テラーノベル
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それから、
数日が過ぎた。
大きな出来事は、
なにもなかった。
でも――
確実に、
変わったことがあった。
「……こさめ」
リビング。
ソファに座っていたこさめを、
呼ぶ声。
振り向くと、
そこにいたのは、
いるま。
「なに?」
「……それ」
少し、
視線を逸らす。
「……ゲーム」
「ああ、これ?」
こさめが笑う。
「一緒にやる?」
その言葉に、
いるまの肩が、
ぴくっと揺れた。
前なら、
断っていた。
でも。
「……うん」
小さく、
頷いた。
隣に座る。
肩と肩の距離は、
拳一つ分。
近い。
でも、
触れてはいない。
こさめは、
なにも言わない。
急かさない。
ただ、
コントローラーを渡す。
「はい」
「……ありがと」
指が、
少しだけ触れる。
その瞬間。
いるまの心臓が、
跳ねた。
(……あ)
でも、
もう、
手を引っ込めなかった。
「ここ、こうするんだよ」
こさめが、
少しだけ近づく。
画面を指さす。
肩が、
触れた。
「……っ」
いるまの体が、
一瞬固まる。
でも。
逃げなかった。
逃げなかったことに、
自分で驚いた。
「……いるま?」
こさめが、
心配そうに見る。
「……平気」
自分で、
そう言った。
「……もう」
少しだけ、
間を置いて。
「……平気」
こさめの表情が、
ふわっと緩む。
「……そっか」
嬉しそうに、
笑った。
その笑顔を見て、
いるまの胸が、
ぎゅっとなる。
痛いわけじゃない。
苦しいわけでもない。
ただ――
あたたかい。
ゲームが終わったあとも、
二人は、
そのまま座っていた。
テレビは消えている。
でも、
誰も動かない。
「……こさめ」
「うん?」
「……あのさ」
言葉を、
探す。
簡単な言葉なのに、
難しい。
「……この前」
「……夜」
「……来てくれて」
「……ありがとう」
ちゃんと、
目を見て言った。
こさめは、
少し驚いて。
それから、
優しく笑った。
「……うん」
「……どういたしまして」
沈黙。
でも、
気まずくない。
いるまは、
少しだけ迷って。
そして。
自分から――
こさめの服の袖を、
軽く掴んだ。
「……!」
こさめの呼吸が、
止まる。
「……いるま?」
「……もう少し」
小さな声。
「……ここにいて」
お願いだった。
依存じゃない。
でも、
信頼だった。
こさめは、
すぐに答えた。
「……うん」
「……どこにもいかない」
その時。
廊下の角から、
なつとらんが、
こっそり覗いていた。
「……」
「……」
なつが、
小さく笑う。
「……よかったな」
らんも、
静かに頷いた。
「……ほんとに」
二人とも、
知っている。
いるまが、
どれだけ壊れていたか。
そして――
その隣にいるのが、
こさめでよかったと、
心から思っていた。
夜。
部屋に戻ったあとも、
いるまは、
自分の手を見ていた。
さっき、
袖を掴んだ手。
(……俺)
少し前まで、
誰にも触れられなかった。
誰にも、
触れたくなかった。
でも、
今は違う。
(……こさめ)
名前を、
心の中で呼ぶ。
すると、
胸が、
少しだけ、
安心した。
まだ、
怖い。
まだ、
全部は消えてない。
でも。
隣にいてほしいと、
思える人ができた。
それは、
きっと――
いるまにとって、
初めての「救い」だった。
そして、
この気持ちが、
名前を持つ日が、
少しずつ、
近づいていた。
コメント
3件
すずちゃんと同じこと思ってる(( 展開神((
おぉ~展開神すぎる!このままいったら感動で泣くかも…続き楽しみ!