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トレーニングジム終わりの楽屋。プロテインをシェイクしていた岩本照の背中に、ドスッと鈍い衝撃が走った。
「……ぐぇぇ……てるにぃ……」
背後からタックル気味に抱きついてきたのは、向井康二だ。
何があったのかは知らないが、その声は今にも泣き出しそうで、湿り気を帯びている。
「おー、どうした康二。元気ねぇな」
「……充電切れや……。もうあかん、動けへん……」
康二は岩本の広い背中に顔をグリグリと押し付け、まるで濡れた子犬がブルブルと震えるように甘えてくる。
岩本はシェイカーを置くと、コアラのようにへばりつく康二を背負ったまま、器用に身体を反転させた。
「ほら、前向け」
「……んぅ……」
岩本は康二を正面から抱きとめると、その細い腰をガシッと大きな手で支えた。
目の前にあるのは、岩本の厚い胸板。
康二はそこに救いを求めるように、再び顔を埋めた。
「……てるにぃ、よしよしして」
「ん、よしよし」
岩本が康二の柔らかい髪を、大きな掌でワシャワシャと撫でる。
そのリズムが心地よくて、康二の口から力が抜けたような声が漏れた。
「……あかん、泣きそう」
「泣いていいぞ。誰も見てねぇし」
「……うぅ……」
岩本の逞しい腕の中は、世界で一番安全な場所だ。
その安心感にタガが外れたのか、康二は康二であることをやめ、完全に「甘えたいだけの生き物」になった。
「……わぁん…!わん…わん…!」
言葉にならない感情を、犬の真似をしてぶつける康二。
「もっと構って」「もっと愛して」という直球すぎるアピール。
普通の成人男性がやれば引くところだが、岩本照にとって、向井康二という存在は「可愛い」のカテゴリーに分類されている。
岩本は目尻を下げ、クシャッと愛おしそうに笑った。
「……ふっ、お前」
「……わんっ……」
「子犬かよ、可愛いなぁ(笑)」
岩本は康二をさらに強く抱きしめると、首筋や背中をポンポンとあやすように叩いた。
「よしよし。いい子だ、康二」
「……てるにぃ、すき……」
「おう、知ってる。俺も好きだよ」
岩本は康二が落ち着くまで、その頭を撫で続けた。
強面で筋肉ダルマなリーダーが、唯一デレデレに甘やかす「弟」。
わんわんと泣きじゃくる康二を、岩本は「しょうがねぇなぁ」と言いつつ、世界で一番大切そうに守り続けるのだった。
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