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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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彼が予定よりも早く助けに来れたのは、青龍のおかげらしい。青龍が街の異変に早く気付いて、彼に報告をしてくれた。


だから小野寺さんが呼んだ時にいなかったんだ。


その後、司波に加担をした住民は皆拘束をされ、洗脳が解かれるまで本部で監視をすることになった。


また、樋口さん含め隊士たちはあの戦いで何人か亡くなった。

司波に加勢をした側の隊士は、その後の処遇を検討中とのことだ。


「もちろん、厳しい罰を受けることになる」


そう樹くんが言っていた。


「私はどうやって助かったんでしょうか?」


「それは、小夜から預かっていた薬を飲ませたからだろうか」


どうして私が生きているのか彼もわからないらしい。


「傷が深く、出血量が多かった。医者も傷口を診て、この状態で生きているのが不思議だと言っていたよ」


両親が残してくれた薬については、私も何が調合されているのかわからない。


<どうしても、誰かを助けたいと思った時に使いなさい>


一言伝えられていただけで、成分や効能などは全く教えてくれなかった。


彼をよく見ると、髪の毛を切っていた。

「樹くん、髪の毛切ったの?」


「あぁ……」


私が命を落としかけた時、樹くんの髪の毛を結んでいた結紐が切れたらしい。


「他の結紐は使いたくなくて、髪を切ることにした」


樹くんは懐から私があげた結紐を取り出した。


「直るか?」


中央部分から綺麗に切れてしまっている。

直るだろうか。


「これを使って新しいものを作りませんか?」


「ああ。頼む。それまでに髪の毛をまた伸ばさなくてはな」


このままじゃ結べないなと樹くんは微笑した。


「どっちの樹くんもかっこ良いですよ」


思っていることを言っただけなのに、彼の顔が赤くなった。


「そういうことを軽く言わないでくれ」


そういえば、大切な人を忘れている気がする。


「小夜ちゃん、意識が戻ったんだって!」


小野寺さんの声だ。


バタバタと走ってきて、まだ布団の上で座っている私を抱きしめた。


「死んじゃったらどうしようかと思ったよ」


「小野寺さん、怪我は大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃないよ、痛いしさ。なのに樹は冷たいし」


樹くんは小野寺さんの襟を掴み、私から引き離した。


「そのくらい元気なら大丈夫だろ」


「小夜ちゃん、俺のこと助けてくれてありがとうね」


小野寺さんは、樹くんの話は聞いていないみたいだった。私のために泣いてくれている。


小野寺さんが落ち着きを取り戻したあと、司波について話をした。


「あの人は、亡くなったんでしょうか?」


「あぁ、死んだよ。それは間違いない。火葬した」


亡くなった後に、彼に隠されていた秘密を見つけるため解剖をしたらしい。進行性の悪性の腫瘍、あのまま生きていても長くはなかったそうだ。


「だから自分でいろんなことを研究して、生きようとしたんだろうな。どこであの剣技を覚えたんだろう。すごく強かった」


小野寺さんが振り返る。


詳しいことについては、最終的には謎のままだった。最後に彼が残した「普通に生まれたかった」という言葉が、今でも脳裏に浮かぶ。


しかし彼が行った病気の人の気持ちを利用し、洗脳をするといったことは許されない。


「とりあえず、平穏が戻って良かった」

小野寺さんが伸びをした。


私はこれからどう生活をしていけばいいのだろう。樹くんたちに守ってもらう必要もなくなった。

今まで通り、ここで薬師として働いてもいいのだろうか。


三人で話をしていたら、いつの間にか夜になった。


小野寺さんは帰り、樹くんと二人きりになる。


立ち上がったりすると、まだ背中の傷が痛むため、夕食の準備などは全て彼が担ってくれた。


ひと段落した時

「小夜、話があるんだが、いいか?」

そう呼ばれた。


「はい」


「小夜は、これからどう暮らして生きたい?」


穏やかな表情で彼は尋ねてくれた。


「私は、元気になったらこの街で薬師としてまた働きたいです。でも……」


「でも……?」


自分の気持ちに正直になりたい。


「でも、一番の私の願いは、樹くんと一緒にいたい」


その言葉に嘘偽りはなかった。


「それでいいのか?」


「はい」


彼は私の背中の傷を気にしながら、優しく抱きしめてくれた。


「小夜が刺された時、守ると言っておきながら守れなかった自分が無力だと心から感じた。そして小夜がいなければこの世に生きていても意味がないと思った」


「今度は君を絶対に誰にも傷つけさせない。ずっと一緒にいよう。結婚してくれ」


私の返事はもう決まっている。


「はい!」


抱きしめられていたが、一旦離れ、口づけをする。最初は軽く、そして舌が絡まるほど深くーー。


「愛している」

樹くんがそう囁いた。


「私も愛しています」

優しく抱きしめられる。


「続きは、小夜の怪我が治ってからにしよう?楽しみにしている」

続きと聞いて心拍数が上がり、顔が熱くなった。


私の顔を見て、意地悪そうに彼が笑った。





それから一カ月後、私はこの街で薬師として働いている。


樹くんは任務があり、毎日一緒にいることはできないが幸せな生活を送っている。


今日は任務から帰って来る日だと聞いていたので、張り切って夕食の支度をしていた。背中の怪我は大分良くなった。


玄関が開く音がした。私はパタパタと廊下を走る。


「ただいま」


「おかえりなさい」


無事に帰ってきてくれたことが嬉しくて、彼に抱きついた。


「見てもらいたいものがあるの」


彼を居間に連れていく。


「直してくれたのか?」


「はい。新しい紐も混ぜながら二つ作りました。私と樹くんの分」


私たちを繋ぎとめていてくれた結紐を新しく作り直した。


「ありがとう。ずっと持っているよ」


もしも私がこの結紐を彼に渡していなかったら、再び出逢うことはなかったかもしれない。

最近になってそう感じるようになった。


彼に会えない時、離れないようにと蒼い糸が今も私たちを結んでくれている。





<終わり>

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