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「流されてしまいたい」

紀坂(きさか)の声が風に溶け、心臓が大きく波打った。

微笑む彼は冗談のような目で、それでいてどこか真剣で、私の気持ちがどこにあるのか試しているように思えた。

脈が速くなり、紀坂を見つめながら動けない。

キスする? 私が、彼に?

思考も停止して、そんな問いを以前もされたことが頭をよぎった時、紀坂がふっと小さく笑った。

「冗談だよ。そろそろ中に入ろうか」

私の様子から、私がなにも言えないのを感じ取ったらしい。

紀坂は質問を撤回するような素振りで、伏した目で微笑みながら部屋のほうを向いた。

その表情は笑みをたたえても、かすかな憂いを感じられ、胸が掴まれる。

拒絶していると思われたかもしれない、と思った瞬間、そうでないと伝えたくて、自分でも知らないうちに彼の腕を掴んでいた。

驚いてこちらを向いた紀坂と、すぐ近くで視線が重なる。

以前ピアノのあるホテル********************

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熱帯夜~私と彼氏と浮気相手と~

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