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◻︎根こそぎ
「まったくアイツは!お金は取らないとか言って、売れた代金の一部はもらっていくつもりだろうに。他にも持って行ったんじゃないのか?泥棒みたいに、いや、強盗か?」
月子のやり方に、夫も言葉が荒くなる。
「一部?全部よ、月子の取り分は」
「はぁ?!なんだよそれ。ってか、他にもいろいろ持ち出してるんだろ?なんだかあちこち殺風景になってるじゃないか!」
言われてみれば、自動で掃除をしてくれる掃除機とか、壁にかけてあった掛け軸、昔お義父さんが趣味で集めていたコインを並べた額縁、二階のテレビ、押入れに溜め込んであった記念品の数々。
「もしかして?」
夫は慌てて納戸を確認した。高く積まれた段ボールには“光太郎私物”と書いてあった。中身は昔買い集めたコミックらしい。
「よかった、これは無事だ」
「さすがに光太郎のものは月子も持ち出さないわよ。なんだかんだお兄ちゃんは怖い存在なんだから」
八重も納戸に来ていた。
「それにしても、月子たちはホントにいろんなものを持って行ってしまったわ」
「持って行ったって言ってるけど、ていよく横取りされたんだからね、わかってる?お袋!」
夫もさすがに苛立ちが隠せない。自分の妹が両親にしたことを、このまま見過ごせるわけがないだろう。
「もういいわよ、確かに片付けをしようと思うと私とお父さんだけでは無理があったと思うしね」
諦めた様子のお義父さんとお義母さん。本当にこれでいいのだろうか?お気に入りのものまで持ち去られるなんて、そしてそれが売れたとしても一銭も入ってこないなんて。
「さてと、冷蔵庫にとっておきのジュースが冷えているから、飲みましょうか。りんごの産地から直接取り寄せたのよ、美味しいんだから」
「まぁ、親父とお袋がそれでいいならいいけどさ」
夫も渋々諦めたようだ。
「あーっ!やられた!」
冷蔵庫を開けたお義母さんの声に、ドキッとした。
「なんだよ、大声あげて。ゴキブリでもいたのか?」
「違うの、見て、冷蔵庫。それからこっちも」
冷蔵庫の横にあるパントリーの扉も開けてあった。
「ジュースも冷凍しておいたステーキ肉も、保存用の缶詰や海苔も、なくなってるわ」
「はぁ?それも月子が?ってか、それは今に始まったことじゃないだろ。あの家族が帰った後は、“イナゴの大群に全部食い尽くされた”って、お袋はいつも言ってたじゃないか」
「だけど、ここまでごっそり持っていかれてるって思わなかったのよ」
___イナゴの大群!うまいこと言うな
イナゴの頭の部分を月子家族に付け替えて、頭の中で妄想して、思わず吹き出してしまう。
そうやって、夫の実家は義妹のお節介の押し売りでスッキリ(?)片付いていた。
「ねぇ、月子さんとこって、何かお金に困ってるのかな?」
お義父さんの誕生日祝いを済ませての帰り道、イナゴの大群にやられた実家を思い出した。
「月子んとこは、うちなんかよりずっと世帯収入はいいはずだぞ。軽く1000万は超えてるだろ?」
「だよね?なのになんであんなことを?せめてお義母さんやお義父さんのお気に入りのものくらいは置いといてあげてもよかったと思うんだけど」
「それな。月子はもともとガメツイんだよな、他人に対しては。消費税が始まったばかりの頃なんか、買い物を頼むときっちり1円単位まで取られたよ。3%って細かい税率の時にさ。そのくせ自分が欲しいものはポン!と高価なアクセサリーや車はなんの躊躇もなく買う。おそらく、千円以下のことにはものすごく細かくて、一万超えるとわけわからなくなるんじゃないのか?」
「なんだ、それ。でも月子さんのそんな性格は、なんとなくわかるかも」
私はたまに身内が集まった時にやるビンゴ大会の景品を思い出していた。景品はそれぞれの家族が家からの持ち寄りにしてあった。うちからは図書カードや商品券、それから面白いものや美味しいものは、わざわざ取り寄せてまで景品として献上したものだ。
けれど月子家族が持ち寄ってきたものは、ガソリンスタンドでもらったらしいタオル、お菓子のオマケ、アンケートに答えてもらった化粧品のサンプル、そんなものばかりだった。つまり、元手は無料のものだ。そのくせ、ビンゴ景品は、良いもの(うちが出したもの)ばかりを持っていく。
ルールが、上がった順に選べるとしていたからだけど、遠慮というものはないらしい。
かと言って、車は夫婦でLのつく高級車に乗っているし、家だって持ち家だ。ペットはマグカップにも入ってしまいそうなくらい小さいワンちゃんが3匹いて、1匹50万と聞いたことがあるけど。
「そういえばさ、ワンちゃんのトリミングは3匹で15000円かかるけど、家族の床屋代は四人で5000円かからないって、変な自慢してたよね?」
とてもお得に買えたものとか、誰かにもらったいいものはとにかく自慢したがる月子。そんなこと言われてもなにも羨ましいとは思えないんだけど。
___だいたい女子中高生の美容院が安くて早い床屋って、何?
もしも私だったら、反抗するだろう。
「そこからして、もうおかしいよな。そのうちお袋たちの通帳まで持ち出すんじゃないのか?」
夫に言われて、“そうかも!”と思い当たる。
「ねぇ、それはお母さんたちに言っておいた方がいいんじゃない?まさかとは思うけど」
月子ならやりかねないと思った。
「そうだな、帰ったら早速電話しておくよ」