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「このケーキも美味いな」
フォークを手にした彼が言う。
「うちの近所に、レアチーズケーキで有名なお店があって、買って来たんです。レアチーズなら、もしチーフが甘いのが苦手でも、大丈夫そうかなと思って」
自分もケーキをパクッと口に入れる。
「ああ、甘すぎるのは、あんまり食べないかもな。だがこのケーキの味は、とても好きだよ」
「ふふっ、よかったです」
ケーキの好みを話されただけなのに、まるで自分のことを好きだと告げられたみたいで、気持ちが自然と浮き立ってきちゃうだなんて、私ったらどれだけ彼のことが好きなんだろうと、コーヒーを飲みながら独り赤面をしていた。
「そうだ、食べさせてあげようか?」
赤くなっていたところへ、そんなことを言われて、ブワッと耳まで真っ赤になった。
「えっ、いや、そ、そんなの恥ずかしいですからっ! それに食べてるの、おんなじものですし……!」
ケーキを食べさせられたりしたら、このままゆでダコにでもなってしまいそうで、ぶんぶんと頭を振りまくった。
「君に食べさせたら、僕に食べさせてくれないか。そうしたら、一口ずつ交換をしたことになるだろう?」
メガネの奥の目を細めて微笑う彼の表情が眩しすぎて、断わることなんてできなくなる。
「えーっとじゃあ……あの先に、私の方から食べさせてあげてもいいですか?」
自分から食べさせてもらうのはどうにもこそばゆくてそう提案をすると、フォークで一口分を切り分けて、照れくさそうにレンズ越しの眼の縁を仄かに赤くした、彼の口の中へ、「はい、あーん」と、ケーキを差し入れた。
「うん、君に食べさせてもらうと、より美味しく感じるよ。じゃあ君にも、ほら、あーん」
「あ、あーん」つい彼につられて声に出して、あまりの恥ずかしさに今度こそ真っ赤っかになった。
チーフの方は、私の声につられたりはしなかったのにィー……。
だけど、口を開けた時の彼の顔、なんだかあどけなくも見えて、それこそギャップ萌えな感じだったなぁー。だって普段のクールな仕事の顔とは、全く違ってて……そうは見られないもの。ふふっ、これって彼女の役得かな?
食べさせてもらったケーキをゆっくりと味わいながら、そんなことを考えていたら、自然と頬が緩んだ。
「顔がにやけているが、それほど美味かったのか?」
「あ、いやこれは、その……」さっきのチーフの表情を思い浮かべて、笑みがこぼれていただなんて言えなくて、
「ほ、ほんとに食べさせてもらうと、違いますよねー……」
そうとっさに口にしたけれど、実際、食べさせ合いっこのケーキは、一人で食べるものよりずっとスイートで、いつもより数倍も美味しく感じられたのは、言うまでもなかった……。