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ぬま子
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「…そりゃあ…活動休止にせざるを得んよな…特に、声が…」
「…ん、そうだよね…だって、こんな声じゃ… どう誤魔化そうとしても無理だし…」
その言葉の端々に滲む響きは、例えるなら、二次元の世界から飛び出してきたキャラクターを思わせるほど、圧倒的に妖艶で甘いものだった。男だった頃の面影はどこへやら、その声だけで室内の空気がふっと熱を帯びるような錯覚に陥る。
「…というか…はやちゃんの前で言ってええんか分からんけどさ…じゅう、可愛すぎん…?」
耐えきれなくなったように舜太がポロッと口を滑らせると、仁人が慌てて脇腹を肘で突いた。
「…っ…おい、舜太! 勇斗が目の前にいるんだぞ?」
「そんなん分かっとる!けど…」
「舜太、じゅうは俺の恋人だぞ?」
「…それは分かっとる!分かっとるんやけど、何かいつもと違いすぎて…直視出来ないっていうか…! 10年近い付き合いなのに、こんなん初めてで動揺するやろ普通!」
「…だからって、俺の目の前で…」
ピリついた空気を察して、仁人がやれやれとため息をつきながら二人の間に割り込む。
「おい、勇斗、舜太、その辺にしとけ。柔太朗が困ってるだろ?」
「…はやちゃん…」
仲間たちの喧嘩を心配そうに見つめていたじゅうが、俺の袖をキュッと小さく引っ張った。その潤んだ瞳を見下ろすと、さっきまでのトゲが嘘のようにスッと消えていく。
「…悪ぃ、舜太…お前がそういうつもりで言ってねぇって頭では分かってても…なんか、嫉妬しちまったわ……」
「…ふふ…そんなに怒らないで、はやちゃん」
少しだけ照れくさそうに、けれどどこまでも愛おしい笑みを浮かべながら、真っ直ぐに見上げた。
「…誰に可愛いって言われても、お…私は…はやちゃんのことしか、見てないんだから…ね?」
自分でもまだ慣れない”私”という一人称を恥ずかしそうに噛み締めつつ、そう言ってふわりと微笑んだじゅうの破壊力に、その場にいた全員が言葉を失った。
「…そういうの見てると、やっぱり2人が付き合ってんやなーって改めて実感すんね」
「…せやな」
「…まあ、もう2年付き合ってるもんな」
呆れと納得が入り交じったような生あたたかい目で、舜太、太智、仁人の3人がじっとこちらを見つめてくる。
その視線に気づくと、気まずそうに視線を逸らし、じゅうは恥ずかしそうに頬を染めて俺の胸元へと体を預けた。
「…何か、最初はみんな戸惑ってたけど…すっかりいつも通りだね」
「そらそうやろ。姿形が変わったって、中身は俺らの知ってるじゅうやし」
舜太がいつも通りの軽口を叩き、太智もこくこくと大きく頷く。
「ほんまにな…」
「まあ、当分の間は色々大変だろうけど、俺らで支えられることは協力するからさ」
仁人の頼もしい言葉に、2人は深く息をつき、そして安心したように顔を見合わせた。
非現実的な夜の訪れだったけれど、この仲間たちがいてくれるなら、どんな未来もきっと越えていける…そんな確信が、静かに胸を満たしていく。
「…で、今夜もするん? 2人は」
「「…っ…!」」
「…おい、太智…!」
「…太ちゃん、何言うてんの…!」
突然の鋭すぎる一撃に、俺とじゅうは盛大に顔を真っ赤にして固まり、慌てて太智を制止しようと仁人と舜太が声を荒らげるが、当の太智はきょとんとした顔で首を傾げる。
「…え、せえへんの?恋人同士なんやからそんなに考えんでも…」
「そういう問題じゃねぇだろ!!」
「だいちゃん、デリカシー無さすぎるやって!」
「そういう舜ちゃんやって、いきなりこの部屋に行こうとしてたやろ?」
「…っ…それは!!」
耳まで真っ赤にして威嚇する自分と、羞恥心でソファのクッションに顔をうずめて小さくなるじゅう…その様子を見て、舜太と仁人は盛大に天を仰いだ。
「…あーもう、俺めっちゃ深刻な話をしに来たはずなのに、なんでこんなアホらしい空気になってんねん…!」
「ホントにな …まあ、そういう状況になっても愛し合えるなら…多分、大丈夫なんじゃねぇの?」
「…俺もそう思うわ、仁ちゃん」
「せやろ、せやろ?」
「…太智、お前はもう少しデリカシーってものを学べ。見ろよ、じゅうの顔…撃沈してるだろ?」
「…うう、もういじらないで…っ…」
恥ずかしさのあまり消え入りそうな声で抗議するじゅうの頭を、愛おしそうにポンポンと軽く撫でると、ポカポカと叩かれる…全く痛くないけれど。
「…そんで続き…するんやろ? やったら、俺達そろそろ退散せないかんよな」
「おま、さっき…言われたこと忘れたのかよ…!」
「でも、そろそろ帰らな…俺らも明日、普通に仕事があるんやで?」
太智が眠そうに目をこすりながら立ち上がり、仁人もそれに合わせてふっと小さく息をついた。
「ほんまにな。これ以上長居したら、さすがに勇斗のストレスで俺らが消し飛ぶわ」
「分かってんならさっさと帰れ…!!!」
顔を真っ赤にして追い出そうとする勇斗の姿を見て、舜太たちは楽しそうに笑い声を上げる。そんな賑やかなやり取りを、柔太朗は少し照れくさそうに、けれど愛おしそうな瞳で見つめていた。
「…ほな、お邪魔しました。じゅう、また連絡するからな。無理せんとやで」
「うん、ありがとう……みんな、遅くにありがとね」
バタバタと騒がしく玄関に向かい、3人はそれぞれの家へと帰っていく。ガチャリと扉が閉まり、再び部屋に静けさが戻ると、大きなため息と共にあたたかな余韻が残された。
「…やっと静かになったな」
「…びっくりしたね、急に来るんだもん」
「全くな…で、どうする?」
低く掠れた声でそう問いかけながら、勇斗はゆっくりと彼女の隣に腰を下ろし、その華奢な肩を優しく引き寄せた。
「…俺がなんて答えるか分かってるくせに…」
「…いいのか?」
「…はやちゃんとなら…怖くないから…」
甘く蕩けた声で微笑みながら、首に腕を回し、自らその唇へと引き寄せ、重なる寸前…
「…じゅうは…この姿、どう思ってんだよ。随分と楽しんでるようだけど…」
「…そりゃあ…困惑するしかなかったでしょ。生まれてから昨日までずっと男として生きてきたし、グループのことも考えたら…正直、絶望したよ。その気持ちには変わりないからね」
ふざけ合っていた時の軽口が嘘のように、その瞳からふっと余裕が消え、どこか切なさと本当の不安が浮かび上がる。
「結局、はやちゃんを誘惑できるような身体を手に入れたところで…それは元の自分とは違うもん…そりゃあ、この身体で誘惑したときのはやちゃんの反応が面白かったけどさ…どうせ誘惑するなら、本当の自分でした方がイイじゃん?」
その言葉に、ハッとしたように息を呑んだ。
ただのイタズラや、小悪魔的な気まぐれで楽しんでいるわけじゃない。じゅうの根底には、男として生きてきた自分へのアイデンティティの葛藤と、グループの一員としての責任、そして何より「本当の自分」で勇斗を愛したいという、揺るぎない本音がしっかりと根付いていた。
ふざけ合って、甘い空気にかまけて忘れていたはずの現実が、その言葉によって鮮やかに蘇る。けれど同時に、だからこそ愛おしいという想いが胸の奥を熱く焦がした。
「…本当、お前はタチの悪い女…いや、男だな」
言いかけた呼び名を途中で訂正しながら、苦笑いを浮かべた。女の姿をしていようが、中身は間違いなく、いつもの頑固で真っ直ぐなアイツだ。
「…ふふ、何それ。口説き文句にしては全然ロマンチックじゃないよ、はやちゃん」
「…ロマンチックじゃなくて悪いな。でもさ…」
俺はじゅうの背中に腕を回し、その髪を優しく、愛おしそうに指先で梳く。
「男だろうが女だろうが、お前が誰であっても…俺がお前に夢中なのは、最初から変わりねぇよ…だから、焦るなよ、じゅう。元に戻る方法が見つかるまで…いや、たとえこのままだとしても…俺は、今の『お前』ごと全部愛してやるから」
「…っ…ずるい、そんなこと言われたら…また泣いちゃうでしょ…」
潤んだ声を漏らしながら、胸元に顔を埋める。
不安や迷いを抱えながらも、お互いの体温を確かめ合うように、二人は静かに、けれど強く抱き締め合った。
この夜の温もりが、これからの未来を乗り越えるための確かな光になっていく…そう信じられるだけの時間が、そこには確かに流れていた。
【……To be continued】
「1日2本投稿とかええんか作者!!」と思われそうですが…いや、ホントに先の先まで書きすぎてるせいと、今日は日曜日なんで(ぶっちゃけそこが1番の要因ではあるけれど)、思い切って2本投稿してみました(思い切ってるにも程があるだろ)。
そう言えば今日は気象予報士の試験だった…との事ですが、❤️の試験結果がとても気になりますね…どうか合格していますように…
コメント
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更新、ありがとうございます!(本日2回目) え?えっえ!いいんですか、1日2本も読ませていただいて…!供給過多になってしまいますよ…!? 今回は、ホッコリからの感動でしたね。M!LKメンバーの雰囲気がとても良くて、暖かさが伝わりました。2人の時間もすごく愛おしかったです。不安があるからこそ、愛が輝いているように感じました。 2本も公開してくださり、本当に嬉しいです。次回も楽しみにしています!

みぅだよ🥀 第10話、読ませてもらったよ…! 仲間たちの軽い掛け合いと、その後にじゅうが見せた本音のギャップがすごく心に刺さった…「本当の自分で愛したい」って言葉、すごく重くて、でもその先に勇斗の「全部愛してやる」がちゃんとあるのが良かった…🤍 2本投稿、すごいね! はうさんの勢い、ちゃんと受け取ったよ…試験結果も気になるけど、まずは作品を楽しみにしてるね🌙