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車は橋を渡り終え、深夜のコンビニの前にゆっくりと止まった。ダイはエンジンを切り、アスミに向かって穏やかな声で言った。

「大丈夫。もう僕らは会わない、だから……すべてを話してくれ」

アスミは体を震わせ、声にならない叫びと共に涙を流した。ダイは優しく彼女を抱きしめ、温もりを伝えてくれる。そのぬくもりに包まれ、アスミの涙はさらに溢れ出す。


「大丈夫だから……」

そうささやくダイの声が、タバコ臭い武臣の匂いとは異なり、ほのかに石鹸の香りがした。

彼の服に顔をうずめると、今まで抱いていた不安や孤独が少しずつ溶けていくようだった。


アスミはずっと、武臣もお腹の子の存在を知れば気持ちを変えてくれるはずだと信じていた。

しかし、そんな甘い期待は、冷たく突き放された現実の前では儚く消えてしまった。心のどこかで、彼と一緒にいる限り、未来に待っているのは痛みだけだと悟っていたのかもしれない。


「さぁ、行こう……君の体が心配だ」

ダイが体を離そうとするが、アスミはすがりつくようにして言った。


「もっとこうしていたい」

彼女の小さな声に、ダイは微笑み、静かに抱きしめ直してくれた。武臣のそばにいた時には感じられなかった安心感が、彼の腕の中で広がっていく。


二人が出会ったのは偶然だった。しかし、その偶然がどこか特別な意味を持つように感じられ、アスミの心に深く刻まれた。



やがて、ダイがそっと体を離し、柔らかな視線でアスミを見つめた。


「もう行こう」

そう言うダイの顔は、どこか名残惜しそうでもあった。アスミも彼のぬくもりを離れるのが惜しかったが、現実に戻るべき時が来たとわかっていた。


「ねぇ……どこか空気のいいところに連れて行って」

アスミがそう頼むと、ダイは少し困った顔をして苦笑いを浮かべた。


「病院行こうや」

「ううん、お願い……もう少しだけ、あなたと二人でいたい」


ダイは一瞬戸惑ったように眉をひそめたが、ため息をついて小さく頷いた。

「少しだけやで、もう困らせんといてくれよ」


アスミは思わず笑みをこぼした。自分でも、なぜこんなふうに彼に頼っているのか理解できなかった。けれど、なぜか今は彼のそばにいたいという気持ちが強く湧き上がってくる。


彼の言葉に甘え、車はしばし夜の静けさの中を走り続けた。


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