テラーノベル
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「瞬、もう少しで公園の出口だよ。夕暮れの空が、今日はすごく綺麗な茜色——」
葵がそこまで言ったときだった。
急激な目眩が僕の襲った。足元がぐらりと揺れ、膝から崩れ落ちそうになる。
押し手を握る手に力が入らなくなり、車椅子が大きく傾いた。
「あっ——!」
ガタガタと大きな音が響き、葵の身体が車椅子ごと斜面に倒れ込む。
「葵……っ!」
僕は地面にはいつくばりながら、必死で声を張り上げた。
見えない。どこに葵がいるのか、怪我をしていないか、何も判別できない。暗闇のような白いモヤの中で、僕の心臓は激しく波打った。自分の体調の異変を隠していた報いが、最悪の形で葵を巻き込んでしまったのだ。
「葵! 葵、どこだ! ごめん、僕のせいで……っ!」
焦りと恐怖で胸がつぶれそうになりながら、僕は無我夢中で地面を這い、手探りで彼女を探した。冷たいアスファルト、落ち葉の感触。指先が震える。
「……瞬、落ち着いて。ここだよ」
すぐ近くから、少し掠れた葵の声が聞こえた。
差し出された小さな手が、僕の震える手首をしっかりと掴んでくれた。
「葵……! 痛むところはないか? 怪我は……!?」
「私は大丈夫。草むらに倒れたから、かすり傷くらい。それより、瞬……! あなたの手、すごく冷たい……!」
葵は自分の体勢を起こすことも忘れて、僕の手を両手で強く抱きしめた。
夕暮れの遠いチャイムが響く中、僕の目からはボロボロと涙が溢れ出していた。
「ごめん……ごめん、葵。僕が無理をしたせいで、君を危険な目に遭わせた。僕が君の『足』になるなんて、嘘だったんだ。こんな僕じゃ、君を守ることなんてできない……!」
なさけなさと悔しさに打ちひしがれる僕の頬を、葵の温かい両手がそっと包み込んだ。
「そんなこと言わないで!」
葵の声には、見たこともないほどの強い感情が籠もっていた。
「転んだっていいの! 傷ついたっていいの! 私は、瞬と一緒に風を感じられただけで……瞬が私を外に連れ出してくれただけで、どれだけ嬉しかったか分かってるの!?」
葵の指先が、僕の頬の涙を丁寧に拭っていく。
「私にとって、私の『足』は瞬だけだよ。他の誰も代わりになんてなれない。……だから、自分を責めないで」
「葵……」
「二人で一人前って言ったでしょ。瞬が動けないときは、私が手を引っ張る。瞬が見えないときは、私が目になる。……二人でなら、どんな暗闇だって進めるよ」
ぼやけた視界の中で、葵の気配がまっすぐに僕の存在を捉えていた。
互いの欠落を埋めるためだけの関係じゃない。
どんなアクシデントがあろうと、お互いを本気で守りたい、一瞬でも長く共にいたいという強い絆が、僕たちの胸にしっかりと刻まれた瞬間だった。
コメント
1件
うわああああ第5話も尊すぎて崩れ落ちた……!!😭💦💦 車椅子ごと倒れるアクシデントで、お互いを必死に探す手と手の描写がもう、涙腺崩壊レベルでした……「二人で一人前」ってセリフ、これがこの物語の根っこなんだなって胸に響いたよ……!葵ちゃんが「私の足は瞬だけ」って言い切る強さ、最高すぎる。この2人、絶対に幸せになってほしい……!!