テラーノベル
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昼前。
廊下を歩きながら、臨時が大きくため息をついた。
「腹減ったぁ……。」
「まだ昼前だろ。」
一樹が呆れたように言う。
「減ったもんは減ったんだよ。」
「我慢しろ。」
「無理。」
そんなやり取りをしながら歩いていると、一樹がふと思い出したように口を開いた。
「そういや今日。」
「ん?」
「食堂休みだったな。」
沈黙。
臨時が固まる。
「……え?」
「休み。」
「……。」
「休みだぞ。」
「終わった。」
「終わってない。」
「俺の昼飯が終わった。」
「大袈裟だ。」
その時だった。
真ん中を歩いていたゆきが、突然方向を変えた。
「ん?」
「ゆき?」
無言。
そのまま歩く。
「どこ行くんだ?」
無言。
そして。
ガチャ。
調理室の扉を開けた。
「怖いんだけど!?」
臨時が叫んだ。
「なんで無言なの!?」
「別に。」
「別にじゃない!」
◇◇◇
調理室。
ゆきは冷蔵庫を開く。
そして。
「ある。」
「何が?」
臨時が覗き込む。
そこには。
鶏肉。
卵。
小麦粉。
片栗粉。
各種調味料。
「なんで唐揚げの材料だけ揃ってるんだ?」
一樹が真顔で言った。
「知らない。」
「怖い。」
臨時も真顔だった。
「運命かな。」
ゆきが呟く。
「もっと怖い。」
◇◇◇
「作るの?」
「作る。」
即答だった。
ゆきは慣れた手つきで鶏肉を切る。
下味をつける。
粉をまぶす。
油を温める。
動きに迷いがない。
「慣れてるな。」
一樹が言う。
「まぁ。」
「何回作った。」
「覚えてない。」
「怖い。」
臨時が言った。
◇◇◇
ジュワァァァ……
油の音が響く。
香ばしい匂いが広がった。
「やば。」
臨時が言う。
「絶対うまい。」
「まだできてない。」
「もううまい。」
◇◇◇
しばらくして。
山盛りの唐揚げが完成した。
「おぉ……。」
臨時が感動していた。
「すご。」
一樹も少し驚いている。
ゆきは一つ摘まんだ。
「うん。」
「どうだ?」
「成功。」
◇◇◇
ガチャ。
「なんかいい匂いすると思ったら。」
翼だった。
「何してんの?」
「唐揚げ。」
「見れば分かる。」
◇◇◇
さらに。
ガチャ。
「ひゃっきー。」
りいが入ってくる。
「いい匂い。」
「鼻良すぎません?」
臨時が言う。
「なんか集まってる気配したからさ。」
りいはテーブルを見る。
「唐揚げだ!」
少しだけ嬉しそうだった。
◇◇◇
さらに。
ガチャ。
「何の騒ぎっすか?」
百軸も入ってきた。
「…なんか増えた。」
ゆきが呟く。
◇◇◇
結局。
みんなで食べることになった。
「いただきます!」
臨時が真っ先に唐揚げを口に放り込む。
数秒後。
「うまっ!?」
叫んだ。
「めっちゃうまい!」
「そんなに?」
ゆきが首を傾げる。
「そんなにだ!」
◇◇◇
翼も食べる。
「うまいな。」
「でしょ。」
少しだけ得意げになるゆき。
「ドヤ顔してる。」
「してない。」
していた。
◇◇◇
その時。
一樹が唐揚げを見ながら言った。
「そういや。」
「ん?」
「昔も似たようなことあったな。」
臨時が吹き出した。
「あー!」
ゆきは嫌な予感がした。
「何。」
「中学の民泊。」
「……。」
「あったな。」
一樹も頷く。
◇◇◇
「民泊?」
翼が聞く。
臨時はニヤニヤしていた。
「俺ら三人同じ班だったんっすよ。」
「へぇ。」
「んで民泊先の晩飯が唐揚げだったっていう。」
りいが察した顔をした。
「あ。」
「察した。」
◇◇◇
「その時ゆきがさ。」
臨時が笑いながら言う。
『唐揚げは下味が大事なんだよ。』
『衣も大事。』
『揚げ時間も大事。』
「やめて。」
「語り始めた。」
一樹が続ける。
「止まらなかった。」
「やめて。」
◇◇◇
「そしたら民泊先のおばちゃんが。」
『詳しいねぇ。』
って言ったんだよな。」
臨時は笑いを堪えている。
「で。」
『唐揚げは奥が深いんです。』
「真顔だった。」
「やめて。」
◇◇◇
「その後。」
「民泊先のおじちゃんまで来て。」
『先生!』
『この唐揚げどうですか!』
「ってな。」
翼が吹き出した。
「先生?」
「からあげ先生。」
臨時が言った。
「最終日には民泊先全員から。」
『からあげ先生ー!』
「って呼ばれてた。」
◇◇◇
「最悪。」
ゆきは顔を覆った。
「懐かしいな。」
一樹が笑う。
「笑い事じゃないし。」
◇◇◇
臨時は唐揚げを一つ食べる。
そして。
ふと思ったように言った。
「でもさ。」
「先生じゃないよな。」
嫌な予感しかしない。
「え?」
◇◇◇
臨時は立ち上がった。
そして。
高らかに宣言する。
「今はもはや女王だよな!」
一拍。
「からあげ女王!!」
「やめてぇぇぇぇ!!」
◇◇◇
「確かに。」
一樹が頷く。
「先生より格上だな。」
「格付けするな!」
「昇進だ!」
りいが言う。
「してません。」
「おめでとう。」
「してませんってば。」
「…良かったじゃん、立派になって。」
「してないってば!!」
◇◇◇
笑い声が調理室に響く。
その日。
長瀬ゆきは改めて悟った。
この組織に。
味方はいない。
コメント
6件
読んだけど、めっちゃ癒されたわ〜。 ゆきが無言で調理室入っていくところ、臨時が「怖いんだけど!?」ってなるのめちゃくちゃウケた。そしてまさかの「からあげ先生」から「からあげ女王」への昇進エピソード、草。 「味方はいない」ってオチも含めて、緩い空気感が最高だった🔥 こういう日常回、好き。次も楽しみにしてます!