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・【12 ツタにまみれた】
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住んでいる地区から少し離れたところには廃校になった小学校がある。
今日はそこへ向かって歩いている。
前から幽霊が出るという噂があった場所で、でもまあ廃校になると大体そういう噂は出るもので。
今回僕たちが調べることは幽霊騒ぎではない、いや幽霊騒ぎみたいなところもあるかもしれない。
その学校はツタに覆われていて、怪しい雰囲気を醸し出していたんだけども、最近そのツタが切られたらしい。
業者が、とかじゃなくて、勝手に小学校の窓あたりのツタが。
さらにその窓の奥に人影が見えたという幽霊騒ぎがあって。
まあ小学校は少しへんぴなところにあって、近くに住んでいる人とかあまりいないので、別にどうだっていいだろうとも思うんだけども、やっぱり気味悪く思う人もいるみたいで。
僕は改めてスマホで依頼者から送られた写真を確認した。
するとすぐさま真澄が、
「歩きスマホnotの看板!」
と言った。
「いやNoなら分かるけども、真澄は看板じゃないし」
「歩きスマホは良くないから、ほら、おぶってやるから」
「真澄におんぶされてスマホを眺めるじゃぁないんだよ、良くないお金持ちの子じゃぁないんだよ」
「だって進みながらスマホを見るならそうするしかないだろう」
「じゃあ立ち止まる、立ち止まるからさ」
立ち止まってスマホの写真を確認した。
確かに小学校の三階の窓のところだけツタが切られている。
気味が悪いと言えばまあ悪いかもしれないけども、これくらいは……とも思っている。
ツタまみれに慣れてしまった結果、ツタまみれじゃないと嫌だじゃぁないんだよ、全く。
僕のスマホを覗き込んできた真澄が、
「アタシの写真も撮って保存しとく?」
「いや全然いらないけども」
「いつでも幼馴染だぁ、と思いたいでしょ」
「幼馴染を眺めて幼馴染だぁじゃぁないんだよ、全然いらない」
「今度さがしもの探偵のSNSにアタシの写真をアップしとくから保存していいぞ!」
そう言って笑った真澄。いやだから保存しないんだって。
まあ立ち止まって見ているとそんな話が止まらなそうだから歩き出すか、と思ってまた進みだすと、真澄が急に誰かに手を振り出した。
まさか、と思って真澄が向いているほうを見ると、案の定、電車が走っていた。
「いや! また電車に手を振ってる! パブロフの犬なのかよ!」
「アタシは人間だ!」
「そういうことじゃなくてっ」
と説明するのも面倒なので、俺はもう黙って前へ進むことにした。
電車の何がそんなにいいのだろうか、まあ黄色い橋と新緑の中という色のコントラストはそれなりに綺麗だったけども。
そんなこんなで小学校の前に着いた僕と真澄。
見上げると、写真の通り、ツタが切られていた。
今日は市役所の人から許可を取っているので、僕と真澄は小学校の中へ入ることにした。
許可を取ったのは勿論真澄の単独犯。
市役所のほうにも、ツタのことは耳に入っていたらしい。
だからって市役所がわざわざ動くことでもないので、興味本位の高校生に任せてもまあいいかというところだろうか。
小学校の中は思ったよりは荒れていないで、いわゆるあの頃のままといった感じ。
ポスターは張りっぱなしだけども、誰かが破ったような形跡は無い。
窓ガラスも別に割られていないし、大きな石がゴロゴロ落ちているわけでもない。
最初僕は、ツタが切られていると聞いた時、近所の不良が暴れただけだと思った。
だから小学校の中に入ればきっと荒れ果てていて、破壊衝動丸出しだと思っていたんだけども、どうやら違うらしい。
じゃあ何でツタなんだ、否、ツタだけなんだ? と思ってきた。
というとそのツタは当然荒らしたいという意味ではなく、と思ったところで真澄がこう言った。
「何か誰もいない小学校ってドキドキするなっ」
「別に。ただの建物じゃないか」
「いやでもここでいろんな鬼ごっこがあったんだなって思うとさ!」
「何がそんなテンションの上がることがあるんだよ、鬼ごっこ兵どもが夢の跡じゃぁないんだよ」
「でもさぁ!」
そう言いながら真澄はジャンピング・ガッツポーズをすると、そのまま廊下を走り出した。いや犬じゃん。パブロフの全然バカ過ぎて何にもならなかったほうの犬じゃぁないんだよ。
僕と物理的にも心理的にも距離が離れた真澄は僕に向かって大きく手を振って叫んだ。
「早くこっち来てー!」
いいや、ゆっくり行こうと思った。なんとなく”分かってきた”から。
廃校なだけで廃墟じゃないこの小学校、全然いくらでもリメイクできるような感じがする。
最近は宿泊できる小学校とか流行っているし、この辺りは民家も少ないので空気も綺麗だろう。
この調子なら屋上も綺麗かもしれない。そうなれば、と思いながら真澄のところまで来ると、
「遅い! 鬼ごっこだったら五人には捕まってるよ!」
「鬼ごっこって一人に捕まったら終わりのルールだから」
「早く現地を見て解決しなきゃ! あと幽霊いるかもしれないんだ! 気を付けろよ!」
「多分幽霊はいないよ、人だよ」
「えっ? もう分かったのかっ?」
そう目を丸くして驚いた真澄に僕は歩きながら喋る。
「ツタを切ったのも人間で、人影も人間。多分窓から外を見れば確信できると思う」
「窓から外?」
そんな会話をしながらツタが切られている現場に着いた。
すぐさま窓を開けて、ツタを見ると思った通り、鋭利な刃物で切られた形跡がある。
時間が経過して単純にその切られた箇所が枯れてきているけども、まあハサミか何かだろ。
僕は外を眺めたところで確定した。犯人の正体が分かった。まあ人物を一人確定することはできないけども、これに関わっている人はきっと一人じゃないだろうし。
「佐助、犯人って誰なんだ? このツタ幽霊は一体誰なんだっ!」
「幽霊じゃないって、正体は撮り鉄だよ」
「……撮り鉄? 撮り鉄って電車の写真を撮る人?」
「そう、その通り。ほら、ここから写真を撮ると電車が綺麗に撮れるだろ。黄色い橋とエメラルドグリーンの川、今は新緑の季節だから若葉色の木々に青い空、絶好のフォトスポットだな。人影はまんま人で撮り鉄だろう」
「じゃ! じゃあ! 怖い幽霊じゃないんだ!」
「まあ不法侵入の怖い人ではあるけども」
真澄は何だかバンザイしている。いや幽霊怖かったんかい。いや僕も怖いけどもさ、幽霊なら。
「とにかく依頼者にも市役所の人にもそう報告しよう。まずは依頼者にスマホで連絡しておこう」
すると真澄はすぐさま連絡を入れると、こう返ってきた。
「何か依頼者の人、小学校に来るってさ! 何だろうね!」
依頼者が来る……? そもそも何でこんな依頼をしたのだろうか。その人も真澄と似たような興味本位ということなのか。それとも何か理由があるのだろうか。