ホテルから出るとフラフラしながらもなんとか自分の家へ帰る事が出来た。何をされたかなんて別にどうだって良かった。ただボーっと歩きながら『疲れた…疲れた…疲れた…疲れた…』頭の中ではゲーム内にいるモブの様に同じ言葉を繰り返していた。家へ入ると持っていたカバンをバサっとそのまま玄関へ置く。服のままベッドへ倒れると、目の前にある布団を手繰り寄せて抱きしめながら泥の様に眠った。
◆◆◆◆
悲しい…悲しい…悲しい…
いつも見る夢。泣いている。
自分?
「何で?どうして?」
勝手に話し始める自分の声がした。
「ごめん。本当にごめん…。これから絶対に大切にするから…戻ってきてよ…。」
泣いているからか上手く声が出ない。
「お願い。尚人ぉ…。」
尚人は微動だにせず、呆れた顔をすると興味が無いといった表情になりツキを見つめるだけだった。
尚人の服に泣きながら必死に縋る自分。
いつも見る夢。
「無理だよ。」
感情の無い声で尚人は必ずそう言う。
新しい恋人がいる尚人へは届かない。
「やだよ…。戻って来てよ。」
涙が止まらない。
悲しい…悲しい…
寂しい…
『…ごめんなさい…。』
◆◆◆◆
フと目が覚める。夢との境が分からず目の奥が熱い。勝手に涙が溢れていた。あまりにも余韻が強すぎて気持ちが抑えられなかった。
喉が締め付けられる。
「うーーー。」
自分の身体を痛いくらいギューっと抱きしめながら我慢出来ずに泣いた。夢だったと理解しながらも心が締め付けられて息がしづらかった。目を瞑ると夢の中の自分に飲み込まれてしまいそうになった。
少ししてやっと落ち着いて来た。
「…あ、仕事に行かなきゃ…。」
さっきまでの苦しさが急に和らいだ。今日は土曜日。夜はバーでの勤務がある。この夢を見てしまった時は、特に夜は1人で居られない。
1人は…
嫌だ。
・・・・
ずっと身体が痛い。あんなに乱暴にされたのはここ2年程は無かった事だったので全身が痛かった。仕事前にシャワーに入った時にはアザや噛まれた跡まであった。
『あいつ…。』
思い出すとイラッとしたが、まだ何も解決策を思い付けずにいる。身体が辛くて仕方ない。
スマホを見ると壮一からメッセージが入っていた。
『今日は?』
『迎えに来て。』
『わかった。』
バーが終わると迎えに来た壮一と一緒に壮一の家へ帰った。
・・・・
壮一はいつもと様子が違う僕を心配して終始側に居てくれた。お風呂に入れて身体を洗い、ドライヤーで髪を乾かして、温かい飲み物を入れてくれる。僕の方が2つ年上だけど、壮一の方が歳上みたい。むしろお母さんって言っても良いくらい世話焼きになる。
壮一は僕の身体のキズに気付いている。でもその事には触れなかった。
少し眠くなり、布団に横になっていると「もう遅いから寝よう。」そう壮一が優しく声を掛けて来た。
「まだ眠れないからエッチしてよ。」
僕がワガママを言うと、壮一は仕方ないといった顔になって、そっとキスをし、身体に残るアザや傷跡を優しくなぞりながらたくさん愛撫をしてくれた。全て丁寧で優しい。ゆっくりと挿入ると僕がねだるまで深く深く、何度も動いてくれた。
昨日とは全く違う、優しい快感にずぶずぶに溺れた。
・・・・
散々可愛がってもらい、壮一にくっつきながらうとうとしていると、「これ、どうしたんだ?」と、ついに聞かれた。「なんでも無いよ。」
「わかった。でも何かあるなら話せよ。」
「うん。」
セックスが終わり、裸で抱き合いながら短い会話をした。
「壮一…眠い…。でももう一回して。」
壮一は無言だったけど、了承の合図の様に優しく頭を撫でてから深いキスの後、また僕を抱いた。
セックスなんて気持ちよければそれで良いじゃないか。誰でも良いから優しく抱いてよ。何も考えたくない。眠りたいだけなんだ。
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