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#主人公最強
しめさば
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──そして、記憶の欠片(飴玉)が止まった場所に──
巨大な石扉があった。
「……これが、次の層への入り口ね」
扉は黒曜石のような素材でできており、
表面に無数の古代文字が刻まれている。
文字は薄く光っていて、見ているだけで目がチカチカする。
私は扉を押してみるが、扉はビクともしない。
「ククク……見るがいい、この禍々しき黒曜石の門を。
表面に刻まれし古代の呪詛……我が左目が激しく疼く……!
絶対ヤバいよ?帰ろ?」
ツバキが包帯を押さえて無駄に身悶えしている。
「なんか『焼肉定食』って書いてあるように見えない?」
カエデが腹の虫を鳴らしながら扉を見上げている。
「んなわけあるか」
私はカエデの頭をコツンと叩く。
「……これは、焼肉定食ではなく、古代語ですね。
ふむ。押してダメなら引いて──」
「邪魔よ辰夫ッ!!」
ドゴォォォン!!
私のドロップキックが扉に直撃し、開いた。
「サ、サクラ殿!? 古代語で『引いてね』と書いて──」
「知らん。はい、次」
千年の知識は、物理に負けた。
そして──壊れた扉の中から、ヒンヤリとした冷たい風が吹き出してきた。
「冷たっ……エスト様、私の後ろに」
私は無意識に一歩前に出て、エスト様の盾になるように立った。
吹き付ける風で、私のアフロがぶわっと揺れる。
「サクラさん……たまにすごく優しいよね」
辰美が私の隣で小さく呟いた。
「…………ったく……優しいって言われるたびに思うのよ。
私はただ、エスト様が泣いてるのが嫌なだけ」
私はアフロをぶんぶん振りながら扉の向こうへ歩いていく。
「私も優しくされたい……」
「我も……」
辰美と辰夫が捨てられた子犬のような目で見てくる。
「うるさい!」
──でも、確かに。
エスト様の涙を見ていると、胸がキュッとして、なんとかしてあげたくなる。
いつからだろう。
この子のことを、こんなにも大切に思うようになったのは。
……まあ、いいか。
私は性分として、泣かせたままじゃ気が済まないだけ。
「……だから進むわよ」
──そして私たちは、第二層へと足を踏み入れた。
──そこは、第一層とはまったく違う世界だった。
天井は高く、まるで巨大な地下神殿のよう。
壁には無数の魔法陣が刻まれており、
青白い光がゆらゆらと揺れている。
……綺麗。──だけど、妙だった。
「まるで別の場所みたいね」
「すー、はー。なんか空気が美味しいね!」
カエデが深呼吸している。
「……おそらく、これは防御結界の名残です。
エスト殿の父上が残したものかと。
瘴気の侵食を一時的に遅らせている──ですが、長くは保ちそうにない」
辰夫が慎重に言った。
私は小さく息を吐いた。
「……そりゃそうよね。見た目に騙されちゃいけないわ」
──そして、空間の中央に──
巨大な水晶球が浮かんでいた。
淡く脈打つ紫の光が、その中にゆっくりと渦を巻いている。
「……あれは……?」
「きれい……でも、なんだか……さっきの飴玉とおんなじ光……」
エスト様が水晶球を見上げて、ぽつりと呟いた。
「……おんなじ?」
私は一歩前に出る。
──そう。さっきの記憶の欠片と、まったく同じ色だ。
同じリズムで光って、同じようにゆらめいている。
「これは……“記憶核”かと」
辰夫が慎重に言った。
「先ほどの欠片は、この核から漏れた一部でしょう。
中には、より深い記憶が封じられているはずです」
「じゃあ……中に……もっとパパの記憶が……?」
エスト様の声が震えている。
「……たぶん、ね。きっと──父親として、
エスト様に残したかったものが、まだ中にあるの……かもね」
私は水晶球を見つめた。
中の光がゆらゆらと揺れ、
ぼんやりと誰かの影がちらりと見える気がする。
──エストパパなのか? それとも別の何か?
「答えは、たぶんあの中ね」
エスト様は小さく頷いた。
「……見たい。パパのこと、もっと知りたい」
「……よし。行きましょう」
私は一歩踏み出した。
「うんっ!」
「……まだ、ここに残っている。何かが」
辰夫はそっと補足する。
「ふん、面白くなってきたじゃない」
「……」
エスト様がふと私の手をぎゅっと握ってきた。
──この先に何が待っているのかは分からない。
でも今は、この子のためにも、前に進むだけだ。
「……それにしても、近づくだけで魔力で頭がクラクラするわ」
巨大な水晶球の真ん前に立った私は、思わず額を押さえた。
球体の表面では、青白い光がゆらゆらと波打っている。
「お姉ちゃん、この中に何かいる……」
水晶球を見上げて、エスト様は小さく震えている。
確かに、球体の奥で何かが蠢いているような気がする。
「これは……記録魔法の痕跡ですね。これを用いれば──」
「ホログラムね」(サクラ)
「ビデオレターだ!」(ツバキ)
「決めた!晩御飯、うどんにしよ?」(カエデ)
「『過去の幻影を視る水晶』ですね、わかります」(ローザ)
「…………」
辰夫が静かに口を閉じた。
「で? 再生ボタンは?」
「……手をかざせば、発動、します……」
千年の竜王が、家電のサポートセンターみたいになっていた。
──その時だった。
水晶球が突然、激しく光り始めた。
ビカッ!!!!!
「うわっ!?」
私たちは反射的に目を閉じる。
強烈な光が辺り一面を包み込み──
──次の瞬間。
景色が、変わっていた。
「……え?」
同じ第二層の神殿の同じ場所。
でも、雰囲気が違う。
空気がもっと澄んでいて、魔法陣の光ももっと安定している。
そして──
『記録魔法……発動』
声と同時に、水晶球の前に一人の男性が立っていた。
長い黒髪、エスト様によく似た顔立ち。
深い紫色のローブを纏い、手には複雑な魔法陣が刻まれた杖を持っている。
「パパ……!」
「待って。これは過去の出来事よ。触れることはできないわ」
男性に向かって駆け出そうとしたエスト様の腕を、私は咄嗟に掴んだ。
男性──エストパパは私たちをまったく見ていない。
まるで私たちが透明人間になったかのようだ。
青白い光が杖から放たれ、
水晶球の表面に複雑な魔法陣を描いていく。
そして、彼は深いため息をついた。
『……各地で魔力の異常が報告されていた。
発生源を辿ると、この奈落の縫い目に行き着いた』
彼の声が、神殿に響く。
重々しく、ひどく疲れ切った声だった。
『古い封印施設だとは知っていたが、
まさかこれほどの規模とは……。
封印の補強を試みたが、予想外の事態に直面した』
エストパパの言葉に、全員が息を呑む。
『この封印が……まさか、魔神族のものだったとは』
「「なッ!?」」「えッ!?」
辰夫と辰美が同時に素っ頓狂な声を上げた。
「……魔神族?」
私の言葉に、ツバキが包帯を震わせる。
「ククク……神に弓引く禁忌の存在……
なるほど、私の左目が疼くわけだ……
ねぇ?ヤバいって!帰ろうよ?」
「今それどころじゃないから静かにして」
私がジロリと睨んだ、その時だった。
「あれ? 魔神族って……ツバキ、私たちが前に戦ったやつじゃない?」
カエデがポンと手を打った。
「空にできた裂け目から、黒い手だけ出てきたやつ!」
「あ……!
そういえばアイツ、自分で『魔神』って名乗ってたわね……!」
ツバキがビクッと肩を震わせる。
「え? あんたたち、その魔神族と戦ったの!?」
私が驚いて振り返る。
「はい! 聖女様のビームと勇者様の投石、
そして私の『カメリア聖典』で撤退に追い込みました!」
ローザが無表情のまま、誇らしげに胸を張った。
「本で殴って追い返したの!? 魔神族って弱いんじゃ!?」
私が全力でツッコむ。
「……いや……我々が想像する魔神族とは、
何か違うのでは……?
それともカエデ殿たちが規格外すぎるのか……」
辰夫が一人で混乱し、頭を抱えていた。
『魔王の血では、魔神族の封印には対処できない。
術式が根本的に違う』
彼は一度振り返り、こちらを見つめた。
いや──正確には、未来の水晶球を見つめている。
『もし、将来エストがここまで来ることがあったら……』
エストパパの表情が、魔王の顔から、
父親の顔へと少し優しくなった。
『この記録魔法は血縁にしか反応しないようにしている……
エスト、この記録を見ているということは、
お前が成長したということだな……』
エストパパが深く息を吸った。
『……エストちゅわぁああああああん!?
ちゃんと野菜食べてるぅ?
パパずっと心配で心配でさぁーあー!?
世界滅ぼして帰ろうかなって、
何度も何度も考えちゃってさぁあああああ?
……いや。今はそれどころでは無いな』
「「「……は?」」」
全員フリーズ。
「パパ!?やめて!?みんな見てるからぁ!?」
エスト様が水晶の前で手を振り隠そうとする。
「はい、エスト様。今すぐ野菜を」
ローザが無表情でどこからかセロリを取り出した。
「え……セロリ嫌い……」
エスト様が首を横に振った。
「食ってる場合か! しまっとけ!」
私が全力でセロリを弾き飛ばす。
『すまない。お前に寂しい想いをさせてしまったのだろうな……』
「…………」
エスト様が、私の腕をギュッと強く握りしめた。
『父は、この場所を離れる。
魔神族を封印する別の方法を探すために』
彼の表情が、再び厳しくなる。
『古代の文献を調べ直し、
失われた封印術を探す。
時間はかかるだろうが……
だから、エスト。
もしここに来てしまったら、
無理をしてはいけない。
魔神族は、我々の想像を超えた存在だ。
お前一人で立ち向かえる相手ではない』
エストパパは、まっすぐにこちらを見据えて、力強く言った。
『必ず、解決策を見つけて戻る。
それまで……どうか無事でいてくれ』
──そして、彼の姿が光に溶けて消えた。
空間に静寂が落ちる。
(……“戻る”)
その言葉を聞くのは、今日これで二度目だ。
帰ると言って、帰らなかった人たちを──私は知ってる。
でも。
今の私には、ただ悲しんでいる暇はない。
エストパパは「別の方法を探すためにここを離れた」と言った。
ならば──彼はなぜ、戻ってこなかったのか。
魔神族とは、一体何なのか。
「……面倒じゃ済まないわね」
私は、消えた幻影の跡を睨みつけながら、アフロをかき上げた。
(つづく)