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底抜けに明るい声がドアの向こうからした。
そこには鷲の羽根に、蛇の鱗の肌を持った美女が佇んでいた。足はふくらはぎの部分から鷲の足。ふと元の世界のゲームに出てくる上半身は女性、体は鳥の女面鳥身の姿を思い出した。
この大雪の中で露出が高く、水着のような恰好を見た瞬間、思わずルティの両手を隠す。
「シズク?」
あんなお色気満々な人にルティ様が惚れられたら、確実に負ける。プロポーションとか勝ち目ゼロだもの! せめて前世ほどのポテンシャルがあれば、張り合えたかもしれないのに。
「その……ルティが他の異性に悩殺されるのは……嫌というか」
「シズク? あんな肉の塊などで欲情しないから大丈夫ですよ。するのならシズクだけですから」
「そっか、よかった(……ん? なんか最後にとんでもないことを言われたような?)」
「まあ、天狐人じゃない! どうして貴方みたいな存在が、普通の家にいるのよ?」
「お前には関係ないことだ」
髪は紫色で、瞳は猛禽類のように鋭く金色で美しい。声も可憐だわ。でもそこに感情らしい温度感はなかった。
(上位種族だと思うけど、何の種族なのかしら?)
「……それで用があるのは、そこにいる《片翼》か?」
「そうそう♪ 私の大事な、大事な《片翼》なの。百年目でやっと見つかって求婚したのに断るのよ。『条件が飲めなければ』なんて意味不明なことばかりって……。《片翼》に選ばれたのに、断るなんてできないのにね。だから求愛紋を施そうとしたのに途中で逃げるから、中途半端になって呪いになりかけているわ」
「──っ」
大事だと言いながら、彼女は《片翼》として選んだ青年、エリオットのことを心配している感じはない。その悪びれる様子がなかったので、ムッとした。
「……どうして《片翼》に選ばれただけで、伴侶になるのが当たり前みたいなことを言うのですか?」
これはエリオットという人と、上位種族の問題だ。私が口を挟むことではない。でも、どうしても衝動的に口を出してしまった。
「シズク?」
「なに? 貴女?」
「答えてください。それ次第で、この人たちを貴女に渡すかどうか決めます」
「え」
「!?」
エリオットと王子は驚愕し、ルティは顔を青ざめる。彼女はキッと私を睨んだが、怖くなんかない。
「し、シズク? もしかして同族だから同情を? それともその二人が気にいってしまったのですか? 一目惚れとか?」
「違います。……私が好きなのは……ルティだけです」
「シズク!!」
ルティは斜め上な発言にちょっと力が抜けてしまった。いやまあ、感情的になってブリジットの時の感情が出てきてしまったので、気をつけないと。
「……元の世界でも政略結婚や、愛のない結婚はありますけど、それぞれ話し合いと交渉の果てに妥協点を見出して家族となります。そして条件が合わなければ、当然離縁もします」
「なんですか、その怖い世界……」
「残酷すぎる。死ねというの?」
ルティと鳥竜族の女性は全力で慄いていた。怖いのは貴方がたの思考回路なのだと言いたい。この際思っていることをぶちまけてしまおう。
「人族は短命です。その分短い時間の中でも、一緒になる人との繋がりを大事にします。だから私たちにとって《片翼》に選ばれたと言われても、器が適合した《生贄》程度の認識でしかなく、名誉だとか誉れだとか思っていません。少なくとも海竜魚族の方が教材を出す前、人族ではそのように伝わっています。あと元の世界でも異種族に嫁ぐことは生贄であり人身御供という歴史がありました」
「シズク……っ!」
「なんで《片翼》が生贄になるのよ!」
途端にルティと鳥竜族の女性が同時に声を上げた。それは悲鳴に近い声だった。
「《片翼》とは、少なくとも三百年前までは生贄の隠語だったはずです。そこの王子」
「え、私か?」
「貴方の国では《片翼》は、どのように伝えられていますか?」
私の質問に一瞬考え込むも、口を開いた。
「クレパルティ大国という国が繁栄した頃より、上位種族からの選ばれた花嫁は生贄、あるいは道具としての役割だと記されていた。上位種族が花嫁を差し出すことで、国の守護を百年ほど請け負うとも。……それから国が分裂して、いくつもの国に別れて他種族との婚姻は奴隷あるいは生贄という認識が強い。百年前、大国が分裂したのも上位種族に花嫁を送らなかったからという伝承があるほどだ」
#恋愛
#長編
「……っ、違います。まさかあの者たちの戯れ言がここまで侵食しているとは……」
「…………生贄なんて、全然違うわ。でも、殆ど人族と関わりがない時代に、そう刷り込まれていたのなら……」
歪んでしまった歴史。正しく伝われなかった《比翼連理の片翼》の事実が、他の上位種族の言葉でハッキリとした。あまりにも酷い事実だ。
「シズク、以前にも説明したかもしれませんが、《片翼》とは、たった一人の伴侶のことを指します。魂の巡り合わせで同じ魂を好きになることはあっても、他の誰かを好きになることはない。それが《比翼連理の片翼》、文字通り、自分の半身であり、唯一無二の存在。心から愛して、存在無しにはいられない──重愛を注ぐ相手なのです。そして人族の片翼こそが、神々に愛された子なのです」
ルティは最初にそう説明してくれた。それにしても三百年経った今も、上位種族や人族の認識はあまり変わっていないことに驚いた。
沈黙。というか美女さんはすでに泣きそうだ。泣かすつもりはなかったのだけれど。
「そこの貴女も上位種族のようですが、《片翼》だからという理由だけで求愛しているようなら嫌われますよ!」
「──っ」
「そんな……」
言い切った。正面切って言いたかったことなので凄くスッキリだ。ふと王子と目が合うと、私に声をかけてきた。
「その……仲裁して貰ってなんだが、君の……その……大賢者様が灰になりかけているのだが……」
「ハッ! ルティ。大丈夫ですか?」
「ちょっと……駄目かも……シズクは嫌いになるのですか?」
「なりませんよ。それにルティには、この世界に転移させられた時に説明を受けていますから大丈夫です」
「シズク……」
ルティの髪の艶は消えて、尻尾はかなり動揺しているのか震えっぱなしだ。目は潤んでいて今にも涙をこぼしそう。
「本当に、私の傍から離れてようと──」
「考えていません」
「嫌いには──」
「なりません。少なくともルティが私に嫌なことをしなければ」
「しません。そんなことをするのなら命を絶ちます」
ルティにまで深刻は精神的なダメージを与えてしまったと後悔する。彼のしおしおになった髪を丁寧に撫でた。