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翌日は藤澤さんのお母さんが車を運転してくれて、戸隠に連れて行ってくれた。長野駅周辺よりも標高が高いため、ずいぶんと涼しい。神社の背丈の高い木々が立ち並ぶ様子は荘厳な雰囲気を演出していたが


「ずびっ」


藤澤さんは花粉症らしい。


「薬飲んだのに~目かゆい~」


「こら、こすると余計かゆくなるよ」


母親に注意を受けている様子はまるで子供だが、それはそれで新鮮なので微笑ましい。お昼は名物だという蕎麦を食べた。長野県は全体として蕎麦が名産品だが、なかでも戸隠蕎麦はとくに有名なのだという。確かに長野県に来たことがなかった俺でも聞いたことがあった。藤澤さんは花粉症と戦いながら、戸隠の神社や町並みのことをあれこれ説明してくれる。ずっと楽しそうに話してくれるので自然とこちらも笑みがこぼれてしまう。でも肝心のところが抜けていたりして、それをお母さんに補足されているのも藤澤さんらしい。


「やぁね、はしゃぎ疲れちゃって」


帰りの車の中ですっかり眠り込んでいる藤澤さんの様子をバックミラーでちらと見てから、彼の母親は苦笑した。


「ごめんなさいね。よっぽど大森君のほうが大人よねぇ」


どっちが先輩なんだか、と言ってアハハと笑う。


「最近は大学のことあまり話してくれなくなってたから、気になってはいたんだけど……楽しくやってるみたいでよかった」


帰ってきてもずーっと大森君のこと話してたのよ、と言われて俺は恥ずかしくなってごまかすために笑う。いったいどんな話をしていたんだろう。


「俺のほうこそ、藤澤さんのおかげで今すごく楽しいんです」


もともと大学生活なんて適当に過ごしてればいいやって思ってたんですけど、と口走ってから、余計なことを言ったかなと悔やむ。しかし藤澤さんのお母さんは、そうなの?と小首を傾げる。


「俺、藤澤さんと違って夢とか目標があって大学に入ったんじゃなくて、惰性っていうか、逃げっていうか……。だから俺、藤澤さんのこと尊敬してるんです」


藤澤さんと雰囲気が似ているせいだろうか、つい話しやすく感じて言葉を続けてしまう。


「あら、涼は涼で大森君のこと尊敬してるって言ってたから、相思相愛ね」


そう言っていたずらっぽく笑ってみせる。


「藤澤さんが?」


「えぇ。自分より年下なのに、自分のやりたいことにすごく明確なビジョンを持って動ける行動力のある子だって。詳しいことは教えてくれなかったんだけど、普通ならなかなか踏み切れない決断を中高の頃からしてたような子で、自分はどうしても二の足踏んじゃうから尊敬してるって言ってたの」


俺が音楽活動に打ち込んでいた頃のことを言っているのだろう。


「積極的にやりたいことがない時なんて人生のうちでいくらでもあるから焦る必要ないんじゃないかしら。それに、過去にそういう経験を持つ人間は、またやりたいことが見つかった時に強いわよ」


これも涼が言ってたのよ、藤澤さんのお母さんは優しく笑う。その笑顔はやっぱり藤澤さんに似ている。

カーブの揺れに合わせて、藤澤さんがこちらにもたれかかってくる。ふわりと香るシャンプーのにおいが俺のそれと同じで、昨日同じものを使っているからそんなの当り前なのに、心臓がどきりと跳ねる。なんでそんなことに動揺するんだろう。こういう状況に慣れてないせいだろうか。妙に心臓の音が大きく聞こえて、それが眠っている藤澤さんに聞こえてしまわないか緊張して、家に到着するまで全く落ち着かなかった。





翌朝、藤澤さんの両親に丁寧にお礼を言って、藤澤さんの実家を後にした。藤澤さんは名残惜しそうにインコや犬たちに最後まで話しかけたり撫でたりしていた。


「次は夏休みに帰ってくるからね、僕のこと忘れないでね」


「ほら、大森君待たせてるんだから」


母親に急かされて、慌てて荷物を手に立ち上がる。


「本当にありがとうございました」


深々とお辞儀をすると、藤澤さんのお父さんもお母さんも


「また遊びにおいでね」


と口々に声をかけてくれる。藤澤さんのお父さんに車で駅まで送ってもらい、いよいよ長野を離れる時間が迫ってくる。改札前で切符を確認しながら、一昨日ここに到着したのがつい数時間前のことのように感じた。名残惜しさを感じて何となく駅を行きかう人の流れを眺めていると、藤澤さんに声を掛けられる。自由席なので早めにホームに入って並んでおこうということらしい。


「あの、本当に誘ってくれてありがとうございました」


新幹線のホームに向かって歩きながら、改めて藤澤さんにお礼を言う。


「ううん、こちらこそ~。大学の友達が長野に来てくれるのも、案内するのも初めてだったからすごい楽しかった!」


今度は松本のほうとかも行こうね、といわれて、ぜひ、と頷く。


「美ヶ原?でしたっけ、行ってみたいです」


「じゃあ僕頑張って免許取らなきゃだ~」


早く取って連れてってくださいよ、と茶化すと


「くぅ、耳が痛い……でも目標あったら頑張れそう」


と唸る。アナウンスが新幹線の到着を告げる。頬を撫でる風が次第に強まるのを感じて、俺は目を閉じた。


※※※

ふたりの長野デート書くの楽しすぎて当初の構想より長野編が長くなってしまったことをここに白状しておきます……

ふたりが少しづつ打ち解けていく様子が表現出来ていたらいいなぁと

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