テラーノベル
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この世界では、すべてが”能力”で決まる。
十六歳になると、国による《適正測定》が行われる。
それは単なる検査ではない。
人生の行き先を決める、絶対的な選別だ。
高い能力を持つ者は、守る側へ。
国家直属の戦力として、最前線に立つ。
そして同時に、富と名誉、すべてを約束される。
だが、能力を持たぬ者は違う。
彼らは”守られる価値がない者”として扱われ、危険区域の労働や、支援のない生活を強いられる。
例外はない。
そして今日、蒼真はその境界線に立っていた。
体育館には、異様な熱気が満ちていた。
天井まで届く巨大な測定装置。その中心に立つ生徒が、次々と歓声を浴びている。
「適正値、Aランク!能力《炎熱操作》!」
どっと湧く拍手と歓声。
名前を呼ばれた少年は、得意げに笑いながら壇上を降りていく。
それを、蒼真は列の後ろからぼんやりと見ていた。
(すごいな)
そう思う一方で、胸の奥に鈍い痛みが広がる。
自分には、何もない。
幼い頃からそうだった。
周囲が次々と”才能”を見せていく中で、蒼真だけは何一つ発現しなかった。
努力が足りないと言われた。
根性がないと笑われた。
そのたびに必死で食らいついたが、結果はずっと同じだった。
「次、蒼真」
教師の声が、無機質に響く。
ざわ、と空気が揺れた。
「やっと来たか、無能枠」
「今回こそ何か出るんじゃね?奇跡とかでさ」
「いや、測定機が壊れるかもな」
くすくす、と笑い声が漏れる。
蒼真は何も言わず、前に出た。
視線が突き刺さる。
見下すような、面白がるような、冷たい視線。
慣れているはずなのに、今日はやけに重かった。
装置の中央に立つ。
足元に淡い光の輪が広がり、空間がわずかに震える。
「リラックスしろ。力を感じるんだ」
教師の言葉が、遠くに聞こえる。
(感じるって、何を)
何度もやった。
何度も同じことを言われた。
そして、何も起きなかった。
それでも…。蒼真は目を閉じた。
呼吸を整える。
意識を内側に向ける。
何か、あるはずだ。
その瞬間。
装置が、わずかに震えた。
ざわ、とどよめきが広がる。
「おい、反応したぞ」
「マジかよ」
蒼真の心臓が跳ねる。
(あるのか?)
光が、強くなる。
表示盤に数値が浮かび上がる・・・はずだった。
そして。
すべてが止まった。
画面が真っ白になる。
沈黙。
異様な静けさが、体育館を包む。
「…測定不能?」
教師の声が、戸惑いを含む。
ざわざわと空気が揺れる。
「なんだ、それ」
「ゼロってこと?」
「いや、エラーだろ」
蒼真は、ただ立ち尽くしていた。
胸の奥で、何かが崩れる。
期待してしまった。
ほんの一瞬でも、(もしかしたら)と思ってしまった。
その代償が、これだ。
「…再測定」
同じ手順を繰り返す。
だが、結果は変わらない。
白い画面。
何も映らない空白。
やがて、教師が淡々と言い放った。
「記録上、能力なし。適正値ゼロ扱いとする」
その一言で、すべてが決まった。
どっと笑いが起こる。
「やっぱ無能じゃん」
「測定不能ってか」
「逆にレアだわ」
誰かが、わざとらしく拍手をした。
それにつられるように、ぱらぱらと音が広がる。
それはもちろん祝福ではなく、嘲笑だった。
蒼真は何も言わず、壇上を降りる。
足がやけに重い。
視界の隅に、幼なじみの姿が映る。
「澪……」
一瞬だけ目が合った。
何か言いたげな表情。
けれど、すぐに逸らされた。
(ああ、そうか)
理解してしまう。
もう、自分は”同じ場所”にいない。
才能のある者と、そうでない者。
その線は今、はっきりと引かれた。
そして、自分は…。
完全に切り捨てられる側だ。
放課後。
廊下を歩くたびに、空気が変わる。
ひそひそと囁く声。
遠慮のない笑い。
避けられているわけでも、攻撃されるわけでもない。
ただ…見下される。
それが何よりもきつかった。
校舎を出る頃には、空は赤く染まっていた。
蒼真は、誰とも話さず歩き出す。
帰り道はいつもと同じはずなのに、妙に遠い。
ふと、足が止まる。
人気のない路地裏。
その奥から、ガラスが砕ける音がした。
次の瞬間。
爆音。
地面が揺れ、空気が裂ける。
遠くで悲鳴が上がる。
煙が空へと立ち上る。
何かが起きている。
それは分かっている。
だが、蒼真は動かなかった。
いや、動けなかった。
頭の中に、さっきの光景が焼き付いて離れない。
白い画面。
嘲笑。
逸らされた視線。
胸の奥が、空っぽになっていく。
(もういい)
ぽつりと、言葉がこぼれる。
(どうでもいい)
助けを求める声が、遠くで響いている。
それでも、足は動かない。
動く理由が、もう見つからなかった。
そのときだった。
…空気が、わずかに変わる。
ほんの一瞬。
世界が光源に包まれた。
だが蒼真は、それに気づかない。
ただ虚ろな目で、煙の向こうの空を見上げている。
自分の人生が終わったと信じながら。
それが、すべての始まりだとも知らずに。
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