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「嬉しいなら何よりですよ」
微笑まれるので、気持ちを切り替えた。
何よりデザートはまだまだ残っているのだ。
刻んだ朝摘み苺をふんだんに乗せたブランマンジェは、舌に残るねっちり感が堪らない。
それだけを食べるなら甘いだけの方が良いが、合わせて食べるのなら甘酸っぱい苺もアクセントになる。
特に飲み物が甘いので酸味は歓迎だ。
「……作る時間より、食べる時間の方が多いのはセレブ向けだから?」
「どうでしょうねぇ。この講座の場合は交友を深めるという要素も多分にあるので、特に顕著だとは思いますが」
なるほど、と思うそばで、三人が揃って顔を上げた。
「スケジュールの調整完了!」
「この日程で大丈夫ですか?」
「御無理なら再調整をしますので、遠慮なくおっしゃってくださいね」
指し示されたのは、ちょうど一ヶ月後。
私に問題はない。
夫の様子を窺う。
外出に関してはそもそも私に決定権はないのだ。
「ええ。それで大丈夫です。当日私は不参加ですので、女性だけで盛り上がってくださいね」
夫は大きく頷いた。
よほど三人を信用しているのだろう。
女性に向けるにしては、表情が何時もより穏やかだった。
「まぁ、嬉しい!」
優貴が満面の笑みで手を叩く。
純粋に私との交友を喜んでくれるのが、面映ゆかった。
「いろいろと持ち込みますね!」
「私も気合いを入れて取り寄せをしないと!」
「和菓子を持ち込んでもよろしいですか? 家の者に作らせますので」
「勿論! 私も頑張って準備しますね! 何かリクエストがあったら遠慮なくメールをください」
夫がいないティーパーティーは初めてだ。
失礼のないようにマナーなどの確認もしておくべきだろう。
自分を友人にと望んでくれ、夫も許可している人たちに失望されたくはない。
夫が静かに腰を上げる。
どうやら講座は終了の時間を迎えたらしい。
「……当日までに、電話とかメールとかしてもいい?」
「SNS系はやっていませんので、逆にその二つなら何時でも大丈夫ですよ」
「お買い物とかもお誘いしたいわぁ……」
「私も皆さんと御一緒したいですねぇ……」
「外へ出るとなると警護の問題で、私たちの方も迷惑をかけかねないので、念入りに計画を立てましょうね」
私自身単独外出は夫の許可的にかなり難しいが、三人も似た状況のようだ。
名家のスケジュールは厳しく管理されているとも聞いている。
専用の執事などがいるのかもしれない。
もしかしたら女性執事もいるのだろうか?
まだ出会う機会には恵まれていないので、もし女性執事がついているなら、是非紹介してほしいと思う。
夫による締めの挨拶が終わり、優美な別れの挨拶をすませた人たちから帰宅してゆく。
三人も名残惜しそうに迎えの車へ乗っていた。
「さて、麻莉彩。少しだけ後片付けがありますので、ここで待っていてください。そうそう、イヤリングはちゃんとつけておいてくださいね」
「……これからどこかへ行くの?」
「ええ。楽しみにしていてくださいね?」
どこへ、とは教えてくれず、キスを額へ落とした夫が外から施錠をして、部屋を出て行ってしまった。
「どこへ行くのかしらん? 食事には早いし……季節の華展とか? 招待状が来てたしなぁ。乙女ゲームショーの事前公開のチケットも取れそうとか言ってたし? まぁ、どこへ行こうとがっつり外出は嬉しいかも。あまりないからねー」
一人でによによと怪しい笑顔で独り言を呟いていれば、扉が激しい音を立てて開く。
夫はそんな迂闊な真似はしない。
きちんとしたノックと声がけをしてくれる。
家でいるときですらそうなのだ。
外出先で前触れなしに扉を開け放つなんて、突発的な災害でも起こらない限りはあり得なかった。
「ちょっと! あんた! お教室に出入り禁止とか、ふざけないでよ!」
「また、イロメ使ったんでしょう? たかひとせんせが、かわいそすぎるよぅ」
「そのサファイア! あんたには似合わないわ! 早く私に寄越しなさい!」
教室出入り禁止は、恐らく三人を除く生徒の総意だったと思います。
そもそも出入り禁止前提で許可されていたのでしょうね。
文句を言う相手も違うでしょう?
物申すなら夫本人か、夫に講師を依頼している人物にするべきです。
イロメとか頑張って使ってみた日には、三日は声も出せない状況にされます。
そんな怖い事態になるとわかっているんです。
頼まれない限りしません。
頼まれたらしますよ?
私、夫の頼みには滅法弱いので。
似合っていないかもしれないサファイアですが、貴女に差し上げる気持ちは微塵もありませんよー。
高校生のときから全く変わっていませんねぇ。
似合わないから寄越せとか、酷い暴論です。
今までそれが許されてきたのだとしたら、環境が問題なのかもしれません。
一番悪いのは本人以外の何者でもないでしょうけれど。
三人に向って心の中で言ったのだが、表情に出ていたのかもしれない。
愛魅のピンクのハートメインでデコられた爪先が伸ばされて、ネックレスに触れようとした瞬間。
視界が純白に染まった。