」

ロイスが大剣を振るう度に血飛沫が挙がり、獣人の死体が宙を舞う。

「ヒール!」

そして傷付いたオーク達は素早くマリアが治癒を施し、それに続いて死霊騎士やゴブリン達も遅れじと攻めかかる。

「これじゃまずい!仕切り直しだ!下がれ!下がれーっ!」

ロイスの加勢により状況が不利となった獣人達は散発的に応戦しながら森の奥へ逃れていく。

「深追いをするでない!お嬢様の安全を最優先だ!死霊騎士団前へ!」

ゼピスが追撃を不可とする号令を発して陣形を再び整える。一時間に満たない短時間の戦闘ではあったが、獣人は百名以上の死傷者を出して後退。

対する魔族側もゴブリンやオークも戦死した個体が三十を越える被害を出した。

「流石はロイス、攻めの将軍だなぁ」

「この程度武勲にもならん。最初からお嬢様の側に居るべきだったな」

ロイスは後詰めとして後方に待機していたが、騒ぎを聞き付けて駆け抜けたのだ。

「面目次第もない。お嬢様、御身を危険に晒してしまった我にどうか厳罰を」

ゼピスが膝をつき厳罰を乞う。

「ゼピス、貴方を罰する理由はないわ。それよりも、私は迷ってる。この先に進めば、間違いなくまた戦いになる」

「でも、獣王を倒さないとお嬢様の願いは叶わない。だろ?」

「そうよ、ダンバート。今の戦いでも犠牲者を出してしまった。みんな、こんな私を慕ってくれた大切な者達よ。それなのに……辛いわね、失うと言うことは……」

マリアは並べられた死骸に祈りを捧げながら答える。その言葉には迷いも含まれていた。

「ならば進むのだ、お嬢様。ここで退けば、奴等の死は無駄になる」

ロイスの言葉を聞きながらマリアは祈りを捧げる。死者が迷わないように。

命を落としたオークやゴブリンの死骸は、マリアの祈りを受けて消えていく。それは彼女が初めて大切なものを失った瞬間でもあった。

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