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楽曲「untitled_13」が音楽サイトにアップされてから、三日が経った。
拡散されるわけでも、炎上するわけでもない。けれど、どこかの誰かが確かに“聴いて”いる気配だけが、静かに更新ログの数字に積もっていった。
自宅の小さなデスクでそのページを開き、手元のカップを両手で包んでいた。
コメント欄には、たったひとことだけ書き込まれていた。
「言葉にできなかった夜の気持ちが、ここにあった」
それは名前も顔も知らない誰かの言葉だったけれど、不思議と胸の奥が温かくなる。
日曜の午後、僕達はまたあの公園で落ち合った。
「なあ、元貴。……これ、見た?」
若井はスマホの画面を見せた。そこには、自分たちの曲を使った“動画”が載っていた。
映像の主は、鬱屈とした高校生だった。ノイズ混じりのモノクロ映像に「untitled_13」のメロディが被さって、ひどく儚く、それでいて切実だった。
「俺たちの曲が、あいつの一部になってる。……すげぇなって思った」
「うん、僕も。音楽ってさ、手紙みたいだよね。宛先も届く日もわからないけど、それでも投げ出す。……誰かに届くと、ちゃんとわかるんだ」
若井は頷いたあと、ふいに真面目な顔で口を開いた。
「……元貴」
「うん?」
「俺、元貴のこと、ちゃんと“大事”に思ってる」
その言葉は、音楽でも言い表せないほど、静かで、透明だった。
けれど、鼓膜に届いた瞬間、まるでギターの一弦が切れるみたいに、僕の中で何かが震えた。
「……ありがとう」
それしか言えなかった。でも、それで充分だった。
別れ際、若井が手を振ったあとで言った。
「また新しいの、作ろう。今度は、“最初から一緒”に」
僕は少し頬を染めて笑い、背を向けた。
耳の奥で、まだ若井の声が残っていた。