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「樹!小夜ちゃんが!」
うつ伏せで倒れていた小野寺さんが声を上げる。
樹くんがこちらに走って来るのが見えた。
私は、背中に一瞬痛みを感じた。
同時に背中から、勢いよく熱いものが流れていく感触が残る。
「小夜!」
そうか、切られたんだ。
先程私のことを押さえつけていた隊士が、僅に残っている視力で私を後ろから切りつけた。
樹くんが自分の刀を隊士目掛け投げつけ、それが命中し、隊士は倒れた。
私も立っていることができず、地面へ倒れ込んでしまった。
樹くんが私のことを優しく抱き上げる。
「小夜……?」
彼は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「どうして……。そんなに……。悲しそうな顔をしているの?せっかく、勝てたのに」
手を伸ばして、彼の頬に触れる。
「勝てたって、小夜がいないと意味がないんだ」
身体の感覚が無くなっていく。
痛みを感じないのが不思議だった。
「私……。幸せだったよ。樹くんに……。また逢えて、嬉しかった」
私の頬を涙が伝った。視界がぼやけ、白い靄がかかる。
「もう話すな。医者に連れて行く。絶対に助ける」
自分でも出血量が多いことは理解しており、ここで死ぬのだと覚悟した。
「私はもう……。生きられない。だから最後に聞いて?樹くんと……。気持ちが繋がって……。幸せでした。樹くんは……。私のことは、忘れて……。私の分まで幸せになって」
私の頬に涙が落ちてきた。視界はぼんやりしていて、彼の顔が見えない。彼は泣いているのだろうか。
「小夜じゃないとダメなんだ。だから、そんなこと言わないでくれ」
最後に自分の気持ちを伝えたい。
「ありがとう……。愛して……る……」
私の手が樹くんの頬から離れる。
「小夜……?小夜……!!!」
その時、髪の毛を結んでいた紐が切れた。
彼女からもらったものだった。
どうしてこんな時に切れてしまうんだ。
どうにか……。何か方法は……。
絶対死なせたくない。
そう言えば彼女と再会をして、初めて任務に行く時に彼女から渡された薬があった。
「これ、両親が残した最後の薬です。効能はよくわかりませんが、なんでも効く薬だって言っていました。月城さんに持っていてもらいたくて。なんでも効く薬なんて。この世にないと思います。それでも私は、両親からの贈り物を信じたいんです」
そんな大切なものを貰えないと最初は断った。
だが彼女は
「では、預かっていて下さい。私に何かあった時 はこれを飲ませて下さい」
そう言ってほほ笑んでいた。
一か八か。
懐から薬を出し、彼女の口を少しだけ開け、薬を流し込む。
頼む、飲み込んでくれ。
しかし喉は動かず、薬は口の中に残ってしまっている。
「すまない、誰か水を持ってきてくれないか?」
見守っていた隊士が慌てて水筒を持ってきてくれた。
小夜の口に水を流す。零れてしまいそうだった。
自分の口に水を含ませ、口づけをし、彼女の口の中に流し込む。
少しは飲めているのだろうか。
その時
「ごほっ」
と彼女が咳をした。
「小夜……?小夜……!?」
意識はない。
だが、微かに息をしている。
「負傷者が多数だ!本部へ応援要請はかけているが、予想以上に多い。至急、救護班も増員しての応援を要請しろ」
頼む、助かってくれ。
願うしかなかったーー。
目が覚めると、自分の家だった。
あれ。私、生きている?
隣を見ると、樹くんが私の方を向いて寝ていた。
これは夢?
樹くんの頬を触ってみる。
「ん……。小夜?」
横になったまま視線が合った。
「小夜、起きたのか!?」
樹くんは起き上がり、私の顔を覗き込む。
「これは夢ですか?夢だったら幸せな夢で良かった」
なぜだか生きている実感がしない。
「夢じゃない」
そう言うと、樹くんは私に優しく口づけをした。
唇の感触がする。
「ほら、夢じゃないだろう?」
「しばらく病院で治療を受けていたんだが、命に別状がなくなって自宅に運ばれたんだ。医者からはもう起きてもいい頃だって言われてたんだが、なかなか起きなくて心配だった。もう一週間くらいずっと寝ていたんだよ」
「そんなに寝ていたんですか」
それから樹くんは、あの時のことを教えてくれた。