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「…ね、佐久間くん。顔見せて」
俺にしがみついて泣き続ける佐久間くんに、目が溶けちゃうんじゃないかと心配になる。
そろそろ顔も見たいなと思ってそう囁くと、いやいやと首を横に振りながら更に強くしがみついてきた。
何だこれ、可愛い。苦しいくらい愛しい。
「無理…っ。だって、涙、とまんねー…んだ、もん…っ」
「…やだもう。何それほんとに可愛い…俺が無理」
「何言ってん、だ、ばか…っ」
泣きながらでも佐久間くんが小さく笑ってくれた。可愛いのも俺が無理なのも本当だけど。
佐久間くんの腕が僅かに緩んだその隙に少しだけ身体を離す。
顔を覗き込むと確かに、涙腺が壊れてしまったみたいに次々に新たな涙が頬を伝って落ちていく。
その涙一粒一粒に俺への気持ちが詰まってるような気がして。佐久間くんの目元をぺろりと舐めて、その涙を味わった。
「…なに、してん、の…っ」
「…涙を止めようと思って」
「そんなん、で、止まるかばか…っ」
未だに嗚咽で肩を震わせてる佐久間くんが、唇を尖らせなから見上げてくる。
そんな顔しても駄目。可愛いだけだから。
「じゃあ、どうしたら止まる? 泣いてる顔も可愛いけど、目が溶けてなくなっちゃうんじゃないかって心配になる」
両手で頬を包み込んでじっと見つめると、佐久間くんがきょとんとした顔になった。次の瞬間にはふはっと吹き出して、泣き笑いみたいな状態になる。
「そんなべったべたな台詞、現実で聞くと思わなかった…っ」
「他にも言えるよ? 佐久間くんのキラキラした大きな瞳がこぼれ落ちそうだとか」
「ばか、やめろっ、腹痛いっ」
今時少女漫画ですら見かけるか分からない古典的なべた甘の台詞を続けて言うと、佐久間くんがお腹を抱えて笑い始めた。
ひとしきり笑った後で、今度は笑いで溢れたらしい涙を指先で拭う。そこでふと気付いたらしい。
「あ、止まった」
「そっか、良かった」
「…狙ってたのか?」
「さあ、どうかな。泣いてる顔が可愛いと思ったのは本当だし。佐久間くんの目がキラキラしてるなーって思ったのも本当だから」
ぽかんと俺を見上げながら、徐々に頬が赤く染まっていく。意外とクリティカルだったみたい。
自分でも自覚したみたいで両手で頬を隠すけど、すでに耳まで赤くなってるからあんまり意味がない。
ほんと、可愛い。
愛おしさを噛み締めながら、両腕を伸ばしてその身体をそっと包み込んだ。
「ね、佐久間くん。俺の恋人の、佐久間くん」
「…な、なんだよ」
声に照れが滲みながらもちゃんと応えてくれるのが嬉しくて、こめかみにちゅっとキスを落とす。
「恋人として、何がしたい? これまでは佐久間くんが俺のやりたいことをたくさん叶えてくれたから。だから、今度は佐久間くんが恋人と何がしたいのかを知りたい」
「蓮…」
「したいこと教えて、佐久間くん。一つずつ一緒に叶えていこう」
「俺がしたいこと…何でも、いいのか?」
「うん、何でもいいよ。今すぐは無理なことでも、これから少しずつ叶えていけばいい。たくさん約束しよう。…たくさん、未来の話をしよう」
そう言って顔を覗き込むと、驚きで見開かれた目がゆっくりと細められていく。柔らかく微笑んだその顔は、本当に心の底から幸せそうで。
この笑顔をこれから大切に守っていかなくちゃって、強く強くそう思った。