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コメント
1件
おはようございます、comiさん!第21話「朝の光の下で」、めっちゃいい話でした…!ジントが無意識にダイチのベッドに潜り込んでるシーン、可愛すぎて声出ました。あと、朝のやり取りで二人の距離が縮まってる感じがじんわり伝わってきて、読んでてこっちまで温かい気持ちになりました。ハヤトが「月蝕の子」と呟くところは、これからに繋がる伏線っぽくて気になりますね。穏やかな朝だけど、まだ闇は終わってない…そんな緊張感も残しつつ、仲間たちの賑やかな会話にほっこりしました!
第八章 闇が帰る月夜
第一話 朝の光の下で
朝の光が、白いカーテン越しに静かに差し込んでいた。
柔らかな温もりに包まれながら、ダイチはゆっくり目を開ける。
「……ん……」
ぼやけた視界。
身体を動かすと、ふかふかの感触が背中を沈めた。
知らない天井だった。
しばらくぼんやり見つめて、そこでようやく思い出す。
――帝国。
――教会。
――魔物。
――暴走しかけたジント。
「……っ!」
半分跳ね起きるように身体を起こしかけて、頭に鈍い痛みが走った。
「いって……」
昨日の怪我だ。
けれど思ったより痛みは軽い。
どうやら手当てはちゃんとされているらしい。
そこまで考えて、ふと隣へ視線を向ける。
「……」
寝息。
すぐ傍から聞こえた。
そこには、静かに眠るジントの姿。
黒髪がシーツへ広がり、長い睫毛が白い肌へ影を落としている。
規則正しい呼吸。
苦しそうな様子はない。
その姿を見た瞬間、胸の奥に張り付いていた緊張が少しだけ緩む。
「……よかった」
小さく呟く。
そして次の瞬間。
「……ん?」
ダイチは固まった。
いや待て。
なんでこんな近い。
というか。
「なんで同じベッドで寝てんだ!?」
思わず声を上げそうになって、慌てて口を押さえる。
昨日、部屋へ入った時。
ジントは確か、隣のベッドへ倒れ込むみたいに眠ったはずだ。
なのに今。
ジントは、ダイチの隣で丸くなって眠っていた。
しかも結構ぴったり寄っている。
「お前……」
呆れたように呟きながらも、ダイチは小さく笑った。
眠っているジントは、どこか幼く見える。
昨夜の、壊れてしまいそうだった姿が嘘みたいだった。
思わずじっと見つめる。
綺麗やな、と。
そんなことを考えてしまって、ダイチは慌てて視線を逸らした。
「……何考えてんだオレ」
少し赤くなった顔で小声でぼやく。
ジントを起こさないよう、そっとベッドから降りようとした時だった。
「……ん……」
小さな声。
ジントの睫毛が揺れる。
ゆっくりと黒い瞳が開いた。
けれど、すぐには起き上がらない。
ぼんやりとしたまま、宙を見つめている。
「ジント」
ダイチが静かに声を掛けた。
「……眠れた?」
少し間が空く。
やがて
「……夢を見た」
掠れた声。
ダイチはベッド脇へ座る。
「夢?」
ジントはゆっくり瞬きをした。
「黒髪黒眼の女の子がいた」
「……泣いてた」
静かな声だった。
「すごく悲しそうで」
「でも、触れられなくて」
黒い瞳が、少しだけ揺れる。
「なんか……すごく苦しくて」
そう言って、ジントは小さく唇を噛んだ。
ダイチは何も言わなかった。
代わりに、そっとジントの頭へ手を乗せた。
さらりと黒髪を撫でる。
「……っ」
ジントが少しだけ目を見開く。
何度か優しく撫でられるうちに、強張っていた表情が少しずつ緩んでいく。
その様子を見て、ダイチは小さく息を吐いた。
「……ところでさ」
「?」
「なんでオレのベッドで寝てんの?」
空気が止まる。
「え?」
ジントが固まる。
ダイチは少しだけ意地悪そうに笑った。
「昨日、隣のベッドに寝てたやろ」
「なのに朝起きたら、なんでこっち来てんの?」
「…………」
ジントの顔が、みるみる赤くなる。
「お、おれ……?」
「覚えてないの?」
「……全然……」
耳まで真っ赤になったジントは、慌ててシーツを引っ張り上げて顔を隠そうとする。
「ははっ」
ダイチが吹き出した。
「なにそれ」
「笑うな……!」
くぐもった抗議。
「いや、お前それ普通に怖いわ」
「知らない……」
「しかもめっちゃ寄ってたし」
「っ!!」
ジントが勢いよく顔を上げる。
「言うな!!」
「はははっ!」
久しぶりに、心から笑った気がした。
ジントは拗ねたみたいに顔を逸らす。
そんな、穏やかな朝だった。
――コンコン。
不意に扉がノックされる。
「失礼いたします」
静かな声と共に、召使い達が数人入ってくる。
ダイチとジントは同時に固まった。
「湯浴みのご準備をさせていただきます」
慣れた様子で、部屋の一角へ次々と準備が進められていく。
大きな桶。
湯気。
着替え。
整えられた布。
「湯浴みが済みましたら、こちらをお召しください」
丁寧に畳まれた衣服が置かれる。
「また、お食事のご用意も整っております」
「お着替えが済みましたら、こちらのベルでお呼びくださいませ」
最後に恭しく一礼し、召使い達は部屋を出て行った。
「…………」
「…………」
二人は顔を見合わせる。
そして。
「すげー……」
ダイチが思わず呟いた。
ジントもまだ呆然としている。
「城ってこんなんなんだ……」
どこか落ち着かなさそうに、白いローブへ視線を落とす。
ダイチは少しだけ笑った。
「ジント先入れよ」
「……うん」
少し立ち上がりかけて、ジントがじろりと睨む。
「……見るなよ」
「見ねーよ」
「絶対だぞ」
「信用なさすぎだろオレ」
笑い声が漏れる。
そうして。
湯浴みを終え、着替えを済ませた二人は、召使いに案内されながら城の廊下を歩いていた。
着慣れない柔らかな服。
ジントの黒いローブの代わりに用意されていたのは、白を基調としたゆったりした衣装だった。
白い布地が、黒髪をより際立たせている。
眩しそうに目を細めながら、ジントは豪華な廊下を歩く。
隣ではダイチが、きょろきょろ辺りを見回していた。
「すげぇな帝国……」
小声で感嘆する。
やがて案内された先は、小さな客間だった。
召使いが静かに扉を開ける。
そこには既に、三人の姿があった。
ハヤト。
ジュウタロウ。
シュンタ。
席に着いていた三人が、同時にこちらを見る。
そして
「おはよう」
ハヤトが笑った。
まるで朝日みたいな、眩しい笑顔だった。
「よく眠れたか?」
客間の中央には、大きな丸テーブルが置かれていた。
白いクロス。
磨き上げられた銀食器。
そして、並べられた料理の数々。
焼き立てのパン。
香草の効いたスープ。
色鮮やかな果物。
卵料理に、肉料理まで並んでいる。
部屋へ入った瞬間。
「……うわ」
ダイチが思わず声を漏らした。
隣でジントも完全に固まっている。
そんな二人を見て、シュンタが吹き出す。
「反応おもろすぎやろ」
「いやいや、これは驚くって!?」
ダイチが即座に言い返した。
「朝飯やで!?」
「わかるけど」
シュンタが肩を揺らして笑う。
「そんな田舎来た子供みたいな顔せんでも」
「誰が田舎もんや!」
「いやラディスやろ?」
「帝国よりは田舎やけど認めたくないわ!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める二人。
その横で、ハヤトが堪えきれないように笑った。
「安心しろ」
「俺達も毎朝こんな食事じゃない」
「えっ」
ダイチが真顔になる
「そうなん!?」
「今日は客人が増えたからな」
ハヤトが穏やかに答える。
「厨房が張り切ったんだろう」
「なんや〜」
シュンタが椅子へもたれ掛かる。
「オレ、帝国って毎朝こんなん食うてんのかと思ったわ」
「ちょっと夢見たわ」
「お前もやんけ!」
ダイチが即ツッコミする。
「絶対今、住み込みたい思ったやろ!」
「思ってへんわ!」
「顔に書いてあったで!?」
「書いてへん!!」
シュンタとダイチが、完全に同じテンポで言い合う。
ジュウタロウが静かに紅茶を飲みながら、ぽつりと呟いた。
「騒がしいな」
「ジュウ助けてや!」
「断る」
即答。
シュンタが大袈裟にショックを受ける。
「冷たっ」
「いい気味や」
ダイチが笑う。
「お前達、昨日会ったばっかと思えないな」
ハヤトが口元を緩めた。
「確かにな」
ジュウタロウも静かに頷く。
その空気の中で、ジントは少しだけ戸惑うように瞬きをしていた。
昨夜まで、世界中が敵のように思えていた。
なのに今は、温かな匂いと笑い声がそこにある。
現実感が、少し薄い。
召使い達が料理を取り分け始める。
ジントは慌てて身を引いた。
「え、あの、自分で……」
「お気になさらず」
恭しく返される。
ジントはさらに困ったように視線を揺らした。
ダイチが隣で吹き出す。
「めっちゃ困っとる」
「……落ち着かない」
「顔に出すぎやねん」
ジントはむっとしてスープへ視線を落とした。
その様子を見て、シュンタがにやりと笑う。
「ジントって、思ったより表情出るんやね」
「昨日最初見た時、もっとこう……
人間離れしたタイプかと思っとったわ」
「シュンタ」
ジュウタロウが静かに低い声を出す。
「あ、ごめんごめん」
シュンタは頭を掻きながら笑った。
「でもほんま、普通の兄ちゃんやん」
「赤なるし、拗ねるし。
全然普通やな〜って」
ジントは少しだけ目を見開き、そのあと小さく視線を逸らした。
「……そういうこと、あんまり言われたことない」
静かな声。
ダイチがパンを齧りながら笑う。
「こいつ昔からこんなんやで」
「人見知り激しいだけで」
「ダイチはうるさい」
「なんでやねん!」
即座に返す。
「オレ、なんも変なこと言うてへんやろ!?」
「朝から声が大きい」
「シュンタのせいやろ!」
「オレ!?」
「絶対お前や!」
「濡れ衣やわ〜!」
また騒がしくなる。
ジュウタロウも、ほんの少しだけ口元を緩めていた。
そんな光景を見ながら、ハヤトは静かに紅茶へ口を付ける。
そしてふと、ジントを見る。
ジントは少し困ったようにしながらも、先ほどより柔らかい表情をしていた。
昨夜、あれほど怯えていた少年。
闇に飲まれかけていた存在。
それが今は、仲間達の騒がしさに囲まれて笑っている。
ハヤトは、ほんの僅かに目を細めた。
――記録にあった月蝕の子とは違うのか。
そんな考えがよぎる。
だが同時に、昨夜見た黒い瘴気の光景も脳裏を離れない。
静かな葛藤を胸に沈めながら、ハヤトは何も言わなかった。
窓の外では、朝の光が帝国の城を静かに照らしていた。