テラーノベル
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あの日から、僕の体調は坂道を転がり落ちるように悪化していった。
病院の検査室。冷たい機材の音の向こうで、医師が静かに告げた病名は、僕の未来をあっけなく塗りつぶすものだった。治療法のない、進行性の不治の病。僕に残された時間は、もう長くはなかった。
「瞬……最近、車椅子を押すペース、ゆっくりになったね」
秋の終わり、澄んだ空気が満ちる公園で、葵がポツリと呟いた。
彼女には病名のすべてを明かしていなかった。けれど、押し手を握る僕の手の震えや、浅くなる息遣いから、葵は察していたのだと思う。僕の「足」が、もう長くは動かないということを。
「葵……ごめん。僕、もうすぐ遠くへ行かなきゃいけないかもしれない」
絞り出すような僕の声に、葵は車輪を少し進め、僕の方を振り返る気配を見せた。
「……知ってる。瞬が夜、苦しそうに息をしてるの、ずっと気づいてた」
葵の声は震えていなかった。悲しみをぐっと堪え、僕の瞳があるであろう場所をまっすぐに見つめている。
「だからね、瞬。私、決めたの」
彼女はポケットから小さなラジオを取り出し、僕の手のひらに握らせた。
「学校の文化祭で、放送コンテストがあるでしょ。私、瞬と一緒に『ラジオドラマ』を作りたい。私が脚本を書いて、僕たちが声を吹き込むの。私たちがここで過ごした時間、感じた風、交わした言葉を……全部そこに残したい」
「ラジオドラマ……?」
「そう。私の『目』と、瞬の『耳と声』で作る、二人だけの作品。……私たちが生きている証を、一緒に作ろう?」
残されたわずかな時間。迫り来る暗闇と死の恐怖に震えていた僕の胸に、葵の力強い言葉が小さな火をともした。
「……うん。作ろう、葵。僕たちの物語を」
逃れられない運命から目を背けるのではなく、残された奇跡のような時間の中で、二人だけの情景を刻み込むこと。僕たちは静かに、けれど固く決意を交わした。
コメント
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「僕たちが生きている証を、一緒に作ろう?」……葵のこの台詞、胸に沁みました。不治の病という絶望の中でも、ラジオドラマという形で“二人だけの時間”を刻もうとする決意が、静かで力強くて。病名を告げられてからの描写が丁寧で、車椅子の速度や息遣いの変化といった細かな伏線が効いていました。読んでいて、自分も公園に立ち会っているような感覚になりました。