「透子。今日はホントにありがとう」
食事会から家に帰って来て、リビングのソファーで二人でくつろいでると、樹が隣で改めて伝えてきた。
「こちらこそ。すごく素敵な時間が過ごせて嬉しかった」
そして私はそんな樹に笑顔でそう答える。
「なんかさ。いろいろありすぎてオレの中でまだ全然整理出来てないんだけど」
「私も。なんかビックリすること多くて」
「だよな。まさか透子とそんな昔に出会ってたなんて思ってなかった」
「ホントに。まさかあの時の美少年が樹だったとは」
「もしかして、その時からすでにオレに惚れてたとか?」
「はっ!?樹いくつだと思ってんの!?私が高校生の時にその当時の樹ってただの子供だし。そんなん絶対ありえない」
「そんなムキにならなくても。そっか、そうだよな。子供だったか、オレ」
「ハルくんと変わらなかったからね。でも可愛い子だなぁとは思ってたよ」
「ホント?あ~あ、その時もう少しオレが大人だったら、その時の透子とどうこうなれてたかもしれないのに」
「いや、なってないでしょ(笑)」
「だって、オレ透子、初恋だよ?」
「えっ!!??」
いやいや!ちょっと待って。
どこからそんな話に飛んだ!?
また衝撃の言葉にただ驚いてしまう。
「今思えば、きっとあの感情初恋だったんだな~って思う」
「えっ?それホントに言ってんの?冗談じゃなくて?」
「冗談なワケないじゃん。あの時はそれが恋だなんてわかんなかったけど」
冗談のように思えるその言葉。
だけど、隣の樹は冗談を言ってるような雰囲気でもなくて。
「恋愛まともにしたことなかった樹が?」
「透子がそれ言う? でもまぁそうなんだけど。でもそれってさぁ、もしかしたら透子のせいだったのかも」
「はっ!?私!?」
なんで樹が恋愛出来なかった原因が自分!?
そんな小さな時に会っただけなのに。
「そう。オレも小さい時の記憶でさ。なんとなくうっすらとしか実は憶えてなかったんだけど。どこかの店であの当時オレに優しく接してくれたお姉さんがいて。ずっと笑顔で元気に楽しそうにしているその人がやけに目に入って眩しく見えたんだよね。それで優しい笑顔でオレに話しかけてくれたのが、子供ながらにやけにドキドキしてさ。オレ子供の時から素直じゃなくてちょっと冷めた子供だったっていうか、他人にもそんなに心開けなくて。そんなオレに唯一そんなこと気にせずに明るく優しく接してくれたのが、多分透子だったんだよね」
「ホントにそれ私?」
「当たり前だろ。母さんと話してた時、どんどんその時のこと想い出して繋がっていった。あの店だよ。そのお姉さんと出会ったのは」
「そっか・・。ホントにそうなんだ・・・」
なんか嬉しいような、恥ずかしいような。
そしてまた不思議な感覚で、なかなか現実味がない。
「っていうか、樹、子供の頃からやっぱりそんな感じだったんだね」
そこはなんか想像出来る。
「あの家族だからさ。子供ながらに当時からいろいろ気にしてたんだろうね」
「そっか」
幼いながらも、きっと樹はその家族のカタチが変わって行く姿や、それぞれの心の動きを敏感に感じ取って、その都度耐え続けてきたんだろうな。
「だからオレにとっては、きっと透子のその明るさが眩しかったのかも。今思えばあの店で家族みんなでアットホームに楽しんでた姿も小さいながら羨ましかったのかもね。オレん家には昔からそういうのなかった光景だったからさ」
「うちはどんな時もみんな仲良かったからね」
「オレん家は家族一緒に過ごす時間自体、ホント数えるくらいしかなかったから」
改めてその時の話をすると、やっぱり樹は少し寂しそうで。
私にはただ当たり前だった光景が、樹にとってはずっと見たことない光景で。
あの時も、あんなに小さいのにどこか寂し気に見えたのは、そういう思いをずっと隠していたからだったのかもしれない。
「だからさ、なんとなくまたあの店に行くことが楽しみになってたんだよね」
「そうなんだ。それは嬉しいかも」
「だけどさ、いつからか透子あんまりお店来なくなってさ」
「あっ、高校生だったから勉強だったりいろいろ忙しくなってきたからかも。お店が落ち着き始めたら、なかなか手伝いに行けなくなってたから」
「うん。だからさ、正直それオレ子供ながらにガッカリしてたんだよね。今日はあのお姉さんに会えないんだって」
「そこまで?」
そこまで気を許してくれてたとは思わなかった。
ただ一方的に私が接しているだけだったし。
それでも、時折見せる子供らしい表情が見えると可愛くて、少し嬉しくなったりしてた。
「そう。母親以外の女性に懐くとかそもそもなかったし、心開くとかそういう気持ちになったのって、その時だけなんだよね」
「そんな昔から?」
「だからオレにとってはきっとその頃から特別だったんだよね、透子っていう存在が。なぜかまた会いたくなって、あの笑顔にまた微笑んでほしかった」
小さな樹からしたら、どんな風に私が見えてたのかはわからないけど。
でも、当時の樹の心を少しでも私が動かせていたのが、なんだか嬉しかった。
「そんな頃から自分が存在してたなんて変な感じ。でも、嬉しい」
そしてずっと樹の中で私の存在がずっと在り続けていた奇跡。
普通ならなんてことない、ただの出会い。
たまたま行ったお店の店員とお客さん。
しかも高校生と小学生。
まさかその出会いから、何十年後に運命的な出会いになるなんて、きっとその時の私たちは気付きもしなかっただろうけど。
でも何気ない、なんてことのないありふれた日常が、何かのタイミングで運命的な奇跡に変わる。
少しずれていたら、そんなありふれた日常で、出会いもしなかったかもしれないのに。
だけど、本当に樹と運命で繋がれていたとしたら、きっとどれもきっと必然的な出会いで。
何十年も時間をかけて何度も巡り合う運命。
自分たちだけじゃなく、私たち二人の周りの人たちが、すべて繋げてくれた出会い。
だから、今は。
本当に運命なのかもしれないって、そう思う。
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